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隣人の愛を知れ

今迄手に取った事のない作家さんの作品。去年本屋さんでもう一つの作品の題名に惚れ込んで拝読した後に、再度本屋さんにてその作品の恋の続きとしても捉えられる作品として紹介されていたので、直ぐに購入して読了した小説。

【ざっくりすぎるあらすじ】
水戸家の家族。母美智子・姉知歌・妹ひかり。そして、水戸家となんら関係ないように思えるスタイリストのヨウ・女優の青子・小学生の莉里。

誰かを大切に思う程淋しさがつのる彼女達の日常が予想外の「事件」をきっかけに一変する。自分で選んだはずの関係にどこで決着をつけるのか?素直になる勇気を得て、新しい人生へ踏み出す六人の軌跡を描いた恋愛小説。


初めて手にした作家さんである。

筆者の読み物の好みは激しく偏っていて、どちらかと言えば恋愛ものなどよりも、どこから読んでも笑えるようなエッセイ本のようななんとなく気になる人の
「日常」が垣間見える作品が大好きなのだが今回は、冒頭にもあるようにこの作家さんの別の作品のタイトルに一目ぼれをし、読了後「この作家さんの他の作品も読みたい」と再度書店に走って購入したのがこの作品だった。

作品はそれぞれの人物の視点からのオムニバス形式で構成されていて、最初は登場人物の水戸家の母と姉妹の関係性やその水戸家の家族だけの話と思いきや、同時進行している女優の青子や、スタイリストのヨウ。そして、小学生の莉里と水戸家の関係性もつながっていき、作品が進むにつれてそれまでの点と点が線で繋がっていく様を読み進めていくうちに感じ取れると共に、それぞれの立場の女性達の感情やその立場であるから見える視点なども加わり、最後には「なるほど」となる。
作品全体の話の流れの中で「全て丸く収まってめでたし、めでたし」でもないし
世間一般論で捉えれば一見「バッドエンド」の道を選んだのではないだろうか?と思える登場人物もいる。
が、筆者からはこの小説はものすごく「それぞれの登場人物が自分にとってベストな道を選んだ」「希望の光の塊」にも受け取れる最後に思えた作品だった。

何よりも、水戸家の母美智子が「自分が時代遅れの女性だと自覚している事」や、その娘の知歌とひかりそれぞれに「自分が生きていく上で譲れないもの」や、無意識に抱えている「コンプレックス」なんかもとても言葉豊かに表されていてそこから「この行動に至ったのか」と理解できた上でその後の作品の話の流れがスッと頭に入っていく。

オムニバス形式で進む作品なので最初はなぜ女優の青子やスタイリストのヨウが出てくるのか?一瞬ショートショートの作品で読んでいた話は余白を残して終わったのだろうか?と感じるのだが、後々にちゃんと一本の糸で全ての登場人物とストーリーがつながり、そしてそれまでの出来事に全て納得した上でそういうラストなのか!と腑に落ちる作品だった。

どの人間の人生にも本来は「勝ち負け」など存在しない筈だが「家族」だったり「夫婦」だったり「姉妹」だったりで不思議と「守りっておきたい自分なりのプライド」ができているのが人間でありそのプライドの奥に隠れている「自分の核心」に触れられると大体の人間は恐れてその人物に対して怒りを感じたり攻撃することもよくあることだが、この作品はその「自分の核心」をいかに素直に認め、相手との関係性や自分のこれからをどう新しく一歩踏み出していくのか?を六人の女性の視点でそれぞれの人生を語っていく事で「ちっぽけな自分」や「何に自分がこだわっていたのか」や「それは手放していいものなのか?」「今後も守っていく揺らぎない信念なのか」が分かれていく。

恋愛小説とも勿論とれるけど、この作品はなんというか巧妙なパズルの様な迷路の様な、それぞれの登場人物の心の動きを文章から汲み取った上で彼らの関係性のなぞ解きをしているような感覚にされる色んな見方のできる作品だったな。
というのが筆者の感想だ。

著者の尾形真理子さんはコピーライター・クリエイティブデイレクターとして活躍なさっている方だそうでLUMINE広告をはじめ様々な企業広告を手掛けているそうだ。

どうやら小説としての作品はこの「隣人の愛を知れ」と筆者が本屋さんでタイトルに一目ぼれして購入した「試着室で思い出したら本気の恋だと思う」の二作品だけの様子(筆者調べ)

文章の組み立てと、一見なんの関係もなさそうな登場人物達の入り組んだ様子なども読み進めていくうちにとても楽しめ、そして「女性」として彼女たちが自分に正直になり選んだ「道」をその後きっと自信を持って歩みを進めていくであろうと思える作品でした。

個人的にはスタイリストのヨウさんのパートナーへの愛や、パートナーと築いていった月日と日常へのこだわりなど、生きてきた時間と彼女がその日常を過ごすために自ら背負った事柄の上で成り立っていたパートナーとの数十年の日々の事柄を綴る著者の繊細で柔らかな言葉選びから紡ぎだされる文章が、明る過ぎない温かく柔らかい灯りと、趣味のいい食器とヨウが作る美味しいキーマカレーの香りがフツフツと立ち込めるそんな情景がフッと目に浮かぶ彼女の章が筆者は個人的にとても好きでした。

去年の秋に文庫版として幻冬舎から発売されていますので、気になった方は書店にて手に取ってみてください。


隣人の愛を知れ

著者:尾形真理子
出版社:幻冬舎
初版:令和3年9月10日


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