3-⑨ Paint it Black(2)

ウェブの初心者向けペンキ塗りの情報をみるに、晴れの日にするべきものらしい。
「換気を良くして行い、16時くらいまでにはすませましょう」
水性ペンキで大丈夫でしょうとそーた君も言っていたし、検索した情報でもそう書いてあった。

前日の夕方買い集めたペンキ塗り用品しめて6,000円ちょっとを自転車のカゴに乗せて始業時間にブリリアントへ出発だ。

養生がキモらしい。
壁画のある2面のうち1面は、もう1面に比べて面積も広いしなにより、壁のレンガ模様にそって描いてあるのでレンガ一段一段ずつ、丁寧に養生していかなければならない。1面目の養生に2時間かかった。ここでも、上の方の養生やペンキ塗りにボルダリングが役に立った。

ここで休憩をいれて残り物を炒めてドライカレーにした弁当を食べる。
スプーンで押し込む食べ物は、なんとか食べられる。

8月の突発性難聴に続き、10月末には顎関節症で口が開かなくなったのだ。
口を開こうとすると、右の顎関節が痛くて開けられないのだ。
咀嚼すると、涙がでるほど痛い。
スプーンや箸で押し込む、柔らかいものしか食べられない日々が続いた。
ネットを検索してみると、またもや「精神的なものが原因になる場合も」だと。
かなりのプレッシャー、ストレスを感じていると自分ではわかっていたけれども。

かかりつけの歯医者に電話してみると、対応したまず受付、それから歯科衛生士は痛みに対処する方法を知らないようで話がかみあわず、そこで作ったマウスピースの高さを調整しますとか間抜けなことを言うから行くのをやめといた。

調整のために口開けるのさえつらいんじゃ!電話で長いこと歯科衛生士とやりとりしたが、そういえば一か月前にそこでマウスピースの調整をしたところで、歯科医から「毎晩はめてください」と言われたのでせっせとはめるようにして、顎関節の痛みが起こってからも律儀に夜はめて寝ていたのだが、「マウスピースの高さが合ってないのかも」と言われてはじめてむしろそれが原因かもと気づき、はめるのをやめたらそれまで平行線だった痛みが徐々におさまってきた。それでも、普通に口を開けられるようになるまで一か月以上かかった。
それで一気に「歯の高さの調整きちんとできんのかい」とかかりつけ歯科医への不信感がつのった。

あれこれ思いめぐらせるのをやめて、壁の前に立ちはだかる。
1面目を塗るのに1時間半。2面目は単純な長方形で、面積も半分ほどだったので養生に30分、塗るのに15分だった。言うは易し、するは難し。しかし、1面目をざっざっと塗り、だらだらと垂れてくる黒インキをみて丁寧に養生しといてほんとによかったと、養生ってほんと大事なんですねと思った。

「黒塗りで、よかったね~」
とそーた君が言ったのが身に染みてわかった。ほんとに黒塗りでよかった。粗がいちばん目立たない色だと思う。しかも、壁画がない壁は相当古びて傷んでいるから、新しく塗りなおした黒壁はむしろキレイにしてくれてありがとうと言われてもいいレベル。

ひとり、おおいに自己満足した。
これで、ガレージセールの悲しみもむくわれた。

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