洋楽の「邦題」名作(#4) BADFINGER 明日の風
中学1年のサル真っ盛りのころ、ポップス系のラジオ番組(洋楽のヒット曲をチャート式で紹介するような番組)で、デイアフターデイ という曲がよくかかっていた。
テンポのゆっくりした、聴きやすい、というか、なんてことはない曲なんだけど、イントロのギターフレーズと1番終わってからのピアノのフレーズが印象的で、いつまでもサルの頭から離れない。
英語の教科書の中に Day after day 来る日も来る日も というのが載っていて、ちょうど授業で習ったばかりのタイミングでこの曲が聴こえてきたものだから、「あ、この曲のタイトル知ってるぞ!英語の意味も分かってるぞ!来る日も来る日も や。 すごいな俺!」と、サルながら「ちょっと進化した自分」が嬉しかった記憶がある。
(3) デイ・アフター・デイ/バッド・フィンガー Day After Day/Badfinger - YouTube
Day After Day が大ヒットしたことで、日本でもバッドフィンガーは一気に人気が出た。
以前に発表してたバッドフィンガー名義の2枚のアルバム「ノーダイス」と「マジッククリスチャンミュージック」の中から、隠れた名作を引っ張り出し、新曲シングルとして再発売しよう というレコード会社の思惑も自然な成り行きですね。
その結果、日本でだけリリースされたシングル曲がある。
Carry on till Tomorrow (B面は Without you ) である。
これこそは、当時の東芝EMIレコードのアップルレーベル担当の社員の方(仮に谷山さん としておこう)の尽力の賜物である と勝手に推測いたしております。
(以下、妄想)
部長「おはよう谷山君、バッドフィンガーの新曲、ベイビーブルー は売れ
てるのか? 」
谷山「部長、それがそのーー、ベイビーブルーは今のところ、いまいちセー
ルスが伸びておりません。アメリカではそこそこヒットしてるんです
けど。まあ、次の曲に期待、でしょうかね。」
部長「ニルソンが歌ってた ウィズアウトユー はどうだ。あれはいい曲だ
よな。こっちが本家だしな。」
谷山「それも考えたんですが、ニルソンの後では、いくらこっちが本家だと
いったところで、再ヒットさせるのは難しいかと思います。
それよかですね、すごい良い曲があるんです。」
部長「ほう、それは以前のアルバムに収録されてるのか」
谷山「そうです。だから英国アップル本社の許諾がもらえれば、すぐにシン
グル発売できます。」
部長「なんていう曲だ?」
谷山「キャリーオンティルトゥモロー」
部長「え?」
谷山「キャリオンティルトゥモローです。日本人好みの哀愁があって、ハー
モニーも美しい。冬場に向けて大ヒット間違いなしですよ!」
部長「うーん、それはいいんだけど、タイトルが長すぎて覚えられないか
ら、短めの邦題をつけてくれ。」
谷山「ありがとうございます。部長、がんばってヒットさせますんで。冬の
ボーナス期待してます!」
部長「嵐の恋( No Matter What ) の邦題は君が考えたんだろ?
いい感じだったから、あの雰囲気で今度もいってくれよな。」
てなやりとりがあって、その日谷山さんは帰宅してから、夕食もそこそこに徹夜で邦題を考えたはずです。
(3) バッドフィンガーBadfinger/明日の風Carry on Till Tomorrow (1972年) - YouTube
つらい人生だけど、少しずつ、振り返ることなく、いつかは安息の日々が得られることを信じて旅を続ける
といった内容です。
歌詞には自然の描写がたくさんでてきます。
朝日が昇るのを待っているには僕の人生は短すぎる
だから明日へ向かって進んでいかないと
雲の上まで 空に向かっていこう
虹の果てを見るまでは
自由の翼で舞い上がり
この嵐を抜け 明日の輝く草原まで
つらい旅が終わったとき
僕は心を癒そう
そのとき世界の色は僕のものになるのだろう
以下、谷山さんの脳の中身(推測)
「終わりなき旅路」とか「夢の旅」とか、journey という単語から
邦題をイメージしてみたんだが、ピンとこないな。
歌詞に出てくる自然現象の語句のニュアンスを取り入れたい気もする。
「夜明けの旅立ち」 ×
「虹に向かって」 ×
「旅の果て」 ×
「心の旅」はチューリップの曲が流行ってるしな。「人生の旅路」だと演歌みたいだし。
原題は 「明日まで続けよう」だから、やっぱり「明日」という言葉は入れたいな。
そうだ、部長が「嵐の恋」は褒めてくださったから、アラシノコイ と同じ6文字で作ってみよう。
ということは、「明日」の読みは「アスノ」よりは「アシタノ」だな。
「アラシノ」とリズムが同じだし。よっしゃ アシタノ○○ でいこう。
アシタノニジ ×
アシタノソラ ×
アシタノチカイ ×
アシタノジョー ×
そうだ、「嵐の恋」が「嵐」という語を使って、結果好評だったわけだから、その路線で押してみよう。
今回の曲は、これまでとは違って、落ち着いたメルヘン調の美しい曲だよな。
嵐が落ち着いて、普通の風速になった、ということは キーワードは「風」 だな。
バッドフィンガーの ギラギラした感じが無い、あっさりしたバンドのイメージには「風」という言葉が合うのかもな。
ということで、
アシタノカゼ ○ 拍手!
この後無事に、「明日の風」(あすのかぜ ではなく あしたのかぜ)は世界中で日本でのみシングルとして発売されました。
結果はというと、まあまあ でした。
デイアフターデイ や 嵐の恋 の路線を期待したポップスファンにとっては、ちょっと肩透かし、というか 地味な印象を受けたことでしょう。
今どきだったら、ドラマやCMとのタイアップして売り出せたのでしょうが。
「明日の風」は、メロディもサウンドも歌詞も、そして「邦題」も素晴らしい名曲。
でも 名曲イコール大ヒット とはならないのが音楽ビジネスの世界なんですよねー。
バッドフィンガーはマネージメントに恵まれず(だってアップルですもんね)、不運不幸の連続ヒストリーだったバンドです(ご自分で調べてみてください)。
でもいわゆる 一発屋 扱いされていないのは、その楽曲の良さがいつの時代でも再評価されてきたからだ と言えます。
おすすめの3曲は
Day After Day, 嵐の恋, 明日の風
気に入られたら、ベストアルバムを聴いてみてくださいませ。
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