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金石の夏

浜沿いにある金石松前町は北前船が盛んなりしとき、「松前」の名の通り北海道との交易で栄えた場所だ。50年ほど前は高級避暑地として知られ、別荘が立ち並び石川県知事も夏の休暇に滞在していたらしい。日差しが燦々と降り注ぐほど、海からの涼しい風が吹き抜けるのは金石の夏の特徴だ。昨年8月寺の本堂で法事を行ったとき35℃の最高気温を記録した日であったが90歳前ぐらいの女性が「寒い」とおっしゃられたほどである。

「夏になると急に親戚が増えてどもならんかった。」

3年前100歳で亡くなった婆ちゃんが昔を振り返りこうこぼしていた。海水浴やら祭やら避暑やらで、夏になるといろんな人がうちの寺に泊まりにきた。嫁に来た婆ちゃんにとっては親戚と名乗られても良く分からず、日替わりでの接待は大きな負担だったのだろう。寺に限らず夏に親戚が来てお嫁さんが苦労したのは「金石あるある」で、それだけ人が集まる魅力があったのだろう。

そんな金石の夏の馴染みの料理が冒頭の写真の小豆貝の煮付けだ。「春の祭りはタニシで夏は小豆貝」と言われる祭料理の一つであるが、祭料理というよりも夏料理というのがしっくりくる。この時期普通に食卓に上がる。小豆貝がないと金石の夏は始まらないという人もいる。いったん茹でこぼして、ひたひたの水からもう一度煮て砂糖、醤油、味醂、酒などで甘辛く煮る。針生姜を加える人もいれば、茹でこぼした時点で身を出して煮る人もいる。一晩冷蔵庫において味の染みたのも格別である。

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