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あいだに17ツバメ観察日記6

2月13日~2月15日 ヘタレツバメ

朝まで電話で話した翌日最初のツバメからのLINEは画像だった。
体温計に37.5「病院直行」
月(つき)は自分との長電話がトドメを刺したのだと狼狽した。
ツバメは既に職務内容がオーバーワークであると訴えていたことや、休憩不足に残業だったりと会社がブラック企業の様相を呈していることなどを説明したが、それでも月の気が休まることはツバメの快復までなかった。
ちゃんと眠れた?ごはん食べた?など、体調を気に掛ける連絡を特に意識してするようになった。

体調不良を差し引いても、ツバメは生活リズムや食生活のバランスが悪かった。
若い単身者特有といえばそれまでなのだが、そりゃあ体調を崩すし、早く治る要素もないと月には思えた。
近くに住んでいたなら、それはそれはかいがいしくツバメの生活の世話をして、あっという間に女から母親枠に転落しただろう。
県境を越える100分の距離、ほどほど気楽で丁度よい距離なのかもしれなかった。

ツバメの会社は、このコロナウイルスの情勢下において、検温結果の提出を義務付けているらしい。
そして、発熱すると4日間の出勤停止となるらしい。
デートの約束を取り付けた日までの出勤停止が確定した。

診察の結果は、喉からくる風邪だった。
発熱と咳が主症状だったので、電話はそれ以降控えたがLINEは毎日行ったり来たりを繰り返していた。
主にツバメの体調に関する内容が必然的に多くなったが、雑談もたくさんしていた。

さて、デート予定日前日。
「体調はどう?デートはまたにしようか?」
月は先の引け目があったので、ツバメが断りやすい文面をあえて投げることにした。
ただ肯定するだけの返事がくることを予期された文だ。
「咳はでるけど、僕は大丈夫。でも月さんにうつすのは良くない。」
ツバメからの返信は月の予想を超えた。
私の心配までして返すとはツバメやるじゃないか、と月は喜び返信をする。
「そんな理由なら私は問題ないから明日向かうけれど?」
事実、月はこの時期に風邪を引くことも体調を崩すことも、過去5年はない。
仕事の重要な時期なので、インフルエンザの予防接種も毎年しているし、完璧な体調管理と鋼の意志で乗り切ってきた。
プラシーボ効果の根拠はきっと今年も月の見方だ。
一日のデートくらいわけもない。

「じゃあ、明日」
とツバメが添付して送ってきたのは、おそらくツバメの自宅近くのコンビニの住所と地図だった。
なるほど、これなら迷いようも間違えようもない。
連絡先の交換からデートの約束、待ち合わせまでに要したのはたった4日だ。
初めて会った日からぴったり1週間でデートをすることになる。
久しぶに味わう恋愛に似たトキメキと高揚感に包まれて月は眠った。

昔読んだマザーグースの生まれてから1週間で一生を終える男の歌を遠くに思い出した。

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