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「全塗装いくら?」に思う事

「全塗装っていくらですか?」
というお客さんからの質問、自動車の鈑金塗装をやっている事業者さんは必ず一度は受けたことのある質問だと思います。

お客さんからすれば、単に悪気無く気楽で素朴~な疑問のつもりな場合がほとんどだと思いますが、全塗装専門店ではないお店側からすると「え!?」となってしまいます。

なぜかというと
「良く分からないあやふやな問いに、値段を付けないとならない」
からです。
聞いたお店側は、
「このお客さんは全塗装してもらいたいみたいだけど、一体どこまでやりたいんだろう?」
という疑問がまず浮かびます。


序盤に言っておくと、最も金額的に安い全塗装は、新車の状態で同じ色に全塗装する事です。だって、傷も、凹みも、劣化も、汚れの蓄積も無く、外したら壊れるパーツも最小限で済みますし、表面を足付けだけすれば最小限の塗料で塗装できるからです。要するに手間も部品代も材料代も最小限で済むわけです。

これが最安の全塗装の内訳です。

ところが、当たり前ですが全塗装を希望する人のほとんどが上記とは真逆の車を全塗装してほしいと来ます。
凹みや傷があり、上面は劣化していて、部品を外せば割れて壊れるし、土や埃が溜まりまくった状態の車を全塗装したい!と思っているのですから、それはそれなりにお金がかかると考えるのが普通なんじゃないでしょうか。
そもそも経年劣化や傷凹みが気になるから思いきって全塗装したい。という考えが出てくるんだと思いますが。

なので、全塗装の最安は新車の時で、そこから年月が経つほど全塗装代は上がっていくと考えておけばよいと思います。

さて、ただ漠然と「全塗装いくら?」と聞かれても困るのは、
病院に行って「治していくら?」とだけ言っているのと同じで、
どこを治すの?どこが具合が悪いの?具合悪いんだったらいつから具合悪いの?どの程度治ればいいの?
を自ら具体的に相手に伝えないと、さすがの医者も治療の見当がつかないのと同じです。

クリア層の経年劣化による白化。特にルーフ・トランク・フード等上面は紫外線が当たる時間が多い事から劣化の進行が速い傾向がある。
フードの劣化した塗膜をサンドペーパーで平らに削り落とす。
その作業だけで5時間程度かかりました。
上塗り塗装

なので「全塗装いくら?」と聞く前にどういう全塗装を自分はやりたいのか?をめっちゃ具体的に考えておく必要があります。
考えたり調べる前に聞いちゃおう。というのも分からないではありませんが。
その考えを持って

「こういう全塗装を考えていますが、どのぐらいの予算が必要ですか?」

と伝えればお店側もその考えを受けて出来る事出来ない事、修理内容や金額を丁寧に答える事ができるんじゃないでしょうか。

だって家を買うときに住宅メーカーや工務店に行って「家いくら?」って言いませんよね。自分の家族構成や間取り、何部屋欲しいとか最低限伝えるじゃないですか。
そういう最低限の情報がお客さん側から得られて初めて、こういう家がスタンダードでオススメですよ。とか、こういう感じにしてみるのもいいと思います。そのぐらいであれば価格はこのぐらいです。という風に提案出来たり、より具体的な要望を引き出すことができますよね。二階建てが欲しいのか、平屋なのか、広いのか、狭いのか。など条件次第で金額は天と地ほど差が開きます。全塗装もこれと同じです。

全ての要望を盛り込めば盛り込むほど当然金額は上がっていきます。

ルーフも劣化塗膜を削って取り除き、新しく下地塗装の為のマスキング。
上塗り塗装

全塗装に値段を付けるためにはお客さんが、どういう想いがあって全塗装したいのか?目立ちたい、リフレッシュして新車のようにしたい、色を変えたい、目に見えるところは全て塗りたい、予算は?など、どう考えているのかを具体的により詳細に教えてもらい、その結果を反映させた見積もりを作成する必要があります。
そのため、同じ車種で同じような程度の車であってもお客さんが変われば金額も変わるのが全塗装の普通です。

金額の差は仕上がりに対するお客さんの考え方や好みが一人ひとり違うためです。

こちらは出来るだけ要望に応えらるように技術を提供します。そしてその対価としてお金を頂きますが、同時に修理しながら起こるであろうイレギュラーを共に解決していく。という姿勢もお客さん側に求められます。

ですから、お客さん側もお金さえ払えばお店が全てやってくれる。というような丸投げスタイル全開の人は基本全塗装に向いていません。
自分は断ります。
それなりに大規模な修理になれば必ず見積りでは拾いきれないようなイレギュラーが幾つも出てきます。
鈑金塗装のプロでも実際に修理を始めてみなければ分からない事がたくさんあります
なので、事前の見積もり額と修理後で金額が変動することがある方が普通です。

もちろん事前に説明はしますが、表面からは見つけられないような錆、外しただけで壊れてしまう部品、過去の修理跡、廃版になってしまい正規ルートからは入手できないパーツなどイレギュラーは車が古ければ古いほど、より丁寧に繊細に修理すればするほど出てきますから、その都度お客さんと相談しながら修理を進める必要があります。
その時に「金払ってんだからやれよ!」みたいな人はお断りという事です。
全塗装というのは予期せぬ追加の修理が発生するものだ。という理解がお客さん自身に無いと、全塗装は必ず頓挫します。

納車時になんか思ってたのと違う。という事の責任の半分は、お金を支払うだけで修理に協力しなかったお客さん側にある。という事です。

さあ、どうですか?全塗装したくなりました?それとも止めようとおもいました?
全塗装の考え方は、お店によっても異なります。ある程度の車格で料金表にしていたり、フルオーダーのようなこだわりの全塗装があったり。
いずれにしても自分の身近に相談できる車屋さんや鈑金塗装店を見つけて普段からいい関係を作っておくことがスムーズな全塗装への近道です。
せっかく愛着のある車を全塗装しようとしているのであれば、この人だ!とお任せ出来る職人さんがいれば心強いですから。

それでは👋




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