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前略、関東平野#34 ユンボ安藤

1999年のノストラダムス

ヒゲをモジャモジャと生やした外国のおじさんが大予言した1999年7月の人類滅亡。
その日が訪れても結局、空から恐怖の大王は現れず、通常通り夏が来た。
パピコがうめえいつもの夏だった。

1999年26歳。ボクは渋谷のラブホテルで清掃のアルバイトをしていた。

あれはこちらも通常の秋か。
O君という同い年の男が新人バイトとして入ってきた。
O君は、毎日、黒いロングコートを着て、寅さんのようなバッグを右手に提げ、左手に日本経済新聞を鷲掴みし、新型ウイルスを発見してしまったかのような険しい顔をしてラブホテルに現れた。

その寅さんバッグに何が入っているのかは誰も知らない。
誰も聞かない。

一回、O君がいない時、バッグを持ち上げてみた。
とても軽かった。
絶対重いという先入観マックスで、持ち上げたので、そのパラドックスから肩がハズれそうになった。
もしかしたら何も入っていないのかもしれない。

あとパラドックスの使い方は、おそらくあっていないのかもしれない。
恥ずかしいことをしているのかもしれない。
しれないづくし。しれない御膳。

O君はいつもどこか「オレはお前らとは違うんだ」という顔つきをブリンブリンと振りまきまくっていた。
ハイジャック犯のような目つきでベッドメイクを遂行していた。
世に言う「陸のハイジャック犯O」その人である。

O君は誰も寄せ付けない。
ところが、周りもそれの方が楽だから、世の中はうまく回っている。

ただ、同い年、実家が相模原でボクの実家から近いということもあり、ボクにだけ少し友好ビームを出してくれていた。

ボクのライブにも何度か見に来てくれた。
絶対そうなるだろうという辛口批評は聞きたくなかったから感想は聞かないでいると、O君の方から口を開いた。

「安藤君は何かを持っているよ」
そういうことも言えるO君だった。

O君はかつて誰もが知っている大きな劇団に所属していた。
O君は昔のことはあまり語らない。
ただ、その劇団に所属していたということはすぐに教えてくれた。
年齢の次くらいに教えてくれたからかなりのスピード自己紹介ベイベー。
聞いてもいないのに。
O君は少し、芸人のボクに優位性を出したかったのかもしれない。

O君の口癖。
「オレは18時から芸術家だから」
ボクらのシフトは18時で仕事が終わる。
そっからはどうもO君は芸術家なのだという。

具体的にどのような芸術活動をしているのかは誰も知らない。
誰も聞かない。
本人が言うんだからしょうがない。
そうなんだろう。

いつの日かO君は睡眠時間が大変長いと聞いた。
働いている時間と、睡眠時間を足して残りの時間を考えると、どうやらO君は短い時間に集中して芸術家に変身するタイプなのだろう。物理として。

あるいは、「睡眠絵画」「睡眠彫刻」「睡眠浮世絵」「睡眠オペラ」「睡眠生け花」「睡眠テクノ」「睡眠対面座位」「睡眠カポエラ」など、我々の発想には追いつかない新たな前衛アートを確立しているのかもしれない。

言い忘れた。O君は昼メシは必ず食い逃げで済ますというユーモア溢れるプロフィールの持ち主でもある。
昼休憩が終わる13時頃に毎日、ゼェゼェ言いながらホテルに走って帰ってくる。
黒いロングコートをなびかせて帰還する。

「あっこのとんかつ、油が古いな」
食い逃げのくせに食を語るO君。

こんなこともあった。
一度、一緒に昼メシを食いに行った時。
先に食べ終わったO君は店の出口に向かって一心不乱にダッシュを決めた。

「オイ、今日やるか⁉︎」
ボクは目を疑った。

ホテルに帰って再会。
「今日も成功したぜ」
「バカヤロー!オレが払ったんだ」

「今日も18時から芸術家だ」
「そうかもしんないが今は犯罪者だ!」

一度、飲んでいる時に聞いたことがある。
「O君、なんで毎日食い逃げすんの?」
初めは黙っていたが、O君はグビリと残りの熱燗を飲み干すと遠くを見つめ静かに語り出した。

「実はオレ…劇団時代にたくさんの後輩たちに『お前は才能がねえんだ』『センスのカケラもねえぞ!』『とっとと田舎帰れ!』なんて罵って、多くの後輩たちを辞めさせていったんだよ……そいつらの夢を奪ってしまったんだ……うん」

「終わりかい!」
「どんな理由だ!」
「質問の答えになってねえぞ!」

何度聞いても答えは変わらなかった。
芸術家の理屈、正義、釈義など凡人のオレには到底、理解できないのであろう。

O君は飲むとよくこうも言っていた。
「こんなんじゃ終わんねえ。21世紀のオレはとにかく大物になっているんだ」

あれから20年。
O君とは一度も会っていない。

当時、とてもよろしいとは言い難い彼の評判はボクはどうでもよかった。
セルフ許容タンクを遥かに超えた根拠なき自信と、理解なき粋がりがイカし過ぎていた。

ノストラダムスにすっかり愛想を尽かした1999年に現れた、自らの未来を「とにかく大物」と予言した、食い逃げノストラダムスは今、何をしているんだろう。
黒いコートをなびかせ、まだ食い逃げしているのだろうか。

食い逃げメニューは年齢を考え、お肉・揚げ物から、お魚・野菜中心にチェンジしたのだろうか。

「魚中心に変えたら体が軽くなって食い逃げも楽になったよ」

聞きたいね。
こんなセリフ。

イイ、ワルイじゃないよ。
珍しいのはエライのさ。

コトだぜ!


本日の【前略、BGM】
「銀河」
フジファブリック


今週の【前略、備忘録】
5/18
通風治まりつつも、日英同時進行していた腰痛に悩む。
なもんで、昨晩、独自開発したネオおまじないを一発。不発。アバンギャルド過ぎたな。
作業。

5/19
昼。芝公園。集合。
焙煎、冬のいでたちで現れたことをみんなに突っ込まれまくる。
本人曰く「出かける時、肌寒くて」 それにしても厚手の上着。

本番。こどもまつりで西口プロレスを2試合。さんちゃんと実況解説。
メインイベント。ガキ共ステージ乱入でハッピーエンディング。
皆さん毎年ありがとう!

帰り。楽屋。焙煎。
「実は暑いんだよね。あの上着、昨日買ってさ。着たくて、着たくて、着たくて…」とカミングアウト。
「言ってくれればいいじゃない」とさんちゃん。大団円。あるねぇそんな時。

本田理沙のラミネートカードをいただく。部屋の机の前に設置だな。

理沙を前に作業。

5/20
夜。四谷アウトブレイク。野球イベント。『今夜、四谷でプレイボール』
ラブセクシー・ヤング一緒。頼もしく心強く。ご来場の皆さんどうもありがとう。

5/21
お笑いKGB「野球演芸館」原稿入稿。ひとつよろしく。https://payment.owarai-kgb.jp

5/22
おっちょこちょいの夏いらっしゃい。ドクターペッパー自販機はしご。あちい。
作業。

5/23
夜。恵比寿。お世話になっている方との食事会。待ち合わせのお店に行ったら天山広吉選手が同席してた。
「ちょっと驚いた?」
ちょっとじゃねえよ。
天山選手、素敵な方でハッピーな宴。
ごちそうさまでした。

5/24
夜。新宿ロックカフェロフト。
『アルとユンボのおしゃべりどんどん3』昭和歌番組編
共通の記憶にそれぞれの思い出。いいですな。ご来場の皆さんどうもありがとう。次回は7/12です。是非!


右や左の旦那様、どうかこの惨めで哀れな三人にお恵みを・・・