(80)哀しみの渦
突然の終わりの日からしばらくは、
毎日泣いていた。
けれどもどこかで、少しだけホッとしているじぶんもいた。
もうこれ以上、須藤さんのことで傷つかなくていい。
彼からの連絡を待たなくていい。
彼に断られる心配をしなくていい。
マリの存在に嫉妬しなくていい。
時間が経てば、須藤さんへの気持ちも少しは楽になるだろう、とおもって、
ひたすら日々をやり過ごしてきた。
けれど、ひと月以上経っても、その傷は癒えていない。
須藤さんのことを、毎日想ってしまう。
わたしからは連絡しません、
ということばで終わってしまったので、
わたしから連絡することはできない。
けれど、
雪が降れば「雪がきれいですね」と伝えたくなるし、
「会えなくてさびしいです」
とメールしたくなる夜もある。
ときおり発作のように哀しみが襲ってきて、
お風呂場で泣いてしまったりする。
彼を思い出さないように、彼のSNSはぜったいに見ないことにしているけれど、
それでもふと、彼の笑顔や、やわらかい声や、抱きしめられたときのあたたかい感覚がフラッシュバックのように押し寄せる。
わたしたちが紡いできたそれは、ぜんぶなくなってしまったのだろうか。
前にも後ろにも進めない。
彼に会えなくなって、
日々に色がなくなってしまった。
ときどき、ため息がこぼれる。
ため息は、止めないことにしている。
哀しみの渦に巻き込まれて、溺れてしまわないように。
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