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コッペの皿ねぶり

金沢市民が「コッペ」と呼ぶ食材がある。いかにも方言というような、親しみやすく砕けた語感で呼ばれるこの食材は、イワシやカレイなどと並ぶ、金沢市を代表する大衆魚で、一匹丸ごと店先に並ぶことはなく、座布団の端を三角に切ったようなヒレだけがが重ねて売られている。漁師でもなければ、コッペの全体の姿をみることはほとんどなく、金沢市民にコッペとはどんな魚なのか聞いても「エイみたいなものだけど、エイじゃないもの」という漠然とした返事が返ってくるだけである。ちなみにれっきとしたエイの一種である。

コッペほど、性別によってはっきりと評価が分かれる魚はない。エイには細長い尻尾があるが、その尻尾を挟むように一対の細長い足みたいなものがあるのがオスで、俗に「三本足」と呼ばれる。それがないのがメスで、「一本足」という。人気は圧倒的に「一本足」のメスだ。地引網などでコッペがかかっても「三本足」は引き取り手がいないほどである。

味は淡泊で上品だが、ゼラチン質でねっとり感があり、また硬い骨はなく噛み切れるほどの軟骨のみであるのも特徴の一つだ。これらの持ち味が存分に生かされた調理の数々が、今でも金石の地に伝えられている。

コッペの煮つけ

ネットリとした煮汁も魅力

①皮のヌメりが白く濁っているようであればさっと洗う。
  ※ヌメりも味である。必要以上に洗わない。
②金石の基本的な煮魚の作り方を参照。鍋に200㏄の醤油を入れて強火で熱する。沸騰したらコッペを入れて蓋をする。泡で火を入れる感覚。途中吹きこぼれに注意。

醤油の香ばしい匂いが立ち込める

③5分経ったら火を止め、蓋をしたまま1分ほど蒸らす。
  ※コッペは他の魚より長めに煮て、ねっとり感を引き出します。
④固い骨がなく身が崩れやすいのでフライ返しなどを使って、慎重に皿に盛る。上から好みの量の煮汁を回しかけて完成。

骨は全部軟骨なので骨ごと全部食べることができます。ヒレの根本の軟骨が少し硬く感じるようであれば、あらかじめその部分だけ切り取っておきます。。取った軟骨は後で紹介するコッペの軟骨唐揚げに使います。
金石の煮魚は基本、煮汁ではなく身のうまさを追求するものですが、コッペの場合はとろりと仕上げて煮汁を味わいます。身は軟骨ごとすべて食べきり、皿に残った煮汁も舐めたくなるほどの美味しいものであることから「コッペの皿ねぶり(”ねぶる”は舐めるの意)という言葉も伝えられます。骨も残らないので、後は真っ白な皿だけが残る寸法です。

コッペの煮凝り

完全にゼリー状になった煮汁

①鍋に醤油、酒、砂糖、水を入れて沸騰させ、コッペを入れる。
②再沸騰後は弱火にして15分ほど煮る。
③針生姜を加えて火を止める。
④粗熱がとれたら冷蔵庫に入れておくと、煮汁が固まって煮凝りができる。

前述の「コッペの煮つけ」の作り方でやっても良いのですが、醤油が強いので煮凝りを作るときは醤油を薄めるやり方で。

コッペの軟骨揚げ

中はグニャっとした不思議な感覚


①ヒレの根本の軟骨の硬めの部分を切り取る。下の写真の青く囲んだあたり。軟骨以外は煮つけなど別の料理に使用する。

②クッキングペーパーなどで水気を取ったら、片栗粉を付けて180℃の油で5分ほど揚げる。塩を振りかけて完成。あらかじめ塩コショウや、醤油と生姜などで下味をつけておいてもよい。

鶏軟骨揚げのコリコリ感とは違った食感が楽しめます。

コッペのヌタ

サッパリと淡泊な味

①コッペは軍手やペンチなどを使って皮を剥く。
②①に塩を振って1時間ほど置く。
③②を洗って軟骨を断ち切るように、細切りにする。

④③をヒタヒタの酢に漬けて30分ほど置く。酢に漬けておけば保存がきくので、そのまま2日ほど置いておくこともできる。
⑤サッと茹でたネギと酢味噌と④を合わせる。

コッペの三杯酢

とろみがかった三杯酢に浸して

①~④コッペのヌタの①~④までと同じように酢漬けを作る。
⑤酢漬けに使った酢と醤油と砂糖を合わせて、コッペを三杯酢に和える。

写真のものは酢漬けにして一晩置いたもので作りました。コッペから溶け出した成分によって、とろりとした味わいが特徴です。金石の北に位置する、内灘町向粟崎町近辺の言葉を集めた「加賀・能登アイサの生活語辞典(藤島学陵著)」には「コッペノ スノモン サラ ネブリ」とあり、コッペを三杯酢で食すと美味であると記されています。金石でも「コッペのなます皿ねぶり」との文句が伝えられておりますが、2022年7月現在でどのようなものであったかまでは分かっていません。今回は藤島氏の著作をもとに再現してみました。

コッペの一夜干し

皮つきの一夜干し焼き

①コッペはお好みで皮を剥く。写真は皮つき。
②3%の塩水で1時間ほどコッペを漬ける。
③水気をよく吹いて、半日陰干しにする。暑い時期は脱水シートに包んで、冷蔵庫に1日置いても良い。

コッペの厚みが2/3ほどになったぐらいが食べごろ。魚焼きグリルやフライパンを使って熱を入れる。他の一夜干しよりも脂が少ないので、ご飯のおかずよりも、酒のアテに相応しい。

コッペの焦がしバターソース

淡泊な身とバターが好相性

①軍手やペンチを使ってコッペの皮を剥く。
②フライパンにコッペが浸るぐらいのお湯を沸かし、白ワインや黒コショウ粒、セロリの葉やくず野菜などを入れる。なければお湯だけでも良い。
③コッペを入れて再沸騰後は、弱火で10分置く。
  ※お湯がグラグラしすぎると身が崩れる。ユラユラとお湯に浸す感覚。
④焦がしバターソースを作る。鍋にバターを入れ中火で加熱。途中塩少々とケイパーを加える。バターが茶色っぽくなったところでレモン一かけを絞り、火を止める。
⑤③を皿に乗せて、④を回しかける。皿に乗せる際はフライ返しなどで、身が崩れないようにする。

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