佐用▶︎姫路

兵庫県佐用町から東京へ電車で帰ることになった。

佐用駅に入るとそこにはIC改札がなく、無人改札機の右手に券売機があった。その券売機を見ると、『智頭急行』（ちずきゅうこう）という文字があったので、あーここで買えばいいのかと、事前に乗換案内で見て軽暗記していた通りに買おうとしたら、16個くらいある行き先ボタンの中に『姫路』がない。

券売機の上に案内板があり、『JR線をご利用の方は後方の券売機をご利用ください』とあったので、回れ右をすると、JR線の券売機があった。あーこっちで買えばいいのかとその券売機は智頭線券売機にような自販機みたいなボタンではなくタッチパネルで少し安心しながら『ひ』をタッチし『姫路』をタッチすると、『860円』と出た。

ん？智頭急行500円とJR590円の計1090円より安い？まぁそんなもんか。別々で買うよりセット割みたいなもんか。肩組んで消費者にとってより良いサービスを、か、と自分に言い聞かせというかもうあと3分とかで智頭急行が来ちゃうのでえいっ！と860円を投入&購入。切符を握りしめてホームへ向かおうと無人改札をスルー（切符を入れるところもない）して渡り廊下を進むと、奥突き当たりの壁（左右に登り階段がある）には『JR姫路行はこちら⇦⇨』、手前の右手登り階段には『智頭急行はこちら⇧』と書いてある。

マジでどっち？？？？？？

とりあえずJR券売機で買った切符を持っているので奥だろうとホームへ登ると、誰もいない。怪しいし時間もないので早歩きで引き返し智頭急行のホームへ登ると人が7人くらいいたのでたぶんここだろうとひと安心。待っている間にホームの路線図と運賃表が一緒になったやつを見てると、姫路までの運賃と手持ち切符の額面金額が一致しない。『1090円』って書いてある。あれ？いま一度、乗換案内のスクショを見返す。

500円＋590円で、1090円やん。

ってことはこれ間違えてるな。ってゾワッとしたと同時に1両編成の『ワンマン』と書かれたおもちゃみたいな電車がホームへ到着。全く僕の立っているとこまで届いておらず、小走りで2車両分くらいして、乗ろうかいやでも間違えてるっぽいぞ高確率でと迷っているうちにいやでもこれ乗らんかったら新幹線に間に合わーん！と乗ってまえ精神で乗ってまった。

なんか乗れば乗るほどに間違いが確信に変わっていく。なんか『ワンマンのときは乗車券をお買い求めの場合でも整理券をお取りください』って書いてあることに1駅超えた時点で気付いて取り返しがつかないし、そもそも僕の持っている乗車券はJR乗車券で、智頭急行に乗る権利をおそらく有していない。なんか降りるときに乗車券と整理券を同時に入れるっぽい。終わったかこれは？まぁ降りるときに運転手さんに聞けばいいか。

『ワンマンの際は走行中に運転手に話しかけるのはお控えください』

どっかに視線をやるのが怖くなってきた。全ては神のお見通しで、お前はキセル野郎だこのあとこっぴどく怒られるんだと言われているどこか懐かしい中学のとき間違えて小学校の水泳帽を体育前の着替えで気付いたときのようなノスタルジーさえも覚えた。

乗換案内の通り18分で上郡（かみごおり）駅に着き、終点なので前よりの扉の前で運転手が切符と整理券を目視しますみたいなアナウンスが聞こえた。とりあえず後ろに迷惑だけはかけまいと座り位置のままの最後尾につき、なるべく申し訳なさそうな顔を作りながらこれあるあるであってくれ間違えますよねぇわかりにくいですよねぇであってくれとそれだけを願いながら

あ、すみませんたぶんこれ間違って買っちゃってぇ…

はい、あー、なるほど、これは、姫路まで行くんですよね？はいはいはい、えっと、少々お待ちください、計算し直しますので。

と意外や意外イレギュラーっぽい反応に恐縮しながらしかも運転手さんはワンマン電車を残してホームの階段を降りて上郡駅の受付の部屋に入っていった。終点じゃなかったらこれどうしてたんよ&いまこの隙にワルイージみたいなやつが「ヒッヒ〜」って言いながらワンマン電車を窃盗暴走されてもしゃあないで全て僕の失態のせいでと頭をぐるぐるさせながらしばらく待つと追加で230円ですと言われ、言われるがままに230円をちょうど渡し、同時に頭で860円＋230円は1090円はいはいやっぱりね乗換案内は正しいねと確認しながら、ペラペラのおよそ改札機に入れようなどとは人であるなら思わないペラペラの薄ピンクの見たことないあぶらとり紙みたいな紙をゲットし、それを見ると案の定『改札機は通せません。係員にお見せください』と書いてあった。

あ、1番乗り場ですので！

と最後の最後に行きかけてプチ引き返してまでのご親切の釘刺しをいただき、確かに切符を買い間違える人間は乗り場も間違えるよなーと深く感謝のペコペコをしたあと、1番乗り場へ向かって35分後に到着したJRを乗り継いで姫路駅に着いた。

姫路駅の新幹線改札の窓口のおねいさんにさっきのペラペラの紙を渡すと、受け取るや否や額（ひたい）とほっぺとあごにトントンとし、

見てー

と油まみれの紙を見せてきた。新幹線には乗れなかった。姫路で誰か泊めてください。って泊めてくれた人と結婚しました。娘が最高裁判長になりました。人生なにがあるかわかりまへんね。