雨の中、上を向いて口を開けた


雨の中、上を向いて口を開けた

口の中に雨が満タンになれば良いなと思いながら頑張ってみる

しかし、なかなか貯まるもんじゃない

その上、ある程度貯まって来た所で

「かはっ」と、むせてしまったりする

振り出しにもどる

諦めて途中でやめにしようかとも思った

いつもそうだ、オレはすぐに投げ出す癖がついている

そんな自分に嫌気がさしていた

今日は自分に勝つ

そう唱えながら、また上を向いて口を開ける

「かはっ」またむせた

負けない、また上を向いて口を開ける

「かはっ」

悔しくて泣いた

涙が出ていたかは雨で分からない

このままじゃ、こんな中途半端なオレのままじゃ大切なものも守れない

「ウォー!」1度大きく空に向かって叫んだ

そして今一度、上を向いて口を開けた

感じろ、直径10センチ程の穴に1ミリほどの雨粒を招き入れろ

じっくりと、目を閉じて

少しずつ貯まる、口の中に波を感じる

もう一息だ

と、そこに近くを通る女性の声が聞こえてくる

2人で歩いているようだ

見たい、女の子を見たい

オレは女の子が好きだ

見たい

しかし見てしまうと、口の中の雨が溢れてしまう

せっかくここまで貯めたのに

いや、オレは見ない

オレは女の子を見ずに、口に雨を貯めるのだ!

オレのこの決心は、オレを大きく成長さしてくれるはず

と、そこに女の子の会話がうっすら聞こえた

「…ブラがさぁ…」

溢れた

なんかピンク色のフレーズが聞こえたら、反射的に見てしまう癖が出た

悔しい

悔しい

見てしまったついでに、女の子の顔も見れたらと思ったけどすでに後ろ姿だった

だから一旦女の子を抜かして
「あっ、こっちじゃなかったわ」と、方向転換するついでに顔を見た

そこまでしたのが悔しい

不甲斐なさが凄すぎてなんにも考えられない

例のごとく涙か雨か分からない

とりあえず、上を向いて口を開けた

無心だった

どれくらい時間が経ったのだろうか

もうすぐ、口の中が雨で満タンになろうとしていた

それに気づくとドキドキしてきた

もう「かは」るわけには行かない

慎重に鼻で呼吸をする

慎重に慎重に

そう思うが、今までの困難がオレを熱くさせる

もうすぐ満タン

もうすぐ満タン

涙が流れる

もうすぐ満タン

涙が?

流れる?

頬をつたうのがわかる


雨、あがってんじゃねぇかよ

「かはっ」

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