お別れのおはなし【はるがこないまち】
藍です。
今回は
はるがこないまち
歩く人 の作品、こちらの曲を語りたいのです。
季節感がない? まあそれは言いっこなし。
まずは、聴いてみてください。
http://nicovideo.jp/watch/sm31150011
初めに惹かれたのは、音。
ぽつぽつと歌いはじめて、軽やかにメロディを届けてくれる歌声。
そして、ちりばめられた音たちはこれ、なんの音なんだろう。ねじを巻くみたいな音、うしろでぴこぴこリズムを刻む音。懐かしいおもちゃや甘いお菓子、動画の女の子の足音をイメージします。
音の全部がキラキラ可愛くて、聴いていると
お耳が幸せな音楽。
パステルカラーな映像も相まって、ふわふわキュートな曲という印象を受けます。
一度聞いたとき印象に残る歌詞はやっぱり、サビ。一番ではこう歌っています、
駆け出したあなたの方へ
春最初の風が吹く前に
地図のどこにも描かれてない
「はるがこないまち」へ行こう
ここだけを聞くと、彼女そして「あなた」のいる場所にはまだ春が来ていない、と読み取れます。「はるがこないまち」といえば、実在しない場所(か、うんと遠い国)と考えられるから、二人で誰もいない遠くへ行こう、なんてロマンチックな解釈もできる。
だけど気がつきます、一番の初め。
はるのけしき
この歌い出しから、あたたかな春の街が描かれます。
どっちだ!?
***
さて前置きが長々としました。今回も歌詞の解釈に参ります。
ここからは、私の聴く「はるがこないまち」の世界の話をします。
「あなた」がこの街にいた季節はもう過ぎてしまった
春は別れの季節。「あなた」が旅立ったあとの街をひとりで女の子が歩きます。彼女は半袖の服を着ています、それほどにあたたかい季節なのに「はるがこないまち」をまだ探している。
はるのけしき およいだかぜ
カラフルおと はじけるだけ
ここまでぽつんぽつん、と女の子は歌います。ぬいぐるみ抱えた出で立ちとひらがなの言葉は、小さな子どもに戻ってしまったよう。気持ちがついて行けないまますっかり春色になった街を眺めて。
そして、ごく絞られた伴奏が動き始めます。女の子も歩き始める。
かわにおちた マーブルカラー
はこばれてく みなみのほうへ
ひとりでぐるぐる考えて泣いてしまったりしても、街は春真っ盛り、時が過ぎる。
壊れかけのおもちゃみたいに色んな音が転がっていた伴奏が、ここで不意に、流れ出して止まらなくなります。感情が抑えきれなくなったみたいに。
地図のどこにも描かれてない
「はるがこないまち」へ行こう
まだ認めることが辛くて、別れの来ない場所があれば、そこを見つければお別れはなかったことになるじゃないかと躍起になった。
二番に入ると音は一旦また、少なくなります。でも、最初みたいな静けさには戻らない。がちゃがちゃ色んな音がする。心が休まらない。微かだけれどメロディはずっと流れ続けて止まらない。
女の子は駆け出します。
桜が咲かなければどこでもいい
別れの季節がやってこない
「はるがこないまち」へ行こう
「あなた」の居ない季節が積み重なっていくのには耐えられない。それならばいっそ街の外へ。
お別れは、寂しいことです。
どうにかして避けたいと思ってしまう。
女の子が歩く春の街には誰もいない。まだ彼女の目には他の誰も映らないから。
春なんて来ていない、お別れなんて来ない、必死にそう言い聞かせて逃げて。「街の外」へ駆け出して、あなたの方へ駆け出して。つかの間女の子は、「別れの季節がやってこない」街へたどり着いてしまったのではないか。
食べてもなくならないキャンディ
何回でも来る桜前線
それと同じようなことでしょう
春は今年も この街へ
_食べてもなくならないキャンディが無いように、春はどうしてもやって来るしお別れは来ます。
私もあなたも、パステルカラーの女の子だって、痛いほどに知っています。
女の子は言います、春は今年もこの街へ。
それは、「あなた」とのさよならをようやく認めた一言だと思うのです。
やっと女の子にも春が来る。
同じ桜前線は二度と来ないけれど、新しい季節は出会いは毎年やってくる。
***
この曲が投稿されたのは五月のことでした。新しい環境に馴染んでいく少し寂しい心に、響く歌だったのではないかと思います。
キャンディは美味しくたべおわりました、
春が来たらまた。
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