格安全塗装のからくり

全塗装10万で!はたまた5万で!
というような触れ込みで格安全塗装を施工してくれるお店ありますよね。

20万30万でも激安の部類ですが、様々な物の値段が上がっている現在、鈑金塗装業界でも人件費に加え塗料や副資材の値上げが続いています。
ちなみにモノの値段てスーパーやコンビニ、その他の商店で買えるような商品の値段だけだと思ったら大間違いです。
人に払う給料だって立派な物の値段です。つまり給料は人の値段ともいえます。
そんな中どうしてそんな格安全塗装ができるのか?を考えてみました。

全塗装を安く施工してくれるなら、お客さん側からすればこんないい事はありません。
でも自分は鈑金塗装を生業にしている立場で言うとあまりに格安過ぎるのは害でしかないなと思います。
利益が少しでも出るのであればいいですが、10万は愚か、30万程度でも利益が出るどころか単なるマイナスにしかならないからです。

後にも書きますが余程資本力があって鈑金塗装を無料サービスメニューのような位置づけで見ている経営者もいるかもしれません。
当の経営者本人は鈑金部門からの利益が無くてもお客さんが喜びさえすればいい。
なんて考えかもしれませんが、現場の人間にとっては最悪でしょうね。
雇われて言われたことだけやって給料もらえれば楽じゃん。勝ちじゃん。なんてことを度々聞きますが、自ら稼ぐという意識のないような奴はゴミです。
そんな人に全塗装やってもらいたいなんて人は居るんでしょうか?

やはり利益あってこその商売だし、利益があるから給料や無料代車とかタッチペンなどのサービスの充実に反映出来るってもんじゃないですか。
大盛格安飲食店のような仕事は避けなければいけないんじゃないのかな?

本来やるべきは、いかに自分の仕事を高い価値を付けれるか?それを売れるか?に注力することで、安売りではないはずです。

先日こんな話を聞きました。
海外では物の価値をどう判断するのか?
それは単純明快で、

いい物=高い
安い=低価値な物

だそうです。
それに対して日本は長らく続いたデフレもあり、
いい物をより安く
というような考えが蔓延しすぎてしていると思いませんか?
そのせいで、いかに安く原価に近く買えることが正義みたいになってしまっています。
鈑金塗装を取ってみても、部品代のような定価が動かせないものは値切れないとわかっているから、工賃を少しでも値切って安く鈑金塗装してもらおう。という考えの人が後を絶ちません。

なのでハッキリ言います。

鈑金塗装は値段=価値です

特に過去の自動車修理の業界は低賃金長時間労働を絵にかいたようなブラックな業界でした。
そのせいで、この業界で働きたいという若者は減り続け、町の修理工場は次々に閉店しています。
しかも沢山の顧客を抱えたまま。ただ跡継ぎが居ないから。という理由で。

しかし、誰も見向きもしない業界になったが故、今この令和になって自動車修理サービスを提供できる現役が少なくなり、反対に需要が供給を上回る。というような状態になりつつあります。

それはどういうことか?
極端に言えば、お金をいくら払おうとしてもサービスが受けられないとか、サービス提供までかなり時間が掛かってしまう。という事です。
なんて皮肉。
これまでさんざん叩いて安くサービスを提供させてきたせいで、まわりまわってお金だけじゃサービスが受けれれない一歩手前まで来ている。
という事に気が付かないといけません。

お客さん側の姿勢や質を修理業者も厳しく見ていて、言い方が悪いですがサービスを受けさせるお客さんを選定している。という状態です。



少し脱線しましたが、の全塗装見積り例を出してみました。
普通というのは鈑金塗装店が使用する見積りソフトを使い、全塗装した時を仮定して計算したものです。

今回全塗装する車種はL650S ダイハツタントです。
外側のみ全塗装したと仮定します。
色は定番のX07ブラックマイカメタリック
外装に傷なし新車の状態で、バンパーやライト、ドアノブなどこれは最低限外した方が良いだろう。という物は脱着分解し、その際壊れてダメになる部品類を中心にショートパーツを拾って超ザックリ見積もりしてみました。

その総額¥391,793ー
注意したいのは、この金額は最低限このラインという事です。
レートは¥7,500
内訳は
修理技術料 50,250  ※主にパーツの脱着分解の工賃
修理部品代 16,350  ※脱着に伴って壊れてしまう部品代
塗装技術料 222,750 ※下処理からマスキング、塗装の工賃
塗装材料代 66,825 ※下処理に使うペーパー、マスキング資材、塗料代
消費税   35,618

どこも悪くない軽自動車をマスキングメインで外側全塗装するだけで最低およそ40万のお金が必要になる計算です。

更に注目すべきは40万の全塗装を残業せずに何日で仕上げないと赤字になるか?
ですが、なんと4.55日以内です。
計算方法は
(修理技術料+塗装技術料)÷レート=総作業時間
となり、
総作業時間÷1日当たり8時間労働=作業日数
となります。

当てはめると、
(50,250+222,750)÷7,500=36.4時間
36.4÷8=4.55日
となります。

自分は4.55日で全塗装を仕上げる自信はありませんし、やりたくもありません。
通常の事故修理をやっている方がよほど利益率が高いからです。

以上の事を踏まえ考えると、全塗装をやりたい人って、経年劣化で車が傷んできた。とか、傷や凹みや錆があるから思い切ってリフレッシュしたい!
というきっかけあっての全塗装をしたい!いう動機になるんじゃないでしょうか。

そうなると当然凹みを直す際に鈑金の工賃(修理技術料)が加算されるし、傷があれば下処理にかかる時間が増えるので塗装代(塗装技術料)が加算されます。
下処理が増えるという事は、必要な材料も増えるので材料代(塗装材料代)も加算されます。

というように、全塗装は個別具体にお客さんの要望や車の状態によって金額が変わるので一概にいくら。と決められないのが普通なんですね。
拘りだしたら際限なくお金をかけられます。
傷や凹み、追加の修理が発生するたびにどんどん修理時間も代金も加算されていくのが通常の全塗装の考え方です。

じゃあなんで格安全塗装が成立?するのか。
(やっと!?)
いくつか思い当たる全塗装の体形を考えてみました。

① 趣味が高じて全塗装をやってあげている。
② 自社の宣伝のため1か月1台限定とかで格安全塗装をやっている。
③ ほかに儲かっている事業があるから鈑金塗装部門は儲からなくてもいいという考えでやっている。
④ 計算が出来ず、何十年も昔のままの料金体系を引きずっている。
⑤ 自分の経験値アップのため今は安く請け負っている。
⑥ 高齢化で稼ぎより安さに喜んでもらう方に価値を見出している職人。
⑦ 全塗装専門店で全塗装に特化した体制が整っている。

などなど、、、ざっと挙げてみましたがどうでしょうか?

自分が全塗装頼むとしたら⑦かな〜。
やはり全塗装専門なので鈑金塗装をやっている職人より全塗装の勘所をよく把握していると思うし、作業手順も確立してるだろうし。
でもおそらく⑦は基本全塗装料金は安く設定して、傷凹みや要望でプラス加算してくだろうな~
とか思います。

また、これから全塗装をやりたい!とか大掛かりなカスタムをしたい!という人は先ず自分の車をどうしたいのか?をノートに書いて言語化するのが良いと思います。
例えば、現状古くなった車の塗装をリフレッシュしたい。
と書くじゃないですか。
そしたら次にどんな色に?とか予算はどのくらいなら用意できるのか?とかを書き込んでみましょう。

すると、「現状の車を、同色に外側だけ40万でリフレッシュしたい。」
となったとします。
それを鈑金塗装屋さんに行って実際にできることかどうか?をプロの側からも意見を聞いてみてください。
プロの見解を聞くだけでもかなり自分だけの想像とは齟齬が生じているんだな。なんてことが分かったりします。

自分が鈑金塗装を生業にしているのでバイアスバリバリな記事だという事は承知しておいてください。

皆さんはどういう自分の考えでどういうお店に全塗装を頼みますか?

良ーく考えてみるのも楽しいと思いますよ。

では。


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