味の記憶 【父が作ったオムライス】

父は、普段滅多に料理しない人だった。
幼い頃から父が作ってくれたものと言えば、唯一オムライスとカレーくらい。

家のオムライスは一風変わっていた。卵の上にケチャップではなくソースをかける。

小さい頃、父がオムライスを作ってくれるというので楽しみにしていた。ふわふわの卵にホカホカのチキンライス、ケチャップが乗ったものを想像して待っていたら、出てきたのはなんと白米の上に乗せたパサパサ卵に、ソースがかかったなんとも不恰好なオムライス。
正直残念だった。ガーーンて音が響きそうな程。

でも、その不恰好なオムライスだけは、何故か鮮明に覚えている。
美味しかったのだ。ソースをかけたオムライスが。ソースや卵と絡む白米が。

それからたまにオムライスにソースをかけるようになった。父が料理を作る時はソースオムライスを楽しみにするようになった。

あれから十数年。2日前にその話をしたら、翌日父がオムライスを作ってくれた。
たまたまチキンライスが余っていたので、「作ってやろうか?」と。

ワクワクしていた。卵はふわふわ、ソースがけで頼んだ。
出てきたオムライスは、オーダー通りのふわふわで、ソースとケチャップが程よく混ざったアツアツのオムライスだった。

写真を撮るのを忘れて頬張る。美味だった。 「私、あれからソースかけて食べるの好きになったんだよね。」 「美味いだろ?」 父が笑いながら言う。
美味い。美味いよ。

これが我が家の、#味の記憶