ロックのおともだち 玉川温泉

秋田の山奥に、玉川温泉がある。秘境温泉と言っても差し支えないだろう。一体、この温泉地の何がロックなのか。

大気中の酸が、精密機器をぶっこわす

玉川温泉の源泉である大噴 (おおぶき) は、産出する温泉水の量が無尽蔵。さらにその温泉水の酸性度が、日本一の高さを誇るのだそうだ。源泉が吹き上げる酸は空気中に充満し、鉄をじわじわ腐食する。例えば、玉川温泉と新玉川温泉の間で温泉客をピストン輸送するバンの土手っ腹を、赤茶けた錆で侵食してしまう。そして、建物の外階段をも錆だらけにしてしまう。長い年月を要することとは言え、そこにいるだけでカタストロフを実感するのがこの地である。

スマホなども、持ち込むと同様の腐食の憂き目に遭うそうである。不慣れな土地にスマホなしで踏み込むなど、全裸同然の丸腰気分であるため、やおらジップロックによる武装を試みるも、さてその腐食厄災の根本原因である大噴の迫力を目の前にするに、思わずジップロック武装を解き、その猛り狂う怒涛を撮影するという愚挙に出てしまう。この大噴と呼ばれる源泉は、かように大気とビジュアルと音声を制圧し、危険を冒してでも記録しなければならないと思わせる迫力がある。ほんとまじで、壊れないでねおいらのiPhone。使い方が荒くて申し訳ないんだけどさ。

硫化水素って、吸うと死ぬの?

山肌に白煙がたなびく。白煙の源は、大噴からほど近いガレ場に開く、ガスの穴だ。穴は蛍光色の硫黄に縁取られ、休みなく吼えている。がおーがおーと。あまりに安定したがおーっぷりに、中になんか機械でも入ってるのかと覗き込みたくなる。もしくは閻魔さまの手下がふいごを踏み続けているのか。うっかり覗き込んだら最後、濃い硫化水素やら二酸化なんやらでやられて、皆さまとおさらばかしら。頭上の青い五月晴れがぽかんとのどかだが、足元は地獄だ。

人々はこのすぐそばで、地熱の恩恵に預ろうと岩盤浴にいそしんでいるのである。試したところ、ゴザを介してじんわりとした熱が伝わってきて心地いい。ラジウムとかいろいろ難しげな効能はよくわからないが、ただ座っている地面があったかいのは単純に嬉しい。硫化水素はやって来てるけどね。

キッチン用ハイターって酸性だっけ。ここの風呂も高酸性なのね…

玉川温泉は、大噴の温泉水を電気を使って人肌にし、大浴場に引き込んで湯治に供しているそうで。高い酸性を保つ温泉が味わえる。人間の出てるとこ引っ込んでるとこがピリピリするお湯だ。

当方の4.5日間に及ぶ実体験では、以下のような影響が認められました:

- 手指先の角質がどっかに行った。
- 首からデコルテの湿疹が顕在化した。
- 右足甲の亀裂骨折痕が一瞬うずいた。
- お小水の回数が増えた。
- 食欲が増し、タンパク質を欲した。

それから、4.5日滞在した結果、己の湯治スタイルも作ることができた:

- 44度のあつ湯で、額に汗するほど足湯すると満足を得られる。心臓がバタつくのが嫌いだが、熱い湯は好きなので、これベスト。
- 源泉50%と弱酸性風呂を行き来すると、出てるとこひっこんでるとこのピリピリが回避できるため、長居できる。
- 浴槽そばの水道水は、水分補給のため積極活用。ごくごく飲む。
- 浴衣をバスローブ替わりに多用させていただく。玉川温泉の大浴場前にあるリネンコーナーはありがたい。

次はいつ行けるかな、山奥のロックな温泉に。

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