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イカの卯の花詰め

 イカを加熱調理する上で金石の母ちゃんたちが口を揃えるのは「とにかくサッと火を通す。」ということである。火を通しすぎると固くなり味も抜ける。だから駅弁などで有名な市販のイカ飯はすこぶる評判が悪い。日持ちを考えてのものだろうが、火を入れすぎてイカの本来の味を殺してしまっているという評価だ。

 ではどうするか。もち米(うるち米も混ぜる)はあらかじめ芯が残るぐらい火を通しておき、イカに詰めてさっと煮て作る。また、イカは大きいものではなく小さいものを使うと柔らかく仕上がるというのも複数聞かれた。さらには詰める米の量も少なくて済む分煮る時間が短縮できる。
 ただし火を通す時間が短ければ米に味がしみこまないので、そうなると米にあらかじめ味をつけておく、または煮汁に片栗粉などでとろみをつけて、それを回しかけるなどの工夫が聞かれた。

いかめし

 母ちゃんたちの創意工夫の話を聞けば聞くほど、これは世にいうPDCAサイクルだなと思う。どのようなものに仕上げるのか計画(Plan)して、調理(Do)する。仕上がりをチェック(Check)して、改善(Act)する。一つの料理でもそれぞれの課題があり、解決策があり、その結果いろいろな調理法が生まれる。料理の根底に流れる地域共通のものがありながら多様さがあるのが地域の食文化の魅力であろう。

 さて、表題の”イカの卯の花詰め”である。似た料理でイカの鉄砲焼きがある。この料理名自体は全国に見られるが、金沢のものはおから、すなわち卯の花を詰めるものが一般的だ。こちらはスルメイカの胴におからを詰めて炭火で焼く。焼きあがったところで、全体をタレの中にジュウっと浸して完成させる。金沢の夏を代表する総菜である。売り手である魚屋は、夏場は底引き網漁がないのでものがない。一方買い手である台所を預かる主婦もクーラーのない時代、なるべく火を使いたくない。売り手と買い手の思惑が一致したヒット商品だ。
 似ているが金石の主婦が考案した”イカの卯の花詰め”はその系統からの派生ではない。季節に限らずイカの消費を増やそうと、各地に料理教室に走ったその主婦は最初はイカめしを教えていたそうだ。ところが普通の作り方だと時間がかかってイカは固くなり、また限られた時間の中での料理教室には向かない。また最初にもち米に下味付けたり軽く火を通したりすると手間が掛かって不評を買う。そこで、もち米ではなくおから煮を入れる調理を思いついた。当時一般に作られていたおから煮をあらかじめ用意しておけば、あとはイカに詰めて蒸してイカの色が変わればOK。最後に生姜餡を回しかける。イカは柔らかく甘味があり、中のおから煮の味が優しい。全体に絡んだ生姜餡が味を引き締める。味はもちろん見た目のインパクトもあって、料理教室の大人気メニューになったそうだ。

イカの卯の花詰め
①イカはスルメイカやヤリイカなど。小さめのものが柔らかく仕上がる。内臓と軟骨を抜く。ゲソは粗みじんにする。
②粗みじんにしたゲソをおから煮に混ぜてイカの胴に8分ほどつめて楊枝で口を閉める。
③②を蒸し器で色が変わるまで蒸す。3分ほど。
④蒸す間に生姜餡を作る。水、醤油、砂糖を適量煮立たせる。おろし生姜を加えたら水で溶いた片栗粉を加えとろみをつける。
⑤蒸したイカは食べやすい大きさに輪切りにして皿に盛る。生姜餡をかけて完成。

イカの


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