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FEAR FACTORY『Aggression Continuum』及び近未来派バンドの近未来について

伝説的インダストリアル ヘヴィメタルバンドFEAR FACTORYが6月18日に10枚目のアルバム『Aggression Continuum』をリリースした。前作『Genexus』から6年ぶりとなる。

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このバンドへの思い入れはかなり強いので今回はかなりの長文になってしまうと思うがお付き合い頂けると幸いである。

今回の記事は3つの章からなる。

①新作『Aggression Continuum』レビュー

②FEAR FACTORYについて思うこと

③今FEAR FACTORYに起きていること


ではまず新作『Aggression Continuum』のレビューから。

結論から言ってしまうと今作も相変わらずのFEAR FACTORY節。

彼らのトレードマークたる「激烈リフとバスドラの高速シンクロ」「咆哮と憂いを帯びたメロディアスな歌唱の融合」「近未来的シンセ、キーボードの差し込み」がしっかり刻印されている。

『Archetype』(5th/2004年)以来続く自らの略称FFを表現したジャケットも健在だし、もはや正式メンバー以上の貢献を長年しているRhys Fulber(programming, keyboard arrangement)もバッチリ参加している。

近年のフィアファクを追ってきた方なら今作も十分満足できるだろう。

現時点の個人的な好み曲は以下。

3位「Disruptor」

邪魔者を意味するタイトル。詳しくは後述するがフィアファクが現在おかれている状況を考えるとこのタイトルには意味深なものを感じざるを得ない。何しろギタリストのDino Cazaresは2000年初頭にバンドを追放された時に立ち上げたバンドDivine Heresyで『 Bleed the Fifth』(「5枚目に流血を」の意。Dinoを追い出した後にバンドが発表した5枚目のアルバムへの当てつけである)とブチあげた人物である。今回その対象は1人の男に向けられていると思われる。ああ執念深い男Dino Cazares。

2位「Manufactured Hope」

まだ歌詞を読み込めていないが、今みたいにITが発達・浸透するよりはるか前の90年代から機械化された人類のディストピアを描いてきた彼らがここにきて、そこにHope=希望を見出したのは何とも興味深い。

何より、「Manufactured」という単語が名盤『Demanufacture』を彷彿とさせてニヤリとさせられる。

1位「Monolith」

今作の初期アルバムタイトルは確かMonolithだったと思う。それだけ出来栄えに手ごたえを感じていたのではないだろうか。

一定のクオリティを保っていると言えば聞こえはいいがある意味金太郎飴状態にも陥っている近年の楽曲においてこの曲は特にメロディラインが印象的で明確なキャラ立ちがなされていると思う。

PVが公開されている3曲のURLを貼っておこう。


それでは2つ目のテーマ、「FEAR FACTORYについて思うこと」に入っていこう。

FEAR FACTORY。30年に及ぼうとしている活動歴を持つこのバンドについて考える度に思う事がある。それは「このバンド、天下をとれるバンドだったのになあ、、」というものである。

誤解のないように言っておくと僕はFEAR FACTORYが大好きである。

もちろん全アルバムを聴いているし今回の新譜リリースも当日を心待ちにした。

これまでにリリースした作品も常にレベルは高かったしシーン全体に与えた影響は計り知れないものがある。


だがどうだろう。


今月出た新譜は世界で、日本で、どれだけ話題になっている?


ここ10年の彼らの作品から名曲をすぐに数曲あげられる人はどれだけいるだろうか。


2015年には名盤『Demanufacture』(2nd/1995年)の完全再現を謳った来日公演が計画されていた事をご存じだろうか。

僕は確かチケットまで買ったと記憶している。

だがこの公演は明確な理由が発表されないままにキャンセルとなってしまった。

一説によるとチケットの売れ行き不振が原因だったらしい。それ以来彼らの来日公演は今に至るまで実現していない。


一体なぜこんな事になってしまったのか。


好きであるがゆえにはっきり言わせてもらうが原因は「自滅」だと思う。


彼らのピークは販売数だけで言うと『Digimortal』(4th/2001年)である。だが作品のクオリティならば『Demanufacture』(2nd/1995年)だったと言わせて頂く。『Demanufacture』を上回る作品を、残念ながら今に至るまで彼らは出せていない。

正確に言うと彼らは20年以上前に自身が『Demanufacture』で生み出した以上の「発明」を出来ていない、という事だと思う。

ただその発明があまりに素晴らしかった為に、僕も含め一定数以上のリスナーが今も彼らを追いかけているのだ。

彼らが『Demanufacture』で成し遂げた事をもっと突き詰めていたら、ひょっとするとメタリカ、パンテラに次いでメタルシーンの制覇と一般層への浸透を実現していたのではないか。


結果としてその地位についたのはKoЯnでありSlipknotである。


しかし思い出してほしい(いや、知らない人の方が多いのか)。

KoЯnとSlipknotを世に送り出した名プロデューサー ロス・ロビンソンがそのキャリアをスタートさせたのはフィアファクの幻の1st『Concrete』(1991年)である。

ロスはこの音源を各所に売り込んで自身の手腕をアピールし、KoЯnを手掛けSlipknotを送り出したのだ。

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『Concrete』の出来に満足せずお蔵入りさせたのはバンド側である。

この辺りは運命の残酷さとしか言いようがない。

そこも含めて、このバンド「自滅」なのである。

だがこの時点ではまだまだ可能性は残っていた。何しろ正式な1st『Soul of a New Machine」(1992年)と2nd『Demanufacture』をプロデュースしたのはColin Richardsonである。

Colin Richardsonと言えばナパーム・デスやセパルトゥラを手掛けたグラインドコア、デスメタル界の名プロデューサー。フィアファクの出自がLAのグラインドコアシーンだった事を考えれば極めて真っ当なチョイスだったと思う。

ロス・ロビンソンのプロデュース作品の特徴は生々しさ。いかにロウなインテンスをレコードに収めるか、である。

当時フィアファクが求めていたのはもっとカッチリとした音像だった。それが革新的な2nd『Demanufacture』を生んだのだ。

だから、今思えば機会を逸したに思える「幻の1st」事件は、明確な意思を持ってキャリアを突き進めたバンドの思いとしてむしろ評価できると思う。


話を戻そう。


『Obsolete』(3rd/1998年)はまだその可能性を十分感じさせるものだった。個性はそのままに大衆性を纏おうとする姿勢はOKだし進化があったと思う。

だが続く『Digimortal』が頂けなかった。

一番売れたアルバムがイコールで一番良い作品ではない、というのはメタル愛聴家の方なら理解頂ける事と思う。

それは前作、前々作の評価が後追いで表出したにすぎないのだ。

『Digimortal』は当時ブームとなっていたニューメタルに明らかに擦り寄っていたし、「売れたい」というのが露骨に出すぎていた。一応言っておこう。「Linchpin」は好きだ。でもそれ以外は正直キツい。

ありがちな話だが、売れ線を狙った作品を作る時には大抵メンバー間で軋轢が起きる。原理主義者と革新派の衝突である。

結果、フィアファクに起きたのは空中分解。

一番外してはいけないDinoを追放。

形ばかりの疑似解散をしてからバンドはDino抜きで再結成。

この時点で彼らが天下をとる可能性は消滅した。

『Archetype』(5th/2004年)『Transgression』(6th/2005年)では 全体的に腰砕けの楽曲が続き、U2をカヴァー(おそらくバートンの趣味嗜好)したりとズブズブと地盤沈下していく。

いや、別にU2に他意はないがフィアファクがそれをやる意味があるのか、という事である。

一方でエクストリームメタルシーンではKoЯn、Slipknotといった新顔が隆盛。また、フィアファクと同時代にデビューし、同じように自滅しかけていたマシーンヘッドが『Through the Ashes of Empires』(5th/2003年)で息を吹き返していた。

ここが決定的な分岐点だった。

『Mechanize』(7th/2010年)でDinoが復帰するも時すでに遅し。非常に良い作品だったが旬を過ぎたバンドという印象を払拭するには至らず。


最後に、今フィアファクに起きている事について書いておこう。

今回の記事の表紙にあげているバンド写真をよく見てほしい。

ここにヴォーカルのバートン・C・ベルはいない。

そう、唯一フィアファクの全アルバムに携わってきたバートンはいまやバンドに在籍していないのだ。

バートンは脱退した。

それもディーノと喧嘩して辞めた。

最悪なのはここからである。

バートンは語る。

「そもそも2010年にディーノとの活動を再開したのはお金の為。なんせ おれ、自己破産してたからね。」

「ディーノとはマジで合わねえ。やってらんねえ。」

メディアに煽られた部分もあるのだろうがこれがバートンが残した言葉である。

離婚と再婚を繰り返すイタいカップルかよ。

今回の新作は2017年にはほぼ完成していた。それが今月までリリースできなかったのはバートンとディーノの間で裁判沙汰が勃発していたからである。

前述した「Disruptor」=邪魔者 というタイトルはディーノがバートンに向けて発したメッセージなのでは、と勘繰ってしまう。

また、あえてここまで一切言及してこなかったが全盛期のメンバーであるRaymond Herrera(ドラム)とChristian Olde Wolbers(ベース)はFEAR FACTORYというバンド名の使用に対して裁判を起こしている。

バートンとディーノがここ10年フィアファクとして活動しているので一定の解決はしているのかもしれないが、もはや何重にも重なり、捻じれてしまったバンド。

まさに自滅。

バンドは目下新ヴォーカルを選定中である。

だが果たしてバートンの穴を埋めるヴォーカルなどいるのか。

仮に、単純な歌唱力においては代わりがいたとして果たしてそれはフィアファクなのか。

好きなだけに辛辣な内容になってしまったが、ひいき目抜きで今回の新作は良作だしこれからも追っていきたいと思っている。

フィアファクについて語ったポッドキャストも是非聞いて下さい。


このバンドが実現していたかもしれないもう1つの世界線に思いを馳せた時にどうしても切ない気分になってしまう事は改めて強調させてもらい、この記事の締めくくりとさせて頂きたい。




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