見出し画像

親愛なるたまちゃんへ

ずっと手紙を書きたいなと思いつつ、なかなか書けずにいたとき、noteで「たまちゃん その2」の続きをしばらく書いていないことを思い出しました。手紙の代わりに、この記事を「たまちゃん その3」として書こうと思います。拝啓たまちゃん、今日はどんな日でしたか。

今日、会社の机を片付けていたら、たまちゃんからもらった手紙を見つけました。たしか、たまちゃんが入社して少し経った頃、私が渡した手紙に返事をくれたものです。黄色い封筒に、私の似顔絵を書いてくれていました。私は自分で書いた手紙に何を書いたのか覚えているけど、きっとたまちゃんは覚えていないんじゃないかなぁと思いました。

それから何度か、手紙交換をしましたね。最後の手紙は、たまちゃんが退職したときにキャンドルと一緒にもらったもの。「一体何が、私たちをこんなに近づけたんでしょうね」。その言葉を時々思い出してみるけど、答えは今もわかりません。ひと言でいえば、私たちは「仲の良い先輩後輩」という間柄だったんだと思いますが、それもまたしっくりきません。私はたまちゃんのことを後輩だと思って接していなかった。私が教えられることなんて、最初からほとんどなかったから。

たまちゃんのことが、うらやましかった時期があります。見せたい世界を知っていて、実際に見せてしまうたまちゃんのことが、うらやましかった。だから、私にとってたまちゃんは、すごく近くにいて、ずっと届かないところにいるひとでした。たぶん、初めて言います。余談ですが、いつかふらっと遠くに行っちゃうんだろうなぁと感じさせる何かがあって、そういうところが猫みたいでした。それが、あだ名をつけた理由のひとつ。

一緒に働いたのは、2年と半分くらい。そこでぱったり会わなくなる…なんてことはなくて、時々、必要なときどきでたまちゃんとは会って話をしている。今年に入ってたまちゃんと会ったのは、指で数えられる程度。でも不思議と、そんな感じはしない。遠くにいる気が全然しない。

たまちゃんは今、洞爺にある古民家(たまホームと呼ぶらしい)で、猫のよいしょこらしょと一緒に暮らしています。家を直しながら、仕事をしながら、「たまたま書店(たま書と呼ぶらしい)」の開業に向けて準備中。その辺りのことや、たまちゃんが撮るすばらしい写真はInstagramからどうぞ。

先週、取材の帰りにたまホームを訪ねました。ここかな?と迷った家の中から、「かんなさーん」とたまちゃんが出てきて、その古い家がたまちゃんの選んだ場所でした。レンガを積んで脚にした薪ストーブは、なんだかとっても素敵な絵があしらわれていて、その横で2匹の猫がじゃれていて、たまちゃんは「お昼作りますね」と台所へ入っていきました。

帯広のアパートにもあった大きな机とイス。すぐそばに良さそうな川(雪で全容があまりわからなかったので、「そうな」)があって、窓のところに薪がたくさん積んでありました。たまちゃんが作ってくれたパスタを食べて、最近のことをぽつぽつ話して、淹れてもらったコーヒーを飲んで、たまホームの裏の森を一緒に散歩しました。雪の上を二人で歩いて、たまちゃんのカメラからシャッターの音がして、こういう日が前にもあったような気がしました。大事かもしれない、だけど他愛ない話をして、一緒に外を歩いた日が、何度も何度もありました。

「ゆっくり、出発したいですか?」

じゃあね、と言った後、玄関でたまちゃんが言いました。「見送られると、焦っちゃうでしょ」。「うん、ゆっくり行くね」。そう言って扉を閉めて、私はやっぱりしばらくモタモタしてから、たまホームを後にしました。田んぼが広がっているだろう土地は雪で真っ白。風が吹いて、光が差して、雪が舞って。そうだよな、たまちゃんはああいう優しさを持ってる人だよなと思いながらその道をまっすぐ進みました。

「たまちゃんがあのとき言ってたこと、こういうことなんだなって、後になってわかることがあるよ」。

いつだったか、ずっと感じていたことを思い切って伝えてみたとき、「たとえば?」と聞かれて、すっと答えられなくて。今でも、どんなときかと聞かれたらやっぱりうまく言えません。だからたまに、どうしようもなく迷ったときや、ひとりで答えを出せないときに、たまちゃんが言っていた言葉を引っ張りだしてきて並べてみたりします。お手本にするとか、後に続くとかとはまた違う、ただただ思い出すという作業。どうやっても、たまちゃんと同じ道は歩けない。たまちゃんの道は、たまちゃんだけが歩ける道なので。

「尊敬してるし、信じてるよ」。

言いたいことはたくさんあるけど、本当に本当に伝えたいことは、これまでも何度か伝えてきたこの言葉に尽きます。無理しないでね、とか、何かあったら言ってねとか、そういうところは通り過ぎてしまった気がします。隣で励まし合いながらがんばる日々が楽しかった分、ずっとどこかに寂しい気持ちがあったけど、たまちゃんが自分で見つけた場所であたたかく過ごせていることが、今はいちばんうれしいです。

せっかくだから、何かいいことを言いたかったけど、なかなか難しいものですね。思い付いたら、今度は本当の手紙を書こうと思います。「手紙って、たっぷりした時間と心の余裕がないと書けないじゃないですか」。手紙が書きたくて、でもずっと書けなかった間、たまちゃんがいつか言ってくれたことを何度も思い出していました。絶対この便箋を使おうって決めて、用意してあるから、その時が来たら、ゆったりした気持ちで机に向かおうと思います。

親愛なるたまちゃんへ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?