虫垂炎になった話。(後編)

さて、今回は後編になります。

少々グロッキーな内容もあるかもしれませんので、予めご了承ください。


入院した翌日、手術を受けます。

病室にやってきた看護師に、

「じゃあ手術室まで歩いて行ってね」

と言われました。今思えば「え、そんなんでいいんかい」と思う対応なんですが、当時はぼけーっと何も考えず、教えてもらった手術室までマジで看護師の付き添いなしで、点滴スタンドを押しながら向かいます。ほんと、方向音痴じゃないことが救いでした。

手術室に付くとたくさんの部屋が並んでいて、迎えてくれた看護師に連れられてそのうちの1つに入ります。

ど真ん中にぽつん、とベッドが1つ。

そこで初めて緊張しました。「あ、私今からあの上で手術されるんだ」と思うと、急に心拍が上がったような感覚がしました。でも今更逃げようもないので、言われるがままベッドに上がって、仰向けになります。

全身麻酔での手術というのもあって、保温目的でベッドが温かくなっていたのを覚えています。

暫くして先生が入室。「じゃあ今から麻酔していくからね」とマスク越しに先生の目が優しく細くなったのを見た途端、点滴の刺入部から血管を伝って冷たい何かが勢いよく全身に駆け巡るような感覚がしました。すーごい気持ち悪くて鳥肌が立ちそうでしたが、「じゃあ今度はゆっくり息を吸ってね」とマスクを掛けられて吸った瞬間に、鳥肌なんて立つ間もなく意識が吹っ飛びます。これにて全身麻酔完了、って感じ。

そして眠っている間に、予定よりやや時間オーバーで無事手術が終了します。

遠くから自分を呼ぶ声がして驚く程爽快にぱっ、と目を覚ました私ですが、次の瞬間絶叫しそうな程の傷の痛みと猛烈な吐き気に襲われます。痛み止めの点滴?そんなん繋がって無かったわ。「息ゆっくり吸って〜」じゃねぇよ、吸えるかこんなんで。と、痛みに悶絶しながらリカバリー室へ移送されました。(恥ずかしながら、痛すぎて移送途中に叫びました。笑って下さい)

もう、そこからは地獄でしたね。

傷は痛いわ、吐き気でゲェゲェ胃液上げるわ、酸素マスクはゴム臭いわ、フットポンプは死ぬ程気持ち悪いわ。酸素マスクとフットポンプに至っては邪魔すぎて、看護師の目を盗んで取りまくってました。本当はいけませんよ、生命維持のために必要なものなので。でも当時医療の知識なんて微塵もない私には重要さなんて分かりませんし、何より不快感から解放されたい一心だったので何度付けられようが剥ぎ取ってました。いやぁ、ご迷惑をお掛けしまして…笑

味わったことの無い苦痛に浅い眠りしかできず、30分置きに目が覚めて時計を見ては「まだこんな時間…」と脂汗をかきながらまた眠って、を繰り返していた夜中の3時頃。嫌な程静かな廊下を、誰かが歩く音がしました。ガラガラ、と何かを運んでいるようでした。その音に、私の心臓は縮み上がります。

「あ…殺されるかもしれない」

何を根拠にそう思ったのかは分かりませんが、得体の知れない恐怖に襲われて、ぎゅっと固く目を閉じながら「うちの部屋に来ないで」と願いました。今思えばあれは “せん妄” というやつだったのかもしれません。

しかし私の願いは届かず、静かにドアが開けられます。見ちゃダメ、と思いながらも気になってチラ見してしまうのが人間というものです。薄暗い部屋、遮るカーテンの向こうに佇む影。恐怖以外の何物でもありませんでした。悲鳴を上げようとしましたが、呼吸器を抜管した後遺症で喉は痛い、声はガスガス状態だったので、私の口からは息が漏れるだけでした。

「…あ、起こしちゃったかな」

カーテンから覗いた優しい看護師の顔を見た時の安心感と言ったら涙が出そうになる程で、おかげで血圧も心拍も爆上がりして、何回も測り直されました(笑)


翌日、あらゆる管や機械類があれよあれよと取り外されるとすっかり意識ははっきりして、悪い所と言えば傷口が痛むくらい、という感じに回復しました。母は切除してホルマリン漬けされた私の虫垂を見たそうですが、「わぁ…太い人差し指くらいあるわ」という感想だったそうです。

その後は術後経過良好とのことで、たかが虫垂炎ということもあって手術から3日で退院しましたが、特に問題もなく…


いや、無かったわけではないですね。


退院した翌週から通学再開しましたが、相変わらず四六時中傷は痛い(思った以上に虫垂が大きく腫れ上がっていて、その分傷も大きく切開したから、らしいです)し、そんな状態で体育祭が出れるはずも無いので体育はフル見学だし、何故か貧血や腹痛といった体調不良で早退することもありました。踏んだり蹴ったり、とはまさにこのこと。今や傷跡はほとんど見えなくなっていますが、もう二度と手術なんかゴメンですね。


以上、突如虫垂炎に見舞われて人生初の手術を受ける羽目になったお話でした。

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