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風の彼方へ
友人が先月亡くなった。
美化せず私の目に映ったそのままを話すとしたら、彼女は余計なことを話さない人だった。
その沈黙は我慢したり意図して作っていた様子はなく、とても自然なものだった。
臆病で怒りっぽくて、気難しいところがあった。人を容易く近付かせない雰囲気が、周囲の誤解を招くこともあった。笑うこともほとんどなかった。
ただ、私といる時は少し表情がやわらかいという話を周囲から聞いた。
私は彼女から好かれていると感じたことはないけれど、彼女も私のことを好きだったらいいなとそれを聞いて思った。
目が合うと少しだけ目を細めるのでその顔が少し微笑んでいるように見えた。
ある日の彼女の、風の吹く先を静かに見つめるあの眼差しを忘れない。
時間が彼女の存在をどんどん遠くへ押しやっていくのに、風が吹くと、彼女が目の前に鮮明に姿を現すことがある。
彼女のように余計なことを喋らないでいることなど私にはできないだろうし、できるようになる必要もないけれど、
でも辛いときほど思い出すかもしれない。
彼女ならどうするか考えるかもしれない。
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