2023年ダイヤモンドリーグを見よう(Doha)

前日マイケル・ジョンソン氏があるツイートをしていました。

SNSは各地の好記録を速報として届けています。我々はそれを『数字』としてのコンテンツとして消費していて、そこにある『勝負』を見ていないのでは?
とメッセージを出していました。

私も各地の好記録を見るのが好きですし、良い記録が出たなら拡散もしているので思うところはあります…しかし多くの好記録は決勝を走ったメンバー達との競争の結果であり、そこにはその瞬間だけではなくレースに至るまでの因縁めいたものもあるわけです。

オタクはその辺りまで踏み込んでいくのが楽しい生き物ですが、オタクと同じ視点を持てというのは厳しい話。

私にできることは沼に案内する事くらい。
後は踏み出すだけ。

ウェルカムtoダイヤモンドリーグ💎

ダイヤモンドリーグの魅力

ドーハで開幕を迎えるダイヤモンドリーグ。ダイヤモンドリーグは陸上界において世界大会に匹敵するブランドのある大会といえます。

昨年は北口さんや三浦くんがファイナルに出場し入賞した事で認知した人も多いのではないかと思います。

各国3人までの縛りがある・ワイルドカードのある世界大会と比べると、ダイヤモンドリーグは『その年の旬の選手だけを集めました』という狭き門となります。なにせ決勝しかないことが多く、エントリー数も限られます。

昨年で言えばアメリカの3枠に入れなかったカイリー・キングはダイヤモンドリーグファイナルに出場して、オレゴンのメダリストであるブロメルと走っています。カイリーは代表にはなれませんでしたが選ばれた他の3人は金銀銅を独占してるわけですから彼らが出場していればダイヤモンドリーグファイナルにアメリカ選手が4人なんて事も起こり得たわけです。

その上で開催地区も世界中あちこちで行われており、移動だけで2〜3日かかるような距離で連戦する事も起こります。そんな状況でも高いパフォーマンスを続けるからこそ彼らはリスペクトを向けられるわけです。

だからこそダイヤモンドリーグで活躍する事、ファイナルに選ばれる事、ファイナルで活躍する事には大きな価値があるわけです。

旬の選手が集められるとは、今最もレベルが高い戦いが見られるともいう事。

だからこそ好記録も出ますが、そもそも全員速いのです。その速い選手達がどんな思いや計画で、このレースを戦おうとしているのか。どんな競い合いをするのか。その結果新たな因縁が生まれて、また次のレースも楽しみになる…
それこそが勝負の楽しみだと思うのです。

記録しか楽しめないのは選手を知らないから。選手を知れば知るほど、選手の仕草1つすら様々な思いを持って見守ることができます。

我々陸上関係者には悪い癖?があります。好記録が出なかった時に溜息を漏らす事。

選手は全力を尽くして、強烈なプレッシャーの中でパフォーマンスをしています。

勝ちを讃え、健闘を讃える。勝負があっての記録。

勝ち負けを楽しむには感情移入が必要です。
ダイヤモンドリーグを通じて、選手を知る楽しさを知ってみませんか?

以下は私の趣味嗜好が垂れ流しになる男子200mの展望です。

Doha 200m

1.カイリー・キング 🇺🇸

2017年ロンドン世界陸上のアメリカ代表。29歳となる息の長い選手です。

とはいえ2017年の代表も昨年4×100mRの代表だったイジャ・ホールの怪我による繰り上がりで掴んだり、2022全米選考そのイジャに先着されてリレーの枠を奪われてしまいました。

イジャとは同世代のライバルとして因縁めいたものがありそうですね…今回はイジャは居ないのが残念?です。

そんなキングは昨年のダイヤモンドリーグファイナル100mにも出場しました。ファイナルに出るのはレースに勝つか、各大会で上位に食い込み続けるか。安定してハイパフォーマンスを続けられるのが彼の強みです。

今回は200mでの参加ですが昨年の全米では7位。
上位にはライルズ、ナイトン、ベドナレクのオレゴン世界陸上金銀銅に100m王者のカーリーとこれまた豪華で厚すぎるメンバー…

しかしアメリカで昨年は代表に入れなかったとしても世界ランキングでは11位。アメリカ以外で彼より上にランクするのは6名。そのほぼ全員が世界陸上ファイナル、あるいはダイヤモンドリーグファイナルに出場しています(唯一の例外はテボゴ🇧🇼)

彼が世界有数のレベルの選手である事は間違いありません。ここ2年続けてPBを100m200m共に更新しており、更なるステップアップを目論んでいることでしょう。

今季は200mとしては初レース。勢いに乗れる内容が見れるか注目です。

カイリーキングと書かれたシャツを自ら着るキング。サングラスがトレードマーク。着用スパイクはマックスフライ(NIKE)

2.ジョセフ・ファンブレー🇱🇷

日本のエース、サニブラウン君が所属していたフロリダ大学のOB。

のっそりと動くリズムで驚異的なスピード持久力を見せる、現代では珍しいほど極端な後半型のレースをする選手です。

2021年はNCAAチャンピオンを獲った勢いそのままに東京五輪ファイナリストに。

そして2022年はレース展開はそのままに、スケールアップしてNCAA100.200mの2冠をPBで飾るという強さを見せつけました。

2022オレゴン世界陸上では4位に食い込み、東京五輪から続けてファイナルに残るという世界トップクラスの実力を証明しました。

その後プロに転向するも、なんと所属はアシックス!!アシックスとしても五輪ファイナリストのスプリンターは久しいはずなので大きな衝撃がありました。

その後マックスフライから旧来の薄いモデルになると調子がガタ落ちとなり最終戦のコンチネンタルツアーではマックスフライに戻したところ優勝…

ある意味アシックスのシューズ性能を証明する存在でもあると思います。

日本人として、日本メーカーの契約してくれた選手ですから応援したい気持ちがあります。

今季はちゃんとアシックスのプロトタイプモデルでシーズンイン。待ち遠しいですね、色々。

3.アレクサンダー・オガンド🇩🇴

昨年もダイヤモンドリーグファイナルに出場した上り調子の選手です。元々は400.4×400mRで世界大会にデビューして徐々にショートスプリントでも頭角を示してきたように見えます。

※ミックスリレーでは世界チャンピオンに。

PBと共にNRを更新してオレゴン世界陸上のファイナルにも出場、そして前述したようにダイヤモンドリーグファイナルにも出場と完全にファイナリストの顔ぶれになってきました。

我々日本人はスラムダンクを義務教育として読んでいると思いますが(スラムダンクハラスメント)桜木花道よろしく奇抜なカラーリングの坊主姿と悪童っぽさが惹かれてしまう要因かもしれません。

渾身のドヤ顔、とくと見よ!

4.アーロン・ブラウン🇨🇦

昨年はオレゴン世界陸上で唯一の100.200でファイナルに残り、4×100mRでも優勝。ダイヤモンドリーグファイナルでも100.200m両方に出るなど飛躍のシーズンを過ごしたブラウン。

昨年のダイヤモンドリーグを通じて『頻繁に見た』選手の1人でもあります。

ヘッドバンドが似合うナイスガイ。レースは安心して見ていられる安定感があります。

次に狙うのは間違いなくメダリスト達の領域のはず。自信を深め、かつ飢えて過ごしたであろうオフのトレーニングがどう形になるか。楽しみです。


ここまでの4人のメンバーにも言える事ですが実力は十分。次はメダリストに、チャンピオンになれるのか?という領域の選手達です。

そしてここから先のレーン達はメダリスト達です。

5.マイケル・ノーマン🇺🇸

ご存知オレゴン世界陸上400mチャンピオン。ノーマンは母親が日本人という事もあり我々からしても馴染みのある選手かと思います。

近年日本マイルチームが彼の母校でもあり拠点でもあるUSCにてトレーニングを行っていました。昨年の日本が4位入賞した結果には彼の影響もしっかりあると思います。

ノーマンは高校生で2016年全米選手権に出場し5位に入る、将来を期待された選手でした。全アメリカ人が同じく高校生で決勝に残ったライルズと共に走る姿を見ながら安西先生みたいなセリフを呟いていたと思います。

※2人も同時にだ…

高校卒業後ノーマンは大学進学(USC)しノーマンはロングスプリントを中心に活動するようになります。

400mで全米学生記録を塗り替えるなど着実に成長している中、2016年に全米を賑わせた同期対決が遂にダイヤモンドリーグにて実現!

※これまた同期のベンジャミンもいる。凄い世代。

先行するノーマンをゴール寸前でライルズが追い抜く素晴らしい競い合いでした。

ノーマンは翌年プロ一年目としてのシーズンを迎えることになりました。400mでチャンピオンを目指しながらもダイヤモンドリーグで再びライルズと対戦する機会が。

2019年はライルズがドーハ世界陸上で優勝した年でドーハの予選を除くとほぼ全て優勝というハイアベレージの年でした。

唯一黒星をついたのがノーマンと走ったローマDLだったのです。

前年は最後でやられたノーマンでしたが、今回は最後まで押し切りリベンジを果たしました。

2018年はライルズがPBで勝ちましたが、2019年はノーマンがPBを更新して勝利。

2022年はモナコとローザンヌに出場するも記録的なシーズンになったライルズに敗れはしましたが、ローザンヌの前半100mの通過タイムは歴代屈指の記録を見せ今後の進化に期待を膨らませる内容になりました。またゴール後に笑顔で祝福する姿が『コイツ良いやつそう…』と思わせてファンになっちゃいますね。

ノーマンが100mに転向した事により200mの機会も増えてくるのではないかと思います。

その初戦となるドーハ、見逃せません!

6.ケニー・ベドナレク🇺🇸

ベドナレクにキャラクター?については昨年のダイヤモンドリーグファイナルの記事でも

おそらく日本を除けば彼しかいないであろうハチマキスタイルが特徴です。

彼の強みは100m9秒台に400m44秒台を兼ね備えるマルチな能力、そして外さない強さです。

ベドナレクは東京五輪、オレゴン世界陸上と2大会続けて2位に食い込んでいます。その相手には前述してきたファイナリストに加えライルズ、ナイトンに後述するカーリー、ダグラスもエントリーしていた大会です。

東京は優勝こそダグラスに譲りましたが無観客でテンションの下がってしまっていたライルズに勝ち、オレゴンではライルズに圧倒されたか崩れてしまったナイトンを破っています。

どんな大会でも必ず上位にいる。それがベドナレクの魅力です。

今季はボツワナのGGPで100m、アメリカで200mと試運転は済ませています。今後顔を合わせていくであろう相手を前にどんな走りを見せてくるか楽しみです!

7.フレッド・カーリー

ご存知オレゴン世界陸上100mチャンピオン。経歴は2019年ドーハ世界陸上の400m銅メダリスト、4×400mRで優勝というロングスプリンターでしたがコロナ禍を挟んだ2021年に本格的にショートスプリントに転向。そのまま東京五輪で2位に入る飛躍のキッカケとなりました。

彼の特徴はロングスプリントを経験していただけあって大きなストライドを活かした後半…なんて言いたくなりますが実際の100mのレースではリズムこそゆったりとしていますが前半から良いポジション奪いそのまま最後まで隙なく押し通す王道のレース展開です。
逆に200mでは100m通過でトップになる事は少なく、後半の100mでスピード持久力を活かして勝負を決めるパターンが多いです。

東京五輪の200m代表こそ逃しましたが、オレゴン世界陸上では遂に2種目エントリー。…が、100mのダメージもあったのか準決勝で敗退。

おそらく400.100と結果を出したからこそ200mでもと強い意志を持っているように感じます。

そんなチャンプのカーリーですが、なんと今季からアシックスと契約!! 100m世界チャンピオンが国内メーカーと契約するのはカール・ルイス以来。これはとんでもない事です。

契約後は積極的にSNSでアシックスをアピールする姿にファンになってしまいました。

おそらくチャンピオンになったからこそ次のステージ、スターになる事を目指して『注目される』事を意識的にしているように感じます。

アシックスと共に駆け上がって欲しいですね。


8.アンドレ・ダグラス🇨🇦

私のイチオシ、ダグラス。

バスケットボールプレイヤーとして大学に来たものの、陸上選手に転向。あれよあれよと駆け上がりNCAAチャンプを獲得して世界陸上メダリストとなり、プロに転向してボルトに迫る走りを見せたダグラス。

同じメーカー(プーマ)という事あり、ネクストボルトはダグラス…と多くの人が思っていたものの苦しい時期が続きました。詳しくはカムバック編を読んで下さい。

しかし2019年のドーハで再び世界陸上のメダルを獲得し、2021年東京五輪では遂に優勝。ネクストボルトと言われたダグラスはしっかりとボルトの後の五輪を勝ち取ったのです。

しかし2022年は疲労からか調子が上がらないようなシーズンに見えましたが、なんと世界陸上の最後の最後4×100mRで爆走して優勝🇨🇦。王者としてのプライドを見せました。

200mも昨年は不本意なシーズンに見えますが、しっかりとダイヤモンドリーグファイナルに残っており地力の高さは言うまでもないはずです。

200mは2022年に絶対王者ライルズ、そこに挑む若きナイトン。そして100m王者のカーリーに虎視眈々と狙うベドナレクといった構図になってきていますが五輪王者としてもプライドがあるはずです。

心機一転、王者の強さをまた見たいですね!

期待する展開

素晴らしい選手達が揃っていますが、やはり外側4人。ノーマン、ベドナレク、カーリー、ダグラスが中心になるかと思います。

展開としてはノーマンが先行、次いでベドナレク、そしてカーリーとダグラスが追ってくる100m通過の様相になるのではないかと思います。

ノーマンが勝つなら前半の通過の差が肝になり、カーリーが勝つなら150m付近で先頭も並んでるかが見極めどころなのかなと…

ベドナレク、ダグラスは150m地点でノーマンを捉え、逆にカーリーから逃れるポジションかが大事かと思います。

おそらく世界陸上でも顔を合わせるメンバーなので様々な思惑があり予想しない展開も起こるはずです。そうして上位4人が牽制し合っていると内側からキング、ファンブレー、アレクサンダー、ブラウンが刺してくるかもしれません。彼らもメダルを狙える選手達。

初戦から濃厚なメンバーが揃ったドーハ大会、5/6深夜2時頃スタートです。
おそらく中継してくれるはず。座して待て!僕は試合があるので血の涙を流しながら寝ます🛌

明日の朝見るのが楽しみ。

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