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ひらくヨムヨム

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彼方ひらくが現代の俳句を鑑賞します。
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#現代俳句

俳句鑑賞 ひらくヨムヨム002

ソフトクリーム舐むれば個人的な崖西生ゆかり  二十一世紀に入って日本人の主語は小さくなった。団塊から少子化へ、高度経済成長期から失われた20年へ、SNSの流行とか価値観の多様化とか、理由を挙げれば枚挙にいとまはないだろう。いつしか周囲に気を遣った「個人的には」という言い回しが一般化した。  対して俳句では、以前から「私」とか「吾」とか書いて自己主張することは嫌われがちで、なんとかこの言葉を使わずに表現するという配慮が要求されがちである。  掲句は一物仕立ての顔をしながら、こ

俳句鑑賞 ひらくヨムヨム001

巨大蛸(クラーケン)の白夜を歩く針のごと小田島渚 第39回兜太現代俳句新人賞受賞作「真円の虹」より  天地創造の頃より存在するという得体の知れない怪物が、ノルウェーの白夜に身を晒している。大きさは一つの島ほどもあると云う。何本あるか知れない足と触腕を、針のように鋭く、街に森に氷原に突き立てて歩いている。本来ならば、この偉躯を人が目にすることはないのだが、日の沈まぬ時計の壊れた世界ならばむべなるかな。  いやひょっとすると、クラーケンは異空間にある時計盤の上を歩いているのでは