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土用の暑気払い 皮クジラのおつゆ

夏の土用にはウナギやドジョウの蒲焼を食べる文化があるが、金沢では土用に入り、2020年では7月19日から旧盆の夏の時期に“革クジラのおつゆ”をいただく習慣がある。クジラの皮のことを金沢ではなぜか逆に呼ぶ。
外の黒い部分と内側の脂身とからなり、葬式のときの白黒の幕を鯨幕というのはそこからきているらしい。それだけ身近な食材だったということだろう。私が小学生ぐらいのころまでは夏の定番で、塩の効いた出汁にクジラの脂が浮いて、汗をかいた体に沁み渡るという滋養食であった。
ここ30年ぐらいは材料が手に入りにくくなり、とんとご無沙汰だったが食べた瞬間昔の思い出が戻るのが食の効用であろう。大人になったら酒の肴にもなることに気づいた。
一時は高級品と化していたが商業捕鯨が再開されたこともあって、だいぶん手に入りやすくなった。

他所ではクジラ汁というらしく、新潟県や北海道南部などの郷土料理なのだそうだ。クジラの皮を塩漬けした塩クジラは北前船の産品のひとつだったのでインターネットで検索する限りはやはり北寄りの日本海側寄港地でよく作られる印象がある。
ちなみに他所のクジラ汁は具だくさんで。大根、人参、豆腐、コンニャク、ナス、ユウガオなどなど。金沢流は出汁に塩と醤油の澄ましでササガキごぼうを入れてシンプルにいただく。金石もそれにならうが、田畑がある在所では味噌汁や粕汁になったりする。この辺の違いは「町=商品経済=醤油文化」「在所=自給自足=味噌文化」ということなのであろう。

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調理の肝は下処理につきる。酸化して黄色くなっているものはその部分をそぐ。2,3ミリに切ったものを湯通しして冷水にとって臭みを抜く。それでも足りなければ、
・湯通し⇒冷水を繰り返す
・湯通しではなく煮る
・ヌカを加えて煮る
などする。多少しすぎても味は抜けない。買った皮クジラによって柔軟に対応する。あとは出汁を入れてササガキごぼうを入れるだけ。
金沢のクジラ汁は上品な味わいなのだ。

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