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アンファルのアニメと原作小説を比べてみた

〈明治30年、怪異が息づく時代の東京。怪物たちの殺し合いなどを楽しむ見世物小屋で“鬼殺し”として活躍する真打津軽のもとに、メイドの馳井静句を引き連れた生首の美少女・輪堂鴉夜が訪ねてくる。
その目的とは―――。〉
(アニメ第1話「鬼殺し」のあらすじより)

現在放送中のアニメ、『アンデッドガール・マーダーファルス』(原作:青崎有吾)の1話をようやく観た。アニメの第1話は、原作で「序章」「『第一章 吸血鬼』の事件解決後」「『第二章 人造人間』の終盤」の3か所に分けてつづられている津軽と鴉夜・静句の出会いの場面を、一つの話として構成したものだ。
そこで原作のファンとして、小説と見比べながら視聴してみると、原作の序章が短いぶんアニメではオリジナルのシーンで補完されているところが多いことに気づいた。
そのオリジナルの部分がうまいこと原作の空気を汲んでいるなと感心したので、いくつかまとめてみた。

1 オープニング後の日常シーン

酒を買いに来た津軽が「花柳病」と間違われるこのシーン。原作にはない完全アニメオリジナルだ。
花柳病とは梅毒のことで、店主は津軽の青いあざを見て梅毒の症状だと勘違いしたのだと思われる。明治のころといえば「芸娼妓解放令」が出たこともあり、世間でも梅毒は流行り病となっていた。そんな時代背景が映し出された会話となっている。
また、町の人たちがノラ猫を取り囲んで「化け物だ」と騒ぎ立てている場面の、「鬼殺しのあたくしにゃあ、ノラ猫は殺せません」という津軽の言葉は、のちの「どうせ舞台の上でしか殺せない」という鴉夜のセリフにつながる。

2 津軽と静句の戦闘シーン

原作では、楽屋にいきなり現れた、鳥籠を抱えた静句に対し津軽は警戒するものの、そのまま淡々と会話が進んでいくので、戦闘シーンに入るのはアニメオリジナルだ。ここに一度動きのあるシーンが入ることによってアニメならではの躍動感が出ている。静句のビジュアルは「たすき掛けの着物に西欧風の前掛け」で「櫛の通った長い黒髪」と、原作に忠実に再現されていて、欧州渡航以降のきりっとしたショートヘアのメイド姿とはまた違った、第1話でしか見られないものとなっている。
肝心の戦闘シーンは、蹴り投げた草履が当たった隙に静句の銃に麦酒を流し入れて銃撃を封じるところに津軽の頭の回転の速さがよく出ているし、静句の武器——「たちかげ」の刃が酒瓶を一刀両断するところに切れ味の鋭さや静句の太刀筋の良さが出ているし、それぞれの強さをうまく描き切っていて感嘆した。
そのあとの津軽と鴉夜の問答でも、新たに入ったセリフなのに違和感なく馴染んでいるものがある。
津軽「あなた何百年も生きているなら、さぞや頭も切れるでしょう?」
鴉夜「もう切れてるけどな」
なかなかインパクトの強い「生首ジョーク」だが、なんとこれもアニメオリジナル。
原作でも生首あるいは不死に引っ掛けたジョークは度々出てくるので、最初にこのセリフをアニメで聞いたときは、これもてっきり原作にあったと思い込んでしまったほど。付け加えてくれてありがとうと言いたい。

3 見世物小屋のろくろ首

序盤で座長にたばこを投げつけられているろくろ首も、原作には出てこない存在。津軽と静句の戦闘のさなかのアオリとして出てきたり、生首の鴉夜が「見つかったら見世物にされちまう」の前振りである、座長に「生首にならねえか」と言われているのもおそらく、ろくろ首。
ちなみに、津軽が「場所を変えませんか? ここで見つかったら、間違いなく見世物にされちまいますよ」と言って場転するのも自然な流れになっていて、思わず膝を打った。合理的な理由に沿って登場人物が動くのは、青崎有吾作品においての醍醐味でもあるので、そのポリシーがちゃんとアニメにも反映されていてなんだか嬉しかった。

もちろん原作通りの場面もあって、アニメで1分46秒にも及ぶ津軽の長広舌は、原作からほぼノーカット。構図を変えて飽きさせないようにしているのもそうだが、津軽もとい八代拓の弁が立っていて、ぐっと引き込まれるシーンに仕上がっている。

『アンデッドガール・マーダーファルス』は繰り返し読むほど大好きな小説なので、アニメ化が決まったときは死ぬほど喜んだものの、がっかりするような改変がもし加えられていたらどうしよう……と本気で悩んでいた。でもアニメの第1話を観て、それは見事な杞憂だったとわかった。アニメの第2話はまだ観ることができていないのだが、2話から始まる「吸血鬼」の章が、原作でも特に好きな話なので、大いに楽しみである。

〈余談〉
今回アンファルで構成・脚本を手掛けている高木登さんは、アニメ『虚構推理』の構成も担当されていた方なのだとか(そういえばどちらの作品も、推理して喋り倒して最後は戦闘になるので、舞台は違えど似たもの同士なのかも)。『虚構推理』は結構面白くて、好きなアニメだったので、ますます期待が高まるところだ。

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