1-⑥オフィス撤退1

社長が逮捕された翌週の火曜日、何度か顔を合わせたことのある石原税理士があたしのいるオフィスにやってきて面談、そのあと津野田法律事務所に連れて行き、津野田先生に紹介してくれた。

あいさつ後、津野田弁護士はじめ関係する弁護士と石原税理士の入るLINEグループに参加することになった。
「メールはCcにする等、情報共有はしているのですが、行ける弁護士が順番に接見している状態ですので、質問や連絡をここにあげてもらったら対応しやすいですし、だれがどのように対応したかわかり、情報も共有できますから」
なるほど。
「で、猫田さんも加えますか?」
と訊かれて石原税理士(猫田さんをよく知ってる)とあたしは顔を見合わせて
「…ビミョー」。
「では、やめておきましょうか」

その後のあれこれを思い返すに、あの時猫田さんを入れなくてほんとうによかったと思う。

津野田弁護士と話をして、弁護士LINEでやりとりしてようやくいろいろが見えてきた。

会社の近くに事務所があり、弁護士としてキャリアが長く、刑事事件の経験もある津野田弁護士がリーダー的立場で社長の資産を預かり、管理している。独身である社長の家の鍵は猫田さんが持ち、定期的に郵便物を確認しに行ったり、要請に応じて社長自宅から必要なものを確認したり、弁護士に届けたりしているらしい。青島弁護士は、従業員の雇用に関する調整を担当のようだ。

解雇、契約解除となったひとたちの大半は事情が事情なので仕方なく受け入れているらしいが、ひとり八田さんだけは「納得できない」と抵抗しているっぽい。

「そうだろうな…」

八田さんはもともと社長の遊び友達のような関係だったらしいのが右腕的存在として扱ってもらったのを勘違いして、頭が悪いうえに態度も悪く高圧的、従業員にも取引先にも嫌われて(「用心棒のつもり?チンピラみたいだよ。あの人をそばに置いておくと、かえって社長の評価が下がりますよ」とビジネスパートナーからはっきり言われたとか)社長も持て余し、閑職に追いやって近いうちにサヨナラしたいと常々言っていたから当然の成り行きだろうとあたしたちは思っていたが、そうは思わぬのは本人だけで「社長が大変なときに頼りにすべきは自分である」と思い込んでいたのに逆に切られるというのでぶち切れて、いつもの話にならん論法の展開で弁護士にむかって
「あなたは何の権利があってそんなことを言うのですか?は?」
などとわめいているらしい。

弁護士という職業も、なかなか大変そうだ。


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