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チ虎魚焼きの香り立つ


天衝山の近くにお気に入りの場所がある。
滝から流れ落ちる清水が美しく、白と黄の蓮が水面に揺れるちいさな水辺だ。
宝盗団の根城と化した廃村と廃寺のすぐ傍にありながら、穏やかで綺麗なこの場所が私は大好きだった。

その廃寺と廃村にいろいろと歴史があったことを知ったのは、実はごく最近のことである。

廃寺は夜叉の一人「銅雀」さんをかつて祀っていたお寺。そのすぐ近くの廃村は、申鶴さんの今は無き故郷だったらしい。
好きな場所に歴史があり、それを知るというのはなんとも嬉しいものである。まあ、どちらも明るい歴史ではなかったわけだが……それはそれ、旅人としての思い出のページが増えたことはたいへん喜ばしい。

お気に入りの場所に来る度に、荒れ果てた銅雀さんのお寺をどうにかできないのだろうかと、たむろしている宝盗団をボコりながらいつも思っていた。
これほどお寺を思うのは、そう、銅雀さんのことが好きだからである。夜叉でありながら柔和で安穏としたひと。世のため人のため戦ったというのに、今や彼を信仰する人間もなく、寺も見る影もないほど朽ち果てている。そんなの切なすぎるではないか。

そんな風に思っていた日々に、ついに変化の時が訪れた。あの嘘つきクソ野郎の平安が寺を修繕すると言い出したのだ。
それを聞いた私が心の底から泣いて喜んだのは言うまでもない。マジで平安おまえいいやつだなありがとう。握手しよう。この功績に免じてかつての愚行は綺麗さっぱり水に流してやるからな。そして神アプデをありがとうみほよ。愛してる。

かくして、お寺は見事に修繕され、彼のためにお線香も上げられるようになった。

いつもの風景が少しだけ変わって、私の気持ちも少しだけ前とは違うけれど、ここに来ることは変わらない。

また会いに来よう。
一束のお線香と焼きたてのチ虎魚焼きを持って。


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