4_0616_大島_研究書評

           学歴と格差・不平等
                               吉川徹
 
①序論
学歴と職業階層の因果関係と、世代間での地位継承関係を検討するため選択した。第4章では階級・階層と学歴の関係を論じる研究枠組みを整理し、学歴を起点として社会変動をみる視点によるブレイク・スルーの可能性を提言している。
 
②本論
歴史的経緯と日本社会の世代間関係に考慮してOEDトライアングル・モデルを改正したモデルが学歴伏流パラレル・モデルである。親の職業階層と本人の職業階層の関係に加え、学歴の世代間関係についてもみることができる。学歴媒介(OED)トライアングル・モデルと学歴伏流パラレル・モデルは社会的地位達成モデルと呼ばれている。いくつかの発見がある。第1に、学歴と職業階層は本質的な因果関係によって成立している。第2に職業階層の世代間関係が図内では相対的に小さい。第4に、父親の職業階層の高低が直接、本人の職業威信の高低を決定する影響力は総効果.337の内の.187にとどまる。(学歴の世代間関係に補強されている。)第5にこの図が職業階層の世代間移動の因果構造を分析するものであるとみなせにくくなる。(第3は省略)大学進学機会において男子・女子ともに親学歴の効果は有意で、父親の学歴の影響力が他の社会的出自の効果を上回っている。しかし親の学歴が高いほど子どもの学歴(進学率)も高くなるのはなぜかを説明できる論理はあまりない。高学歴化(=教育の量的拡大)を過ぎても教育年数や進級確率において社会的出自による不平等が解消されてないことを説明する仮説がいくつか紹介されている。ただし対抗する諸仮説の優劣を確定することはできない。能力あるいはIQに遺伝的な差があるとする説、学校における努力には各個人にとって変更不可能な社会的出自に起因しているという説、文化的再生産論、学力や意欲、学校適応などに「階層差」があるとする説、家庭の経済的な豊かさによって進学機会に差が出るという説などである。筆者は最後に挙げた説について2点の理由から妥当でないと考えている。他にも人的資本論や学歴下降回避説がある。人的資本論とは、大学卒業資格を将来高い収入を得るための投資であるとみる考え方である。学歴下降回避説は親世代と同等以上の職業階層に入りたいと望み、世代間移動の媒介項である学歴が下降移動するリスクを回避するのに十分な学歴を獲得しようとする人々の動きを指す。学歴下降回避説には2つ留意すべき点がある。第1に、学歴下降回避説のメカニズムはある学歴層だけが加熱されて学歴競争・受験競争に参入していく実態を説明するものである。第2に、このメカニズムには作動する時代と作動しない時代がある。大卒層はホワイトカラー職に就く傾向が強く、中卒・高卒層はブルーカラー職に就く傾向が強い。「上層ホワイトカラー職への就きやすさ」という図からも、高学歴の人が上層ホワイトカラー職に就きやすいことがわかる。これらのことからも学歴伏流パラレル・モデルにおいて学歴と職業階層が橋渡し関係にあることがどの時代でもあることが結論づけられる。
 
③結論
私が研究で立てた仮説はいくつもある仮説の1つであるということを再認識できた。また、他の説もある中でどの仮説が優れているのかという問いに答えを見出すことができないこととその理由も知ることができた。

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