観測者SS-ハロウィン-

※観測者にて企画されましたハロウィンの書き物になります。※


「・・・・・・。」

観測者ラボ内、福利厚生課の一角で課長であるジリアが頭を抱えていた。
その脇の倉庫窓には所せましと満載されたカボチャの箱・・・。

曰く「何だか遠い惑星でカボチャを祝うまつりがあるらしい。」という話が社内で流れ、それじゃあ何かやってみよう。ということになり・・・。
ある課員が「カボチャが必要なら早速発注しておくね。」と言った翌日にこの大量のダンボールが運ばれてきたのだ。

ジリアが慌てて領収書を確認するも、時すでに遅し。
そこにかかれていた発注数は予想を超えた数字であった。

「これだけの・・・カボチャ、どうしろと・・・」

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幸い、瞬間冷凍庫で腐敗しないレベルに凍らせているので問題はないが、倉庫の圧迫は大問題である。
福利厚生課課長としては、この莫大な量のカボチャをどうにかして消費する術を考えねばいけなかった。
そして発注されたカボチャは下層のものではなく、上層で育てられた上等なものだ。
味もある程度は保証されたものだろう。その分値段については見なかったことにするが・・・。

いかんせんこの量を消化しようとなると、一人で考えていてもダメなのでは?と思い始めてきた。
課員の暴走はいつものことであるが、全社員の胃袋を預かる身として何か講じなければならない・・・。

こういう時に閃きを得られそうな人物を探しひとまず食堂を後にした。

「かぼちゃをどうにかして大量消費したい?」
ジリアがやってきたのは、総務部の一角に構えた広報課のデスク。
いつものように仕事をしているのか、そうでないのか・・・という雰囲気を滲ませている観測猫課長その人を訪ねたのだ。

「ええ。困ったことに、福利厚生課の食糧庫1区画がかぼちゃで埋まりました。」
肩を落とすジリアに観測猫は眉を顰める。

そういうことこそ、福利厚生課の腕の見せ所では?と

しかしジリアもそこは引き下がらない。
「言いたいことは分かります。それでもこうして相談に来たということは・・・」
「ははあ。その量が既に許容範囲外なんだという訳ですか。」

何となく事情を察し、観測猫も軽くため息をつく。

「ポタージュなんてどうです?」
「いい案ですね、観測猫さん。・・・たまねぎや生クリームの在庫が同程度あれば、ですが。」
「あー。」

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思いついた案の一つを口に出してみるが、なるほど他の料理に転用しようにもその材料も同程度いることになる。
そしてこのままだと下手をすれば社内の食事に焼かぼちゃが必ずついてくることになりそうだ・・。

「うーんー。まあ、考えますけど。期待はしないでくださいよ。」
「承知しました。では。」

前向きな返事をもらい、ジリアは軽く頭を下げてその場を後にする。

(かぼちゃ、かぼちゃ・・・ねえ・・・)
椅子の背もたれに身体を預け、ぼんやりと考えてみる。

倉庫の1区画を埋める程のかぼちゃをどう処理するか。しかも人道的に。
無い訳ではないが、そのいくつかはおそらく嫌な顔をされるだろうなと思った。
("動物"のえさにでもしてしまうのが一番良さそうですけどね。)
慌ただしく仕事をする下層出身の局員を一瞥してそんなことを考える。

しかし、そんなことを言えば顰蹙をかうのは目に見えている。
もう少しオブラートに・・・やんわりと何か伝えられないものか・・・。
次第に考えが煮詰まってきてしまい、顔をしかめて席を立つ。

こういうのは専門家にでも任せたい。しかし、料理とは別方向で、だ。
そう思った観測猫は胡散臭い笑みを浮かべ総務部を後にした・・・。

「お邪魔します。いや、邪魔ではないはず!邪魔なものか!!」
意味不明な挨拶を叫びながら扉を開ける。
観測猫が向かった先は"開発部"
いつものようにカルトン部長にでも助けてもらおうと思った次第だが・・・。

「・・・あの。いきなりなんですか。課長」
開発部にいたのは、はーぷーん局員一人であった。

一瞬、動きを止めて辺りを見回すが辺りには人がいない。
「あれ?何があったんですか。」
「はあ・・・。なんか開発部で管理してるセクターで異常事態があったとかで、僕を置いて出払っていますよ。」
なんということだ。
こんなタイミング悪く部長もいないとは、と内心思ってしまった。

「あのー・・・開発部にわざわざ来たってことは、何か用事でも・・・?」
「む。そうでした。この際誰でもいいですか。」
要件を思い出し、眼鏡をくいっと持ち上げ本題に入る。

「・・・・・・。」
「という訳なのですよ。開発部なら何かいいアイディアがあるかなあと。」
出された要件を聞いてはーぷーん局員がげんなりする。

─曰く、大量にあるかぼちゃをとにかくなんでもいいから処理したい。

完全にお門違いだ。
声に出さずとも、そんな雰囲気をありありと感じる。
しかしそんな空気も気にせずに、観測猫は続けた。

「この際ですし、なんか武装に転用出来たりしませんか?ほら、ねこいらずみたいな。」
「それは遠回しに毒を盛れって言っているじゃないですか・・・。」
出された提案に呆れてため息をつく。

彼女が毒を盛れということは、ほぼ確実にろくでもない使い方をする。
そんなのはおそらく観測者(ここ)にいる局員ならば誰しもがそう思うだろう。
いつもなら冗談はやめてくれと軽く言うが、今回はそうもいかない。

相手がほぼ真顔でそう言っているのだから・・・。

「しかし・・・かぼちゃですか・・・。」
観測猫の話を聞いて少し考えてみる。
その様子を見た観測猫は、にっこりと微笑み「それでは何かいい案があれば教えてください。」と手をひらひらさせて出ていってしまった。

(かぼちゃっていうのは、そもそも食料なのになあ。うーん・・・質量を活かした粗製爆弾とか・・・いや、でも・・・)
腕を組み天井を見つめながら何か案が出ないかとうなる。

考えれば考える程、開発部の仕事だろうか?という疑念はどんどんと大きくなってきてしまう。
(そもそもかぼちゃって食べ物だよね・・・。それならもっと相応しい所に相談しよう・・・)
やがて考えるのも馬鹿らしくなり、深くため息をついて開発部を後にした・・・。


「失礼します。」
はーぷーんが向かった先は・・・福利厚生課だった。
福利厚生課では、ジリアがデスクに向かってうんうんとうめいている。
「あのー・・・ジリア課長?」
「・・・ん。ああ、はーぷーん局員。どうも。」
声を掛けると振り返り軽く手を挙げて挨拶をする。

「こちらに顔を出すのは珍しいですね。何か御用でしょうか?」
「えーっと。観測猫課長にアイデアを求められたんですけど・・・扱うものが専門外なので、ジリア課長の意見を参考にしたくて・・・」
観測猫、の名前を聞いた時にジリアの顔が若干引きつる。

「・・・。」
「ジリア課長・・・?」
「・・・。えーっと。その"観測猫さん"がアイデアを欲しいと言ったのは・・・」
「はい。なんかカボチャを効率よく消費出来るアイデアをと・・・。」

途端にジリアは天を仰いだ。
その様子を不安そうに見つめるはーぷーんに事情を説明する。
「・・・・・・。成る程、そういうことだったんですね・・・・・・。」
説明を受け、彼もまた天を仰いだ。
つまり開発部に持ち込んできた案件は、巡り巡って"元のさや"におさまってしまったのだ。

更にタイミングの悪いことと言うのは続けて起こるようで・・・。
「いやぁー喉が渇きました。ジリアさーん、何か飲み物あったりしますかー?」
のんきな声で福利厚生課に入ってきたのは、今回の発端である観測猫であった・・・。

───
「・・・いやあ、まさか案件が戻るなんて予想出来ないじゃないですか。ねえ?」
「それはそれです。改めて区画見ましたけど、あの量を兵器転用しろって・・・」
一通りの非難のぼやきを受け止め、ばつが悪そうに両手を挙げる観測猫に、はーぷーんがじと目で抗議の声をあげる。

しかし改めてみると、そのかぼちゃの量は尋常ではない。
なまじ味の良いモノだけに兵器転用するのももったいないものだと思ったのもある。
「しかし、そうなると・・・なんとかして食品転用しか道が無い訳ですよね・・・」
ジリアも表情を曇らせる。

ざっと見積もった消費期間はおよそ1か月。
その一か月間、ひたすらかぼちゃが"主食として"供されてしまう。
最初の一週間はおそらく大丈夫だろうが、その後は暴動が起きてもおかしくない。
難儀なことに、この観測者には食通も少なからずいるのだ。

また適当なメニューで茶を濁す真似は、福利厚生課としてのプライドが許さない。
「と、いう訳でここに集まってしまったので・・・何か案を出してください。」
「え、僕まで・・・?」
「・・・巻き込まれたと思って・・・。」
ジリアの言葉に、驚愕してしまうがはーぷーんは諦める。

断っても、どこかで巻き込まれる予感しかしないからだ。
それに他の部署同士での仕事なら、今後の経験にも活かせるという思いもあった。
「うーん。他の料理にしようにも、膨大な材料がいるわけですよね。取り寄せるにしてもトープ Iからの定期便はもう終わってますし・・・。」
「やっぱりねこいらずにした方が・・・。」
「ストーップ。観測猫さんは一端ストーップ。」
観測猫は相変わらず物騒な案をつぶやき、ジリアに真顔で留められる。

ああでもない、こうでもない。ではどうすれば?と話しているうちに、三人とも腕を組み唸るぐらいしか出来なくなる。
「・・・・・・。いけない。この煮詰まってきたパターンは案が無い奴ですね・・・。」
観測猫もため息混じりにぼやくしか出来なくなっていた。

「そもそも。なんでかぼちゃなんでしたっけ・・・。」
「ええと・・・何やら遠い銀河系の惑星では、かぼちゃを使ったお祭りみたいなものがあるらしいという話で・・・」
こういう時は、基本に立ち返るのも必要と感じたはーぷーんが、事の成り行きを整理する。

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「と言うことは飾りに使われたりするのでしょうか・・・。後で調べましょう。中身だけ別にできれば保管区画も多少まともになりますね。」
「良案ですね。確かに中身だけなら半分ぐらいスペースは確保出来ます。そうすれば別の材料を仕入れて・・・」
「・・・。飾りよりも、中身を繰りぬく方法ですかね、そうすると・・・。開発部の方に転用出来そうなものとかありそうです?」
解決の糸口が見えてくると、そこは頭脳派(?)のメンバー。
色々な案が出てきた。

「では、決まりですね。開発部で使われている機械を使い、中身をくりぬく。そしてそれらで装飾をして・・・何かお菓子でも配りましょうか。」
「お菓子の確保は、広報課でやりましょう。まあ局員に配って回る分ぐらいならいけます。」
「僕は部長に報告して、機械の確保をしてきます。」

おおよその案が決まり、3人はそれぞれの仕事に取り掛かるべく部屋を後にした。

福利厚生課の食品庫の1区画が、かぼちゃに埋まって数日が経った。
「私はですね。後はもう開発部の機械に任せればなんとかなると思ったんですよ。ねえ、ジリアさん。」
「はい。その通りです。」
その厨房・・・いや。食堂では観測猫がかぼちゃをデコレーションしていた。

当初の予定通り、はーぷーんが手配した機械で思惑通りにかぼちゃの中身を綺麗にくりぬくことには成功した。
しかし、中身を繰りぬいて残った部分・・・すなわち外皮をどうするかという問題にまで至らなかったのだ。
やむなく三人は今、必死にかぼちゃに穴をあけ装飾にするべく奮闘している。

「観測猫課長、こっちのかぼちゃはオッケーです。」
「はいはい。それじゃあ、穴をあけたかぼちゃにはオイルランタンをいれましょう。」
「かしこまりました。観測猫さん、こちらはある程度めどがつきましたので、ランタンの確保を。」
「アイアイ、マム。ランタンは確か総務部の備品庫にあったはずなので、それを確保します。」
作業を切り上げた観測猫は、軽く礼をしてから食堂から出ていく。

食堂の飾りつけは主にジリアが奮闘しあらかた完成している。
はーぷーんが開発部から持ち込んだドライアイスによる煙噴射器も良さそうだ。

ちなみに、食堂は朝から閉鎖という事態になっており一部の局員から軽く苦情が入ったのは言うまでもない。
しかし、そうでもしないとこのかぼちゃ・・・ひいてはこの日の飾りつけに間に合わないからだ。
「ジリアさん、合間合間に厨房のオーブンで何かやっていますけど・・・?」
「ああ、そうです。せっかくなので、今ある材料でかぼちゃのパイを作ってみました。」

お詫びに、という訳ではないがせっかく上質なかぼちゃなので、局員に味わってもらおうとパイも手掛けていたのだ。
ほのかなかぼちゃの焼ける匂いが、食欲を少し煽る。
そこへ観測猫が台車にオイルランタンを満載にして戻ってきた。
「お待たせしました。ランタン、確保してきましたよ。」
「有難うございます。それでは、かぼちゃに仕込むのはこちらでやります。」

ランタンを並べ、オイル缶も置いて観測猫は「お菓子の準備してきます。」といって再び飛び出していった。
「ところでジリア課長。何故かぼちゃをかざるんでしょうね?」
「なんでもその時一番取れるのがかぼちゃだから、と聞きましたが・・・」
「へー・・・。他の銀河には不思議な文化もあるものですね・・・。」

───

その日の夕方。
ほんのり不気味にライトアップされた食堂に、お菓子を配る観測猫。
食堂の至るところにはぼんやりと灯りを放つかぼちゃ。

そして、ジリア課長お手製のパンプキンパイでささやかながらも日々の業務に負われた局員達の心労を労っていったのだった・・・。