あいだに17ツバメ観察日記2

2月9日 出会い(後半)

渾身のジョークを放ったその直後、イケメンのリアクションを観察していたその瞬間、あれ、と月(つき)は思った。
イケメン店長の視線が、すっと下に滑った気がした。

「ええ、いいですよ。デートのお誘いも連絡してください。」
その答えに月は耳を疑うしかなかった。
この真面目そうなオニイサンがまさかそう言うとは。
しかし月にも今まで培ってきたトーク力と恋愛ノウハウがあるわけで、ここで狼狽えたり本気で捉えるほどウブではない。
しれっとジョークを乗っけてきたな、と、まず理解した。
次に月が考えたこと、今の流れと雰囲気から導き出した可能性。
もしかしてワンチャンあるか、という細い期待。
新たな作戦は狡猾かつ単純だ。
成功すればラッキー、失敗してもジョークで済む。
「あら、そんな風におっしゃったら、本当に電話で誘っちゃいますよ?w」
「ええ、いいですよw」
「いいんだw何が好きですか?」
「食べ物ですか?僕は肉が好きですね。」

敬語を崩しながら、親しみを押し出す。
具体的な話を振って、現実感を出す。
月の次の作戦立案が実行に移された。

個人的な連絡先や休日、デートを実行するために本当に必要な情報は何一つ交換しないまま。
『お誘い』がジョークと判断できるラインに収まったまま。
同時に本気かもしれない重さを伴わせて。

「色々とお手数をお掛けしました。ありがとう。デート楽しみにしていてねw」

礼を言い、お店を後にした月は、手応えを少なからず感じていた。
彼にとっての月が『ナシ』ではないのだろうと判断したし、2回目に誘った時には傍目からはジョークのように見えても、余程鈍い男でなければ受信できる程度の周波数は放ったつもりだ。
その上でYesと。

ちなみに月は、この時に用意されたやや高いハードルをまだ知らない。
が、それはまた後日談。

まさに浮つく、そんな心地だった。
その勢いのまま約束を取り付けてしまうべきかと少し思案したくらいには舞い上がっていた。
これから楽しくなるかもしれない。

往路と同様に1時間30分の帰路では、私の車は少し中空を走っていたかもしれない。
どのような言葉で誘い出そうか、新しい作戦が始動しようとしていた。

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