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ウミガメに癒される 絶滅の危機に瀕したウミガメの保全活動をおこなっているバリ島サヌールの施設にて

  晴れ上がった日曜日の朝、自転車でサヌールビーチに行った。
まだ7時というのに、海水浴を楽しんだり、朝食のナシクニン
(ご飯をウコンやココナッツ・ミルクと一緒に蒸したものに野菜や肉の
おかずを添えたもの)を食べる人たちでごった返していた。
近所で米粉を使ったバリの伝統菓子を買うつもりで家を出たので、所持金は10,000ルピア(100円)だけ。それが10,000 ルピアの炭火焼きトウモロコシに変わった。

  バリ人の朝は早い。海水浴はまだ薄暗い朝の5時からで、日の出を
見ながら、まだ夜の冷たさの残る海に入る。次は私もそうしようっと。
  
  しばらく行くと、ウミガメの保全施設がある。日本ではかつて甲羅細工に利用され、いずれも絶滅の危機に瀕しているタイマイ、オリーブグリーンのアオウミガメなどが水槽で泳いでいた。怪我を負ったり、密輸されるところを保護されたという。見ていると、こちらに近づいて来た。お腹が空いているのだろうか。でも人間に対する警戒心はもともとないようだ。
 
 「ものすごく神秘的な体験だった」。ダイビングの最中、初めてウミガメを見た女友達は私に打ち明けた。気が付くとそばを優雅に泳いでいた1匹の大きなカメ。当時、人間関係で傷ついた彼女を抱きしめると、耳元で静かに、でも力強く「Let it be」と囁いたと。「神様の化身だったと思う」と彼女が真顔でそう話したのをよく覚えている。
 インドネシアで、こんな童話を読んだことがある。悪天候で漁船が沈み、漁師が無人島に流れ着いた。すると船を失った彼らの前に大きなウミガメが現れた。彼らはその背中に乗って島から脱出。陸地に着くと飢えていた彼らに向かって、カメは自分を食べろと言う。そして彼らは助かった。カメは神が自分たちを救うために出した使いだった。そんな話だったような気がする。
  さて、ウミガメは自分の生まれ故郷に戻って産卵をするという。サケのようだが、一生に1度ということはない。その話を幼い息子にすると「でも、子どもはママには会えないんでしょう」と実に寂しそうに言った。母ガメが一生に産む卵の数は5000個と多いが、そのうち大人になるのはわずか1個、0.02%の生存率だ。もし会えたとしても可能性は限りなく低い。
  「偉いなあ、よくここまで育ったね」保護施設の水槽で、黒い切れ長な目でこっちを見ながらぷかぷか浮いている彼らに言った。もう何年も前に、ローカルフードを出すレストランのメニューに、ウミガメの料理が載っていたが、今ではまずないだろう。宗教行事でも供物として使われることがあったが、それも珍しくなっている、との保全センタースタッフの言葉にほっとした。

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