焼きたてのシャトーブリアンか、握りたての中トロか。ルノアール池袋北口店
焼きたてのシャトーブリアンか、握りたての中トロか。
目の前に並んでいたとしたら、
どちらから食べたらいいのだろうか。
肉が冷める前に、食べられるのか。
まぐろが温まらないうちに、食べられるのか。
中トロか、シャトーブリアンか。
私は悩んでいた。
池袋北口店の禁煙窓際の奥のシート。
そこは、
予想を越えた香ばしい話題を提供してくれる席だ。
覚えているだけでも、こんな感じだ。
借金の取り立て、フィギュア成形士の方の打ち合わせ、
中でも、M光義塾の講師とキャバクラを掛け持ちするJDの会話はパンチラインの連続だった。
ルノアールの中でも宝箱と呼びたくなる、パ話ースポットだ。
今日の会話は、まさに、シャトーブリアン。
香りから違った。
アジアの商人と日本の商人がマウンティングじゃんけんをしていた。
「今日お話した病院は、なかなかです。聞いたらびっくりしますよ。今日は言えないけれど」
「ワタシタチノクライアントも、スゴイですよ。今日は言えないけれど」
「世界的に見ても、この分野の研究では有名です。今日は言えないけれど」
「トテモ大きな資本なので、グループの名前は、あなたがたも聞いたことはあるはずです。今日は言えないけれど」
彼らはなんで集まったのか。今日は言えないことばかりなのに。
言葉を噛みしめる暇もなく、会話の肉汁が、滴っている。
一方で、左の会話が中トロであることもすぐにわかった。
「うちは、普通のスーパーであることを目指しているんです。どの店でも同じ品揃えと同じサービスが受けられる。小売の信頼性ってそういうことじゃないですか」
左側では、小売ビジネスについて白髪まじりの男性が熱弁している。履歴書と向かいの男を交互に見ながら、である。
「普通のスーパー」 とはなんだ? どこだ? この時代にチェーンストア理論を語るとはどういうことか。
「我が社もECの拡充をしたいんです」
こちらはこちらで、初売りのものを冷凍庫から出してきたかのような、古いんだか新しいんだか、わからない会話だ。
だが、脂の香ばしさだけは、間違いなさそうだ。
シャトーブリアンが、パワーワードを繰り出してきた。
「腎臓か、ガンの病院が欲しいんですね?」
先日の銀座六丁目店に続いて、
またしても、病院が売りに出されているようだ。
お金を出したい人たちは、アジアの方々。
病院を売りたい側の人たちは、日本の方々。
じゃんけんのアイコを続けているようだ。
そういえば、FBのお友達が「会社を買ってくれる人を探している」 とお話してくれたときもそうだった。
「どこの会社かは言えないけれど、興味のある人はいないだろうか」 と。
あの時はよくわからなかったけれど、企業買収というものは
そんなものなのだろうか。
「病院の名前は、弁護士を通してお伝えします」
「クライアントの名前は、弁護士を通してお伝えします」
「今日はここまでにしましょう。名前がわからないと話が進みませんから」
「そうですね。名前を聞かないとこれ以上は、難しいですね」
え? でも病院の売買はおそらく狭い世界だ。どちらも相手の素性は想像ついているのではないか?そんなことを思った。
中トロのテーブルでは、白髪さんの隣に座っていた真矢みき風の人が口を開いた。
「私もこの業界に入る前は、エンタメ業界にいたんですが、
お客様と直接触れ合えることが魅力で、食品の世界に
きたんですよ。今、やっとEC以外の自社メディアを育てる
タイミングになったので、人が足りないんです」
どうやら引き抜きのようだ。
そして、中トロは自分のためになりそうな話だ。
しかし、シャトーブリアンに、新たなソースがかかった。
「明日来る弁護士さんは、日本人ですが、この手の案件に優秀な人で」
「明日来る弁護士さんは、香港の人ですが、この手の案件には、、、、、、、」
新たに広がる肉汁を噛みしめながら、思った。
彼らは交渉がしたいのだろうか、じゃんけんがしたいのだろうか。あー、なんなんだ。途中で中トロをつまむのをやめれば、会話の全貌がつかめたのに。。。
シャトーブリアンと中トロのような会話、
同時には聞けなかった。
明日の打ち合わせも、同席したい、いや、隣席したい。
この気持ちを抑えるために、アイスストレートティーを
飲み干した。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?