4年前、あの日 あの時 あの場所で
前日の晴天が嘘のように
その日はひどい雨が降っていた
そこに近づくにつれ
胸が苦しくなり
不安でたまらなくなった
…………なぜだろう
たぶん わたしは
ここを知っている
わたしが わたしとして生まれる
もっともっと前に
お前は朱い方か 白い方か
突然の"声"に目眩を覚えた
霧とあの杉並木にも足が竦んだというのに
(ずいぶんと唐突ですこと。
不躾ではございませんか?)
と睨みあげる
いや すまない
國府のものに 御前のことは聴いていた
風の便りに
その男と 晴れて番になったのだと…
………そう怖い顔をするな、と伝えておけ
"声"は聴こえぬくせに
変わらぬな、勘だけは良い
儂の気配を悟ったようだ
振り返ると
もしも腰に長物を差していたならば居合いを読んでいたかのような顔をした夫がいた。
「だいじょうぶ」
と言って手を握る。
「手をつないで
ここから
一緒に帰るの」
いまの雨と
過ぎ去ったいつかの 雨が
たぶん
彼にも見えていた
すまなかったな
ゆるりと過ごせ
いずれにせよ
ここに居られる、時が重なる間だけだ
話しかけてきたときのように唐突に
龍は目を閉じた
夫の顔からも緊張が消えた
「なんか言われた?」
「お前は朱い方か白い方か、って」
「わからないの?」
「わからなかったらしいよ」
わたしはニヤリと笑った
朱いわたしと 白いわたしが
ともに理解し納得したうえで
ひとりとして生きることを決めたのは
少し前のこと
わたしは
朱いわたしであり白いわたしでも在る
「連れてきてくれてありがとう」
「帰ろう」
ぎゅう、と手を握り返す
彼の目が濡れていたのは
雨が強いから………?
わたしは気づかないふりをした
嗚呼
此処の意味もわからずに はしゃぐ乙女たちよ
いまを生きろ、懸命に。
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