「あるがまま」を超えて-2023年度国際日本学部卒業生へのメッセージ
みなさん、ご卒業おめでとうございます。みなさんは国際日本学部の栄えある一期生として、今日、みなとみらいキャンパスという学び舎をあとにします。国際日本学部が大事にしている言葉として、"We all need roots and wings !"、「私たちはみな、根っこと羽根を必要としている」という言葉がありますが、みなさんは今日、自分たちの羽根で、翼広げて飛び立つのです。
ただ思い出してみてください。みなさんが入学した年は一年間、キャンパスに入ることができませんでした。多くの出会いがあったはずの大事な時期に、実際に会って話をすることができなかったのです。
それでもみなさんは、未体験のオンライン授業に挑戦し、関係性の構築に向けて粘り強く取り組んできました。2年次以降もマスクをつけて授業を受けたり、留学などの機会が制限されたり、数多くの障害が立ちはだかる状況は続きましたが、みなさんは大学生活の基本、いわばrootsを見失うことなく、互いに勇気づけ合いながら学業を成し遂げてきました。
私はじめ、学部教員はみなさんのこれまでの努力に驚嘆し、誇りに思っています。みなさん一期生こそ最強の学年であると、手放しで褒めたたえたいと思いますし、みなさんと教室やオンラインで語り合えたことは、一生忘れることのできない思い出となると確信しています。
みなさんはこれから仕事についたり、研究者を目指して大学院に進学したり、あるいは留学を目指すなど、さまざまな進路に向かっていくのだと思います。4月からの新しい世界では様々な人たちに出会うことになります。会社では年齢も違えば、生きてきた経験も自分とは全く違う人たちと接していくことになるでしょう。春は新しい季節、周りはうきうきしているように見えるけれども、やや浮足立つというか、苦手な季節と思っている人も多いと思います。少なくとも私はそうです。
新しい世界に不安を覚える人に対して、まず、「そのままで大丈夫だよ」「あなたはあなたのままで」と言いたい気持ちはあります。みなさんはもう少し自信をもってよいし、国際日本学部での学びで鍛え、友人どうしで高め合った力は、どこにいっても通用するものだと保証します。
一方、みなさんはまだ人生の途上にあることも忘れないでいてほしいと思います。「ありのままで」いることも重要でしょう。ただ、今自分が持っている意見が変わること、ぶれることを決して恐れない「しなやかさ」を大事にしてもらいたい。人間は変身していくものなのです。
このようなことを伝えたく、みなさんに最後のメッセージを贈りたいと思います。山田太一さんをみなさんは知っていますか。昨年亡くなった、日本を代表するドラマ脚本家です。人間の悲しい姿も隠しておきたい想いも臆することなく描き出した作家ですが、彼の作品に『早春スケッチブック』という、40年前ぐらいにテレビ放映された作品があります。季節としても今にぴったりなのですが、ある平凡な家族に山崎努演じる謎の男が現れ、「お前らは、骨の髄まで、ありきたりだ」と言い放ち、一人ひとりがそれぞれの人生を見つめなおす…というドラマです。再放送などで見る機会もあると思います。
このドラマを締めるのは、高校三年生の息子が語る、次のナレーションです。
「あるがまま」もいい、だけど背伸びをしたり、ぎこちなかったり、「らしく」ないことをするのも、すばらしい。自分はそう思えなくても、「いいな」って思ってくれる人が絶対にいると、信じてほしい。無理をするのも、みなさんの世代の特権です。これがみなさんに贈りたい言葉ですし、みなさんだけではなく、どんな年齢でも自分を変えてよいのだと信じて、私自身も含めて肝に銘じたい言葉にしたいと思います。
みなさんには「国際日本学部」という不思議な学部名のもと、「国際文化交流」「日本文化」「歴史民俗」という名前を胸に刻んで、新しい社会に踏み出していってほしいと願っています。みなとみらいキャンパスは文字通り、みなさんにとって「みらい」の「みなと」であり続けます。いつでも帰ってこれる港として、たまに大学の近くに来たら一声かけてもらえるとうれしいです。みなさんのこれから進む航路が光によって明るく照らし出されることを祈って、卒業を祝うあいさつとさせていただきます。
国際日本学部長 熊谷謙介
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