お ぼ え て い な い
今回の記事は、「アクロイド殺し」と「オリエント急行の殺人」のネタバレに触れているんですが、どちらもネタバレを知らないで読んだ方が絶対面白い名作なので、未見の方はここから先は読まない方が良いザンス。
さて。恥ずかしながら、たまに「映画評論家を目指しているんですか?」なんて聞かれたりするんですけど、そんなことは一度も夢見たことない…というのは、ウソさ!(面倒くさい書き出し) 実は高校を卒業するぐらいに「アクション映画に特化した映画ライターになるのはどうか?」的な愚かな考えを2秒ほど抱いたことはあったんですが、しかし。即座に諦めたのは、「文章力&分析力が低い」というのはもちろんのこと、何よりも「己の記憶力の低さを自覚していたから」でございます。
僕がアメブロにて、2009年から「三角絞めでつかまえて」というブログを始めた理由はいくつかあるんですが、そのうち1つが「観た映画やその内容をすぐ忘れてしまうから」でしてね。で、その後はずっと観た映画を記録しているにもかかわらず、2018年にリメイク版「スリープレス・ナイト」を観た時、2012年にそのオリジナル版を観ていたことすら気付かなかった(そしてオリジナル版を見直しても思い出せなかった…)、なんてことがあるぐらいに記憶力が悪いのです。でも先日、それが意外と功を奏した出来事があったから、人間とは面白いもの、ですな(知った風な口で)。
何の時だったかは失念しましたが、「アクロイド殺し」と「オリエント急行の殺人」の話を耳にしたんですよ(ラジオだったかな?)。確か「どちらも有名なオチで〜」的な文脈で引き合いに出されていて。高校時代、僕もクラスメイトの不良少女“お京”から「そして誰もいなくなった」を借りたことがキッカケになって、アガサ・クリスティー作品をそこそこ読んでいただけに、「そうそう!」なんて相づちを打ってみたんですけれども。「オリエント急行の殺人」の「容疑者全員が犯人でしたオチ」は思い出せたものの、「アクロイド殺し」は「何が有名なのか?」が全然思い出せなかったのです(「オチが有名」なのは覚えてた)。
あれ? なんだったっけ…? って、まぁ、ここでササッとwikipediaの項目をチェックすれば謎はすぐ解けるワケですが(苦笑)、逆にこの「記憶がボンヤリした状態」を利用して読み直してみようと思いまして。4月某日、Kindle版を購入して読破したんですが…これが非常に面白かった! 「ボンヤリと覚えていた部分」が上手い具合に「自分の推理」みたいに感じられて、なかなか気持ち良かったという不思議。
このお話はいわゆる「信頼できない語り手」とか「叙述トリック」で有名な推理小説でして。要は「語っていた奴が犯人だったー!」ってオチなんですけど、最初から「もしかして、コイツが犯人なのでは?」と疑えたし、語り手が犯人となる伏線部分も「これってわざと描写を省略しているのでは?」といった風に気付けた…って、一度読んでいるのだからそりゃそうなんですがー。ううむ、なんて言うんですかね、自分でもよくわからないんですけど、記憶の引き出しが自動的に都合良く出し入れされて、勝手な「名探偵気分」が堪能できたんですよねぇ…。あと、大人になって細かい描写や人間関係の機微に気付けるようになっていた分、むしろ高校の頃よりも楽しめた気がしましたよ。
近頃は役者さんの名前とか覚えられなくなったし、話す時もなかなか出てこなかったりして、記憶は日々衰えていく一方ですが、なんかね、こんな風に過去に味わった作品をもう一度楽しめる…って考えると、悪いことばかりじゃないのかもしれませんな。おしまい。