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観光地理学ゼミで「柴又巡検」に出かけました!

                   内山結菜・中新佳那・藤巻さやか

 私たち国際日本学部、観光地理学ゼミナール(2024)では2024年4月21日(日)に東京都葛飾区柴又の巡検を行いました。本noteでは柴又巡検で訪れた場所やゼミナール生の感想を掲載します。

【柴又駅駅前】
江戸川の西岸に位置する葛飾区柴又は、映画『男はつらいよ』の舞台としても知られており、毎年多くの観光客が訪れます。『男はつらいよ』の第1作が公開されたのは昭和44年。柴又では映画公開当時の古い町並みが町全体で守られており、最寄りの柴又駅から映画の世界観が広がっています。駅前の広場には、劇中のシーンを再現したフーテン寅像と見送るさくら像が設置されています(写真1)。また、駅名看板は毛書体で書かれ、コンビニエンスは木を連想させる茶色を基調となっています(写真2)。これらは古い町並みが残る柴又の景観に配慮したものであり、私たちの巡検は「柴又の文化的景観」が調査テーマでした。

写真1
写真2

【帝釈天参道】
帝釈天参道は柴又駅から柴又帝釈天へと続く200メートルほどの参道であり、江戸時代から続く店舗が軒を連ねています(写真3)。江戸時代に農家の副業として軒下での商売が始まり、参道沿いには当時から変わらない生業風景が広がっています¹。実際に私たちも商品を購入しましたが、軒下で交わされる店員と客のやり取りには、普段の買い物とは異なる、どこか温かな雰囲気を感じました。
帝釈天参道は「都市計画法」の「高度地区」によって、建物の高さは10m(一部16m)までに定められています。また、「東京のしゃれた街並みづくり推進条例」に基づく「街並み景観重点地区」の指定、「景観法」に基づく「景観地区」、「文化財保護法」に基づく「重要文化的景観」なども適用されています。たとえば景観地区では、「高さ制限16m以下の区域は、参道から5.5mまでを高さ10m以下にする。高さ制限10m以下の区域は、3階まで。参道の景観に配慮する」(葛飾区都市計画課都市計画係2023)という景観形成基準が記されています。実際、建物全体が低層で揃えられており、参道を歩いても圧迫感を感じません。また、電線は地中化され、歩道は石畳に統一されており、昔ながらの雰囲気を残すための景観的工夫が施されています。

写真3

店前に設けられた格子は和風をイメージしてつくられています(写真4)。建物に合う木造の格子で統一されており、閉店時でも文化的景観を守る工夫が施されています。建物の保存については、建物の外観のみ指定し、内装については問わないファサード保存が採用されています。このような柔軟な制度によって、地域住民にとっても無理なく昔ながらの景観が保たれているのではないかと考えました。

写真4

柴又観光案内所に置かれたガイドマップは多言語対応がされていました(写真5)。外国人観光客の誘致にも力を入れています。

写真5

【柴又帝釈天】
正式名称は経栄山題経寺といいます。門前通りの正面にそびえたつ二天門は欅造りの2階建ての門であり、日光東照宮の陽明門をモデルにしたとされています²。帝釈堂には日蓮聖人が衆生の病をなくすため願いをかけて刻まれた板本尊を祀っています³。帝釈堂の手前にある瑞龍の松は東京都の天然記念物に指定され、大枝は3方向に長く伸び、南北の枝は帝釈堂を守るようにして伸びています⁴。安永8年(1779)所在不明だった板本尊が発見されたことが契機となり、経栄山題経寺は江戸市中の人々や近隣の信仰を集めるようになりました。この頃の庚申信仰の流行も相まって経栄山題経寺は、帝釈天や帝釈様の通称で知られるようになりました⁵。

帝釈天題経寺の参道を抜け、帝釈天に入った私たちは、境内や帝釈堂、邃渓園、彫刻ギャラリーなどを各々で散策しました。以下は本ゼミナール生たちの感想の一部です。
・帝釈天の中に入り、彫刻を見た。実際見ると彫刻の繊細さと迫力に驚いた。柴又らしさを表す、祭礼や年中行事など365度いろいろな角度から彫刻で見ることができ感動した。更に庭園は今まで一度も行ったことがなかったために綺麗さに感銘をうけ、特に管理が大変である植物をここまできれいに保てていることはそれほど人々の町並みに対しての熱い思いがあるからだと感じた。

・彫刻ギャラリーに展示されていた作品は、人の動作や表情まで細かく巧みに彫られていた。邃渓園は全体的に整備されており、まるで時代劇のセットに入り込んだかのような感覚に陥る。

・帝釈天題経寺の境内に入ると、それまでの参道に対して中は広々としていることがわかる。それに加え、門や参道の方角に対しても本殿(帝釈堂)の構えは微妙に角度がついており、別空間を感じさせる不思議さがあった。題経寺の堂舎に行けば、境内の広さからは思いもよらないような、壁一面に密集した彫刻を眺められる。 

写真6
写真7

 帝釈天経題寺の見どころの一つ目は彫刻ギャラリーです。帝釈天では、二天門や帝釈堂、水堂などに彫られた美しい彫刻を見ることができます(写真6)。彫刻ギャラリーの先には見どころの二つ目である邃渓園という庭園があります。大正15年(1926)発行の『帝釈天境内全図』に庭園が描かれていることから、その前後に作庭されたとされています。庭園は昭和初期に第一六代観明院日済上人より依頼を受けた老巧の庭師、永井楽山が大幅に手を加え、昭和40年(1965)、ほぼ現在の姿に完成しました⁶。庭園内は渡り廊下を使い、巡ることができます(彫刻ギャラリー、邃渓園は有料)。(写真7)

【山本亭】
 帝釈天を巡った後に訪れたのは山本亭です。山本亭は書院造に洋風建築を取り入れた近代和風建築の母屋と純和風の庭園(写真8)とが見事な調和を保つ古風な日本建築です。葛飾にゆかりのある山本工場(カメラ部品製造)の創立者である山本栄之助翁の自宅でした。山本亭の庭園は「Sukiya Living(数寄屋リビング)/ジャーナル・オブ・ジャパニーズ・ガーデニング」が実施した日本庭園のランキングで2019年4位にランクインしています⁷。
山本亭内には喫茶もあり、この地を訪れた観光客が庭園を眺めながらお茶をしていることが印象的でした(写真9)。

写真8
写真9

【水路の暗渠化】
 柴又が江戸時代の面影を残すのは、帝釈天参道のあるまちの中心部だけではなく、その周辺部にあたる住宅街にも窺えます。柴又南部の住宅街には、広い敷地を持つ「旧家」が点在しており、その建物はかつてここが農村部であったことを物語っています。そしてこの地の農業を支えたのが「柴又用水」です(写真10)。江戸川を真横にもつ柴又ですが、微高地であることから水が得づらかったため、河川の上流から水を引く必要がありました。文政9年(1826)の「柴又勧農事績碑」や明治6年(1873)の「柴又用水の碑」によると、柴又用水は天保6年に開削され、また当時の柴又は度重なる天災を受けて、名主たちが質素倹約や勧農で復興に取り組んだとされています。こうして整備された用水は農村の水田農耕を支えてきました⁸。今でも柴又駅をでてすぐの場所には柴又用水跡の本流部をみることができ、町の取り組みによって目に見える形で柴又用水の歴史が残されています。しかし、農地よりも住宅街が増えたことや、関東大震災後の再開発で進んだ区画整理により用水路は暗渠化、つまり蓋がされ、今ではそのほとんどが地中に隠されました⁹。ただその一部は、上を覆った歩道が地中の水路に道幅に合わせるなど、見えなくなったかつての要素も町の特徴として残されています(写真11)。

写真10
写真11

【まとめ】
 今回巡検を行った葛飾区柴又は、映画『男はつらいよ』の舞台として、また江戸時代に賑わった帝釈天参道やかつての農村部をかかえるまちとして、手を加えつつそのままの雰囲気も残した町並み保全の取り組みがよくわかる場所でした。現地を訪れ、定番の観光コースに加えて住宅街のなかを歩いたり、まちを望める川の土手を訪ねることができたりしました。その結果、文化的景観の面的な魅力を捉えることができたと思います。ゼミナールの活動としては今回の巡検が初めてでしたが、私たち個人が訪れるような通常の観光では考えられないほど実りある学びがありました。町並み保全や観光への取り組み、そして住民の生活など、今回得たさまざまな視点を今後の巡検においても活かしていけたらと思います。

引用
¹帝釈天参道/東京の観光公式サイトGO TOKYO
https://www.gotokyo.org/jp/spot/33/index.html
2024/6/29閲覧
²二天門 柴又帝釈天
http://www.taishakuten.or.jp/taisyakuten-info/nitenmon.htm
2024/7/2閲覧
³帝釈堂 柴又帝釈天
http://www.taishakuten.or.jp/taisyakuten-info/taisyakudo.htm
2024/7/2閲覧
⁴瑞龍のマツ-文化財データベース(日)簡易検索
https://bunkazai.metro.tokyo.lg.jp/il/meta_pub/G0000002jabunkazai_J254220065
2024/7/2閲覧
⁵国選定重要文化的景観 葛飾柴又の文化的景観 葛飾区郷土と天文の博物館
https://www.museum.city.katsushika.lg.jp/bunkazai/2023/08/26/8c054030dba90632fe144f0082aca98a.pdf
2024/7/2閲覧
⁶彫刻の寺 柴又帝釈天 柴又川千家
https://www.kawachiya.biz/sculpture/
2024/6/11閲覧
⁷山本亭とは かつまるガイド
https://www.katsushika-kanko.com/yamamoto/y1-about/index.html
2024/6/11閲覧
⁸葛飾区産業観光部観光課(2024)パンフレット「葛飾柴又魅力再発見 国の重要文化的景観に選定された柴又界隈を歩こう」
⁹葛飾区教育委員会(2022)パンフレット「国選定重要文化的景観 葛飾柴又の文化的景観」

参考文献
葛飾区(2018)『葛飾柴又の文化的景観保存計画』
葛飾区教育委員会(2022)パンフレット「国選定重要文化的景観 葛飾柴又の文化的景観」
葛飾区役所都市計画課都市計画係(2023)「柴又地域景観地区」https://www.city.katsushika.lg.jp/planning/1003609/1013760.html
2024/6/17閲覧
帝釈天参道/東京の観光公式サイトGO TOKYO
https://www.gotokyo.org/jp/spot/33/index.html
2024/6/29閲覧
題経寺邃渓園-文化財データベース(日)簡易検索
https://bunkazai.metro.tokyo.lg.jp/il/meta_pub/G0000002jabunkazai_J253220011
2024/6/11閲覧

柴又帝釈天公式サイト 柴又帝釈天
http://www.taishakuten.or.jp/
2024/7/4閲覧
彫刻の寺 柴又帝釈天 柴又川千家
https://www.kawachiya.biz/sculpture/
2024/6/11閲覧
瑞龍のマツ-文化財データベース(日)簡易検索
https://bunkazai.metro.tokyo.lg.jp/il/meta_pub/G0000002jabunkazai_J254220065
2024/6/11閲覧
山本亭とは かつまるガイド
https://www.katsushika-kanko.com/yamamoto/y1-about/index.html
2024/6/11閲覧
※写真はすべてゼミナール生が撮影したものです(集合写真を除く)。

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