1-②状況を教えてくれ
猫田さんは、社長にいちばん近い存在だ。
しかしながら、社長にいちばん存在がいちばん優秀ということではない。
残念ながら。
社長にいちばん近くて、信頼も厚いはずなのだが
なのにというかだからかなのか、しょっちゅう社長に怒られては固まっている。
どうやら社長は、自分に心情的にちかい相手には感情的に振舞ってしまうものらしいのだが(仕事は家族、パートナーとしないほうがよいというのは経験上あたしもよくわかるが。が、猫田さんは社長の恋人ではない念のため)
猫田さんの動きも悪い。
社長への報告の仕方やタイミングがまるでマズくて、毎度のように怒らせている。報告すべきことと不要なものを選別できない。手短に伝えることもできない。報告すべきことを不要だと思ってせずに後から社長が知って取引相手前で恥をかかされたり、必要な動きができずに怒られる。逆に不要なことをくどくどと説明するのだが、まるで要領を得ない。問い詰めたら固まったり、よけいマズい動きするから社長がさらに怒る。悪循環で、社長があたしに愚痴る。一時、その猫田さんを「指導」するように社長から頼まれてなんとかしようとしたことがあったものの、まるで話が通じないので疲れ果ててしまった。
ものごとを順序だてて説明する能力がまるでないひとが存在することをはじめて知った。
「時系列で説明しろ」と言ってもそれができず、
「それですべてです」
と言ったはずなのに、後出し情報が出るわ出るわ。
順番が間違っている。
内容に一貫性がない。
それらを指摘すると「申し訳ございません」で終わらせる。
謝ればいいと思っているらしい。
ものごとを四角四面にとらえて応用がきかない。
一旦「これ」と説明されたら、なにがなんでもそれで、彼女の頭のなかで変更がきかない。
あたしと照山さんはオフィスでPCを使う業務に従事しているが
猫田さんが社長が会社を興したときの事業、配送業を担当している。
その猫田さんが担当している月イチの案件、人手がいるものの
なかなか1日だけのバイトを探すのは難しいということで
その日だけ、あたしと照山さん、それから別事業部のゲンくんの3人、それから社長自身が助っ人として応援に入り、作業を行っていた。
もっとも社長はなにかしら「用事がある」とかで、最初と最後に登場するくらいだけれど。
その月イチ作業が社長逮捕の報をネットでみつけた翌日にある予定だった。
「あたしらはネットで情報みつけたけれど、猫田さんはどうなんでしょう?」
と照山さんと話し合ってると、会社の方針で連絡はそれで取りあうことになっているSkypeの業務連絡グループに、猫田さんからメッセージがはいった。
「明日は10時からМ社の倉庫1Fで、よろしくお願いします」
そうそう、この連絡にしてもだ。
これまで半年間、手伝ってきたが
作業場所はМ社倉庫はわかっているが、何階のどの場所に何時?
担当なら、前日までに集合場所と時間を連絡するだろう。
それが、「これは社長がとってきた仕事ですから」社長が連絡すべきものと思っているらしい。
待て待て待て、
どの会社でも、社長が責任取る仕事だからって社長がすべて手配連絡するか?
そら、うちの社長はある程度自分でいろいろやりたがるけれどもさ、
担当者としてうまくサポートするのが部下の仕事だろ。
「社長から連絡がいってるとは思いますが」
という枕詞つけてでも必要と思われること連絡しろ。
猫田さんはどうもここら辺がわからないようで
照山さんは「京都人として、はっきり言わないことが美徳」と思っているらしく、猫田さんの足りんところをこちらにはさんざん愚痴るくせに、本人にむかっては一言も言わんから、あたしがひとりお局のように猫田さんにぎゃあぎゃあ言って、さいきんようやく、集合場所や時間を事前に連絡してくるようになった。
あたしがぎゃあぎゃあ言うのを「ご指導ありがとうございます」と肯定的に捉えてくれるのは彼女のいいトコなんだけど、足りないところがありすぎて、いちいち指摘するのが疲れるし、じぶんがお局様になったようでいやになっちゃうんだ。はあ。
しかしだ。
タイホのタの字にも触れずに
「明日はよろしくお願いします」?
社長逮捕の報、彼女は知らないのか?
いや、明日社長が音頭を取ってる案件なのに、社長からなんもないっておかしいと思って連絡とろうとするだろう。消息さぐろうとするだろう。
しかし、こちらからどう言ったもんか、、、
照山さんと「どうなんでしょ?」と顔を見合わせた挙句、
「まあ、とりあえず明日行ってみますか…」
となった。
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