秋の暮

後ろからスクーターが、前には人1人通れる程の線路を横断する道。酔いは抜けていたからちゃんとどきどきしていた。走れ!って駆け出して線路の真ん中で急に視界が開ける。たくさんの人が通り過ぎるだけの、誰も留まれない場所。想像もつかない遠い所へつながっている鉄の道に足を踏み入れ、頭の中の何もかもが無くなった気がした。左肩に一瞬感じた熱は、渡りきった時にはもう、逃げていた。

どんな気持ちで、

酔ってて気が大きくなっていたのかもしれない。どこまでも近くに寄れて、近くに見えて。それでも何も心に入ってこないような状態だったから出来たのかもしれない。私みたいに。でも右肩を掴んで一緒に走るような感じじゃなかった。袖の長いパーカーから手を出して左肩に触れたんだと思う。走る私を見て、抱きしめたくなるような気持ちの延長だったらいいな、なーんて。

秋の暮れが一番寂しいのは再三言っているけれど、ついにその時期になってしまった。完全に寒くなる前だから、余白があるから人に考える余地を与えるのだろうか。

夕暮れの時間に買い物をした。肌寒い空気の中、空は夏の濃さを忘れたみたいにすました水色をしていた。夕陽が気まぐれに道に影を落としている様子を友達と見た。恋人でも、異性でもないのに一緒にいてそれを見たら、ただの綺麗な景色となった。さみしくなかった。私たち二人で手を繋ぎ向かい合っているから、周りで勝手に季節を繰り返してくんないかな。

男2人の間に飛び込む勇気がなくて後ろを歩こうとしていたのに歩調を合わせて隣に来てくれた、当たり前のような優しさにさえ過敏に反応してしまう。

どこにいるのー?って酔いながら電話した時、よく聞こえなかったけどごちゃごちゃ説明されたあと、〇〇においでって言われたのが本当に良くてアンコールしてほしい。おいで、が良かった。

寂しさを抱えたままこうして年が明けるんだろうな。目を凝らして見ていようと思う。いままでとこれから。

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