(承前)
1)どういう「読書会」?
私は定期的な読書会に参加しています。
この読書会がいっぱんと違うところは、その小説を観賞するというよりは(それも含まれますけど)、「小説を書く仲間」が集まって、各回でテーマを決め、プロの作家がそのテーマをどのように書いているのか、どのような工夫をしているのか、どのようなレトリックを駆使しているのか等を、持ちよったテキスト(小説の一部分)を皆読んだうえで、意見や感想を出し合うという形となっていることです。
いわば、小説書きとしての実践的な読書会、とでもいいましょうか。
これはなかなかに面白く、皆で感想を出し合うことで、気づいたり学んだりすることがとても多いのです。
2)直近の「読書会」で学んだこと~複数の人物の会話をどう書き分けるか?
さて、問題意識は、メンバーの一人から出されたもので、多人数の会話を描くとき、どうしても単調になりがちだし、分かりにくくなる。どう工夫したらよいのだろう? という悩みから始まりました。
参考文献として出されたもののいくつかを、長くなりますが引用してみますね。(分かりやすいよう人物名を太字にしています。)
(ここからが新規の記事です)
少し長めですが引用します。
参考文献③今村昌弘『屍人荘の殺人』のワンシーン
大学生たちの別荘でのバーベキューのシーンです。
学生たちが別荘でバーベキューを行っているシーンですね。
ここの登場人物の多さはすごいです。
登場順にまず並べます。
・高木
・出目
・星川
・名張
・明智さん
・立浪
・七宮
・下松
・新藤
・重元
・比留子さん
・静原
・江端
・葉村=俺=語り手
この作品は、トリックこそ斬新なものでしたが、わりとオーソドックスな本格ミステリーです。著者自身もそれを意識してこの一連のシーンの描写をしていると思われます。
(上)・(中)に比べると、多くの人物は出てきますが、それぞれの人物像やキャラクターはさほど重視されていないですね。誤解を恐れずにいえば、印象が薄いです。
それでいてこのシーンが面白いのはいかにも、という王道のミステリーめいた舞台装置がつくられ、そこで推理が繰り広げられる点。
つまりここでは、キャラクターの描写よりも舞台設定やミステリーの一種の定石を描写することに力が入れられていると思われます。
そう考えると、(上)・(中)とは明確な目的の違いを持って描写がされていることに気が付くと思います。
実際、ここですべてを把握できなくても、多くの伏線が貼られていることに、読者はのちに驚くことでしょう。
■最後に
ごく少数の例ですが、読書会を通じて気が付いたことを中心に書きました。
・会話を単なる物語の説明に終わらせず、上手にキャラクター(登場人物)たちの性格や関係性を示唆する。
・会話の中からテーマを浮かび上がらせる。
・会話のシーンもしっかりとした目的をもって書いていく。
こういうことを意識して、自分でも書いてみたいと思います。