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ひらくヨムヨム

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彼方ひらくが現代の俳句を鑑賞します。
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2023年12月の記事一覧

俳句鑑賞 ひらくヨムヨム005

甘やかす孫と昭和の扇風機杏乃みずな 「2024年版夏井いつきの365日季語手帖」特選より  シンプルに因数分解されている句だ。「甘やかす」は「孫」と「昭和の扇風機」の双方に掛かる。孫を甘やかすのは普通だが、昭和の扇風機を酷使もせず、捨てもせず、眠らせもせず、甘やかしてしまう作者の年の功。例えば首振り機能が壊れてガタガタ鳴っていたら、やさしく撫でて今日はちょっとご機嫌斜めみたいだから休ませてあげましょうかね、といったところだろうか。分解して油でも差してやるかもしれない。  令

俳句鑑賞 ひらくヨムヨム004

風花や相手のいない糸でんわ平田素子 第二十五回横光利一俳句大会 一般の部 野中亮介選者賞より  相手がいなくなったのではない、最初からいないのだ。糸電話のぴんと張った糸が伸びる先は、風花の支配する、明るく華やかで、茫漠とした空間である。なにかを喪失したわけではないが、虚無でもないことが却ってさみしい。相手を切望しないことがさみしい。  この人は子供だろうか、大人だろうか。一人の糸電話はちょっとした手なぐさみか、ある種の儀式のようなもので、相手など必要ないのだろうか。望むと望