放送局に転職することになったので、著作権法の放送関係のところを勉強してみた
本記事は、法務系Advent Clendar2021(#legalAC)のエントリーです。
Daisuke Nakajoh✌︎('ω'✌︎ )(@daisukenakajoh)さんより、バトンをいただきました。
掲題の通り、年明けから放送局の法務部で働くことになりました。
これまでのキャリアとしては、これが2回目の転職で、
1社目は放送局の子会社(IT系)、2社目はIT商社(と、勝手に私が呼んでいる。ビジネス領域がめっちゃ広い。)です。
最初こそ、放送局の子会社で働いてはいましたが、グループ会社の中ではIT系の領域をになう会社だったので、放送関連の法規制にはあまり接する機会がありませんでした。
加えて、今、法務仲間と著作権法の制限規定に関する勉強会をやっているのですが、
「え・・?『当該放送を受信して同時に専ら当該放送に係る放送対象地域(放送法(昭和二十五年法律第百三十二号)第九十一条第二項第二号に規定する放送対象地域をいい、これが定められていない放送にあつては、電波法(昭和二十五年法律第百三十一号)第十四条第三項第二号に規定する放送区域をいう。以下同じ。)において受信されることを目的として自動公衆送信』ってなに・・?」
ってなり、そういえば、放送局は著作隣接権者のひとりなのに、あまり意識して条文を読んでこなかったなと思い至りました。
自分の勉強メモの域を出ませんが、ご興味ある方は読んでいただけますと幸いです。
放送とは何か
放送の分類にはいくつかありますが、送信方法の違いからみた分類としては、
①地上放送
②衛星放送
③有線放送
④IP放送
があります。
めちゃくちゃ幼稚な絵ですが、こんな感じです。
34条、39条、40条の放送にまつわる記載が、何を言っているかわからない
(学校教育番組の放送等)
第三十四条 公表された著作物は、学校教育の目的上必要と認められる限度において、学校教育に関する法令の定める教育課程の基準に準拠した学校向けの放送番組又は有線放送番組において放送し、若しくは有線放送し、又は当該放送を受信して同時に専ら当該放送に係る放送対象地域(放送法(昭和二十五年法律第百三十二号)第九十一条第二項第二号に規定する放送対象地域をいい、これが定められていない放送にあつては、電波法(昭和二十五年法律第百三十一号)第十四条第三項第二号に規定する放送区域をいう。以下同じ。)において受信されることを目的として自動公衆送信(送信可能化のうち、公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置に情報を入力することによるものを含む。)を行い、及び当該放送番組用又は有線放送番組用の教材に掲載することができる。
2 前項の規定により著作物を利用する者は、その旨を著作者に通知するとともに、相当な額の補償金を著作権者に支払わなければならない。
(時事問題に関する論説の転載等)
第三十九条 新聞紙又は雑誌に掲載して発行された政治上、経済上又は社会上の時事問題に関する論説(学術的な性質を有するものを除く。)は、他の新聞紙若しくは雑誌に転載し、又は放送し、若しくは有線放送し、若しくは当該放送を受信して同時に専ら当該放送に係る放送対象地域において受信されることを目的として自動公衆送信(送信可能化のうち、公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置に情報を入力することによるものを含む。)を行うことができる。ただし、これらの利用を禁止する旨の表示がある場合は、この限りでない。
2 前項の規定により放送され、若しくは有線放送され、又は自動公衆送信される論説は、受信装置を用いて公に伝達することができる。
(時事問題に関する論説の転載等)
第三十九条 新聞紙又は雑誌に掲載して発行された政治上、経済上又は社会上の時事問題に関する論説(学術的な性質を有するものを除く。)は、他の新聞紙若しくは雑誌に転載し、又は放送し、若しくは有線放送し、若しくは当該放送を受信して同時に専ら当該放送に係る放送対象地域において受信されることを目的として自動公衆送信(送信可能化のうち、公衆の用に供されている電気通信回線に接続している自動公衆送信装置に情報を入力することによるものを含む。)を行うことができる。ただし、これらの利用を禁止する旨の表示がある場合は、この限りでない。
2 前項の規定により放送され、若しくは有線放送され、又は自動公衆送信される論説は、受信装置を用いて公に伝達することができる。
「放送」と「有線放送」はわかりますが、念仏のように登場する「当該放送を受信して同時に専ら当該放送に係る放送対象地域において受信されることを目的として自動公衆送信」とは、なんでしょう?
はい、これが、「IP放送」を意味しています。
「IP放送」は、厳密には「地上デジタル放送IP再放送」といいます。
「IPTV」と呼ぶこともあります。
IPマルチキャストという手法を使っているので、「IPマルチキャスト放送」とも呼ばれます。
IP放送とは
条文の記載と、前述の(稚拙な)絵を、もう一度見比べると、
当該放送を①受信して同時に専ら当該放送に係る②放送対象地域において受信されることを目的として③自動公衆送信
こんな感じです。
①受信して、②放送対象地域において、③自動公衆送信しています。
IP放送は、再送信にあたりIP(インターネット・プロトコル)を使っていますが、著作権法上は「通信」ではなく「放送」に分類されます。
IP放送は、2005年当時の総務大臣竹中平蔵の「なぜインターネットでテレビが見られないのか」の発言により、議論が加速したといわれています。
ちなみに、令和3年の著作権法改正では、IP放送は新たに「特定入力型自動公衆送信」と定義づけられることになります。
なんというか・・・学習者をますます迷路に迷い込ませる定義ですね・・・。
44条の存在意義がわからない
(放送事業者等による一時的固定)
第四十四条 放送事業者は、第二十三条第一項に規定する権利を害することなく放送することができる著作物を、自己の放送のために、自己の手段又は当該著作物を同じく放送することができる他の放送事業者の手段により、一時的に録音し、又は録画することができる。
2 有線放送事業者は、第二十三条第一項に規定する権利を害することなく有線放送することができる著作物を、自己の有線放送(放送を受信して行うものを除く。)のために、自己の手段により、一時的に録音し、又は録画することができる。
3 前二項の規定により作成された録音物又は録画物は、録音又は録画の後六月(その期間内に当該録音物又は録画物を用いてする放送又は有線放送があつたときは、その放送又は有線放送の後六月)を超えて保存することができない。ただし、政令で定めるところにより公的な記録保存所において保存する場合は、この限りでない。
44条の定めるところは、放送事業者・有線放送事業者が、著作物について放送・有線放送の許諾を得ていれば、別途録音・録画(複製)の許諾を得ずに、放送・有線放送のために一時的に固定(複製)してもよい、という内容です。
放送番組は、事前に収録して放送することが多くあります。
公衆送信(23条1項)と複製権は別の権利なので、本来、放送・有線放送することの許諾とは別に、録音・録画(複製)の許諾を得なければ収録することはできないはずですが、このように定めることによって、放送事業者は一時的ではありますが、録音・録画が可能です。
いわば「優遇」を受けているといってもよいでしょう。
このような「放送だけに許される権利制限」があるため、あるサービスが「放送」なのか「通信」なのかを議論する実益があるのです。
99条は、1項はわかるが、2項はわからない
(再放送権及び有線放送権)
第九十九条 放送事業者は、その放送を受信してこれを再放送し、又は有線放送する権利を専有する。
2 前項の規定は、放送を受信して有線放送を行なう者が法令の規定により行なわなければならない有線放送については、適用しない。
ここでいう「再放送」は、私たちがイメージする、一度放送した番組を繰り返し放送する「リピート放送」のことではないことに、注意が必要です。
「再放送」とは、他の放送事業者の放送を受信して放送することをいいます。
1項にて、かかる再放送と有線放送の権利が放送事業者に専有されたわけですが、2項にて、有線放送事業者が有線テレビジョン放送法に則って有線放送することについては、放送事業者の有線放送権が働かない、ということを定めています。
99条の2は、1項はわかるが、2項がよくわからない
(送信可能化権)
第九十九条の二 放送事業者は、その放送又はこれを受信して行う有線放送を受信して、その放送を送信可能化する権利を専有する。
2 前項の規定は、放送を受信して自動公衆送信を行う者が法令の規定により行わなければならない自動公衆送信に係る送信可能化については、適用しない。
1項では、放送事業者が送信可能化権を専有することを定めていて、これはわかるのですが、2項は、手元の書籍等からはイマイチよくわかりませんでした。
IP放送のことをいっているのかなと思うのですが、もうちょっと調べて後日補足しようと思います。
100条は、わかる
(テレビジョン放送の伝達権)
第百条 放送事業者は、そのテレビジョン放送又はこれを受信して行なう有線放送を受信して、影像を拡大する特別の装置を用いてその放送を公に伝達する権利を専有する。
これは、条文記載の通りです。
あえていうなら、「影像を拡大する特別の装置」は、巨大スクリーンとかを指すそうです(「特別の装置」っていう表現、なんかすごいですね。)。
まとめ
改めて勉強すると、著作権法ってほんと難解だなと思います。改正も多いし。
実は、次の職場では、著作権法を正面から扱う担当ではなさそうなのですが(著作権に関する専門部署が別にある。)、アドベントカレンダーのお題にしたことで、よい勉強になりました。
次は、kyoshimineさんです!
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