見出し画像

2016年の共演を改めて振り返る

本年12月に6年ぶりの再共演

  2022年12月3日(土)4日(日)、清木場俊介の日本武道館公演にEXILE ATSUSHIがゲスト出演することが決まっている。
  3日(土)は既に完売していると公式ブログで発表があったが、4日(日)はまだチケット取得のチャンスがある。この後の2人の共演あるいは活動は現時点では何も発表されていないので、2人のツインボーカルのファンならばチェックしておきたいところだ。

  2016年から6年ぶりとなる共演まで、あと2ヶ月を切った。そこで2016年の10年ぶりでたった1度の共演を検証してみたい。この共演では2人の、特に清木場俊介の能力の高さが伺えるのだ。

なぜ1曲目が『羽1/2』だったか

  2016年8月の10年ぶりの共演は、EXILE ATSUSHIの初のドームツアーの最終日の東京ドームでのアンコールに実現した。
  この様子はライブDVD/Blu-ray「EXILE ATSUSHI LIVE TOUR 2016『IT'S SHOW TIME!!』」に収められている。そしてこのダイジェスト公式動画2本が視聴回数2300万回と1500万回を突破し、6年経った今もなお伸び続けている。

  このとき清木場俊介は完全にシークレットゲストであったため、たまたま居合わせたファンしか見ることが出来なかった。私も見ることは叶わなかったので、あくまで上記の映像作品から判断していく。

  清木場俊介は『羽1/2』のイントロをバックに登場し歌い始めた。大歓声だったのはいうまでもない。現地にいたファンによると「(映像よりも)もっと歓声は大きくドームが破れるかもしれないと思うほど」だったという。

  ここで一つの疑問がわく。
  なぜバラードの『羽1/2』が最初の曲だったのだろうか。ライブのスタートというのはアップテンポの曲、もしくは対外的に有名な曲であるのが定番だからだ。
  『羽1/2』はファン人気も高く、SHUN(清木場俊介)作詞であることや、前年の2015年に再録した3曲にも選ばれたほど2人にも思い入れのある曲だから、選ばれること自体に異論は全くない。ただアルバム収録のバラード曲だから、1曲目には必ずしも向いている曲ではない。

  実は1曲目に『羽1/2』が選ばれたのには意味があると考えている。
  清木場俊介がシークレットゲストであったことが一番の理由である。

  ライブの前にはリハーサルが行われる。中でもライブ現地でのゲネプロ(通し稽古)等はライブ前日や客を入れる前に行うことが普通だ。ただ音を出すと「音漏れ」が発生する。会場の外にいるファンに曲や声が聞こえてしまい、たちまちバレてしまうのだ。ここで清木場俊介が歌ってしまうとシークレットゲストにならなくなってしまう。
  ただ、同じバンドや音響でツアーを重ねてきたATSUSHIはともかく、清木場俊介にとってはドーム内での音響やマイクやバンドの音を現地で全く確認出来ないまま、ぶっつけ本番で5万人の客の前で歌わなければならない。
  そこで一人で歌う時間が長く、清木場俊介(SHUN)が歌い出しを担当し、比較的自分の声が確認しやすいバラードの『羽1/2』が1曲目に選ばれたと考えられる。清木場俊介は1番を歌いながら、マイクの使い勝手や自分の声やバンドの音がどう聴こえるか、音響などを確認しているのだ。
  2番ではATSUSHIが歌い始め、清木場俊介はATSUSHIの声を確認した後、いつもとは違うところで10年ぶりのハモリを披露している。ハモったらどう聴こえるか、声量を確認しているように見えた。
  たとえリハーサルを別のスタジオ等でやっていたとしても、東京ドームの音響や使うマイクの癖やバンドの現場での音を全く確認出来ていない中で、いきなり歌うのはプロとはいえ全く簡単ではない。
  しかもこの時期はATSUSHIだけでなく清木場俊介もツアー中であった。そのためリハーサルの回数も必ずしも十分ではなかったはずだ。リハーサルはこの後のメドレーのつなぎや曲順等を確認することが主で、2人の歌の確認までは難しかったことが想定される。
  清木場俊介が『羽1/2』の後のMCで「尋常じゃないぐらい汗をかいております。緊張しております、皆さん!」と話したのは、このような状況下での登場であったから、至極当然であった。

  しかし状況を確認しながら歌っていると考えられる『羽1/2』は、そんな様子を微塵も感じさせないほど感動的な始まりとなった。

トラブルが発生していた

  実はこの『羽1/2』からメドレー最後の『ただ…逢いたくて』まで、あるトラブルが断続的に発生していたことが分かる。
  それはモニターPA(音響)のトラブルだ。

  『羽1/2』からずっと清木場俊介だけでなく、ATSUSHIも両耳につけているイヤーモニターや腰につけている受信機を触り、気にしているそぶりがずっと見られる。『ただ…逢いたくて』ではATSUSHIはイヤーモニターを片方外して歌っていた場面があった。
  PAは主にスピーカーとモニターに分かれる。スピーカーは客側に聴こえる音であり、モニターは演者側に聴こえる音だ。大音量の演奏なので、演者も自分の音を聴くためにモニターは必要である。
  スピーカーPAのトラブルはあれば客にも分かり致命的だが、モニターPAは客には聴こえないため気づかれにくい。
  ただ音響トラブルは広い会場になればなるほど、多数の機器を経由するために発生しやすいので、モニターPAのトラブルには演者は多少慣れがある。とはいえ、ずっとツアーを重ねてきたATSUSHIですらイヤーモニターを外した場面があったということは、決して小さなトラブルだったとは言えないだろう。
  ノイズやハウリング、音の途切れや遅延など何があったのか、トラブルの詳細は分からないが、2人は1時間あまり、音響トラブルの中であの素晴らしい歌を披露していたことになる。
  特に上記の通り、清木場俊介は完全にぶっつけ本番の状況で歌っていたため、このトラブルは決して小さなものではなかったはずだ。
  このトラブル下で10年ぶりでも素晴らしいハーモニーを聴かせてくれた二人に脱帽だ。

メドレー12曲の選択

  メドレーの前半は主にシングルでヒットしたミドルテンポの曲が多かった。『HERO』でドームを一周する演出があったために、清木場俊介が所望したケーブルつきのマイクは使うことが不可能であるという判断になったのだろう。上記のトラブルがありながら、場内を歩きながら歌い、時には肩を組み、ハモりも披露していた二人はやはりただ者ではない。

  メドレー後半はデビュー曲を皮切りに、どちらかというとマニアックな、でもファン人気も高い選曲になっていった。
  個人的には『Distance』の披露には一番驚いた。過去のライブ映像作品としても全く出ていない上に、シングルのカップリング曲(アルバムにはバージョン違いを収録)であり、2006年以前もライブの定番ではなかったからだ。この曲の選択は、メドレーの選曲を2人が行ったことの証左と言えるだろう。歌っていない時でさえ、互いにこの曲に入り込む熱い様子は画面越しでも分かるほどだった。
  後半最初のデビュー曲から、2人のギアが数段上がった気がした。原点に立ち返り、会話をするように向き合って歌う中で、2人の中に何かがよみがえったのだろうか。そこから2人ともに、SHUNがいた2006年以前よりも明らかに上回る出来の歌唱を連発していった。
  特に清木場俊介にとってはツインボーカルで歌うこと自体が10年ぶりだったはずなのだが、単独での歌唱力や表現力だけでなく、メインとハモリの切り替えというツインボーカル独特の技術ですら高まっていた。
  例えば『song for you』は清木場俊介のパートの方がツインボーカルとしての難易度は高いが、前後の高いハモリを維持したまま、「物語さ」というメインの最も重要なワンフレーズを明確に、かつ気持ちを込めて歌うことが現役時よりも更に可能になっていたように聴こえた。

『ただ…逢いたくて』は "極み"

  メドレーの最後の曲で披露されたのは『ただ…逢いたくて』であった。EXILE第一章で一番売れ、EXILE全体でも二番目に売れたシングル曲であるこの曲は、SHUN(清木場俊介)作詞でありながら脱退のタイミングと重なり、ライブやテレビなどでも、この共演の日まで一度も2人で歌われなかった曲だ。そのためATSUSHIが涙で歌えなくなったのもファンならば理解できる。
  この曲の一番の特徴は、2人は歌メロ部分では一切ハモらないということだ。随一のハモリという2人の大きな強みを封じてもなお、やはりこの曲はこの2人にしか歌えないと痛感した。
  その理由は自分なりに考えてみると、2人の異なる声質と個性で表現されうる同一性とも言うべきか。
  通常は二人の違う歌手が歌うと、いわゆる男女のデュエットのように個性の違いを楽しむものになる。ただこの2人の場合は、確かに歌の個性は全く違うのに、表現される作品は完全に一つのものになる。
  2人の声質の違いを文字で説明するとき、ATSUSHIの声は面が広がり(横の広がり)、清木場俊介の声は高さ・深さを生む(縦の広がり)と私は表現している。
  そういった2人の声で唯一の空間が出現するという解釈をしている。二次元が、三次元や四次元になっていく感覚だ。そして秀逸なハモリにより、その空間はより膨らみ唯一無二の味わいが生まれる。

  『ただ…逢いたくて』がその解釈の極みだと思うのは、ハモリは全くなく交互に歌っているだけなのに、なぜかやはり唯一の空間になってしまうところだ。例えば歌っていない場面での互いの感情の入り込みは、この曲でも顕著に見られるから、曲の解釈が共有されていたり、感性が似ている部分があるのかもしれない。
  しかし2人のファンならご存知の通り、2人の個性は全く違い、感性も似ているというよりもむしろ異なると言える。それなのになぜ2人の歌は味わい深い同じ空間を生み出せるのか。
  2人の歌う『ただ…逢いたくて』の素晴らしさを考えると、音楽の持つ一番の魅力にたどり着く。
  異なる音と音、声と声が奏で合うからこそ作られる無限の空間が音楽の醍醐味である。それは2人のツインボーカルによる歌唱全てに通じるものであり、ハモリがないゆえに『ただ…逢いたくて』はその"極み"に君臨している曲だと、2人の初めての生歌唱で改めて感じることが出来た。

2022年12月共演の展望

  もともと本年2月に共演は実現する予定だったが、コロナ禍のため12月に延期となった。1月中旬に二人の共演が発表されたとき、avex代表取締役会長の松浦氏はニュースで知ったと話していた(若干寂しそうだったが)。
本年の2人の共演の意味は、ファンに脱退を告げられなかった「過去」の清算と2人がかつて語っていた2016年とは、また違ったものであろう。
  完全なシークレットゲストだった2016年に参加出来なかったファンのためかもしれないが、2人のファンの一人としては、2人の「未来」につながるものであってほしい。 やはり単発の共演だけで終わるには、とんでもなく惜しすぎるツインボーカルだからだ。
  それぞれの歌唱力と表現力、ツインボーカルとしてどのジャンルでも実現可能な唯一無二の"空間"表現力、今も続く深い信頼関係…どれを取っても日本の音楽業界には比類なきツインボーカルだ。
  2人の活動が当たり前のようにオープンに望まれ実現出来る、日本の音楽業界であってほしい。今ならまだ間に合う。
  
  清木場俊介はコロナ禍で日本武道館公演の2度の延期を余儀なくされたため、なおのこと、この公演をふくむ全国ツアーの敢行に気合が入っている様子だ。まずは無事に敢行できることを心から祈りたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?