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その05 知っているようで、意外と知らない「薬膳」のこと

【龍崎翔子と巡る『魔女活の旅』】ホテルプロデューサーの龍崎翔子さんは、上川町層雲峡の『HOTEL KUMOI』のリブランディングを機に自然の材料から衣食住アイテムをDIYする「魔女活」に没頭。このマガジンは、そんな龍崎さんが暮らしをアップデートするヒントを求め巡る「魔女活」の記録です。

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渡辺克江さん/沖縄第一ホテル/薬膳朝食

地域の野菜をめいっぱい使って体にいい「食」を生み出す。『沖縄第一ホテル』の名物は、なんと約50品目もの沖縄産食材を使った薬膳朝食だ。よく耳にするようで意外と知らない「薬膳」とはそもそもどのような考え方なのか。そして、このような朝食を作るに至った意外なきっかけとは。二代目女将であり、フリーアナウンサー・MCとしても活躍する渡辺克江さんに話を伺った。

キーワードは「平(へい)」。季節に合わせて体調を整えるための食材選びとは。

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龍崎: こちらの薬膳料理は、どういう考えに基づいて作られているんでしょうか?

渡辺:薬膳って大きく分けて二つのお料理があるんですね。一つは、その人の体調によって食材を変えていくという考え方ですね。たとえば冷え症とか、むくみやすいとか、体の不調ってありますよね。それによって摂ってほしいお食事、食材の組み合わせを考えるという。

龍崎:もう一つが?

渡辺:四季折々で体調を整えていくために、季節に合わせて食材を選ぶという考え方で、うちの朝食もこの考えに基づいて作っています。それは、旬のお野菜ともつながっていて、もっとも顕著なのが、夏場の苦いゴーヤ。中国からきている薬膳は、夏場に苦いものを摂ってくださいと伝えられているんですよ。

龍崎:だから夏にビール飲むの?関係ない?(笑)

渡辺:ビールおいしいですよね。(笑)夏場は、心臓がカッカ熱くなるので、その熱さを鎮めるのが苦い食材。それがゴーヤなどと言われているんですね。たとえばこの野菜パパイヤ。ちょっと食べていただくとピリッと辛いんです。

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龍崎: ほんとだ。

渡辺:島コショウが入っています。沖縄の食材は体を冷やすものが多いんですが、薬膳の考え方は、暑いからって体を冷やす食材だけどんどん摂ろうということではなく、体にとって暑くもなく冷やしもしない「平(へい)」の状態がいいと言われているんですよ、実は。冬も、熱いのばっかり食べたらいいということではなくて常温に戻す「平」。

龍崎:なるほど。「平」なものを選んでたくさん食べるのでもなく、冷のものと熱いものを一緒に食べて中庸させるという。

渡辺:そうなんです。だから中国はお水とかも氷入れなかったりするんですね。体に変化をもたらしてはいけないということで。パパイヤにコショウを入れているのは、パパイヤがとても体を冷やすので、それをコショウで中和している。食材の持っている力を中和させて、その時の体調を整えていくという考えに基づいて作られています。

龍崎:全体として偏らずに、バランスを上手く取っていくっていうことが大事ですよね。

渡辺:そうですね。あとは、ほとんど食材を、素材の味をそのままに生かしたいので、過度な味付けはしていません。化学調味料ももちろん一切使っておりません。

龍崎:こちらの朝食、ボリュームあるのにカロリーがめちゃくちゃ低いって伺いました。

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渡辺:全部食べて、あんぱん大きいの1個分くらいです。お野菜がほとんどなので満腹感はあると思います。調子をとても整えてくれていると思う。家族もスタッフもこれを食べているんですよ。毎日。

龍崎:最高の生活ですね、本当に。

渡辺:コロナでこの朝食を提供していない時期があって、我々も食べなくなったら、調子悪くなったんですよ、急にみんな。なんか体重いね、あ、朝食食べてないねって。やっぱりそれを考えると、たかがお野菜なんですけれど、これで健康を守られていたんだなというのはすごく感じました。

きっかけは海外旅行?沖縄第一ホテルの薬膳料理、そのルーツに迫る。

龍崎:沖縄には元々「医食同源」の考え方があると伺いました。

渡辺:昔は簡単にお医者さんにかかれなかったので、病気を食べ物で治していこうっていう考えが根付いていて、それが「医食同源」ですね。お家で採れるお野菜を摘んで食べていたんです。沖縄では、どの野菜が何に効くというのは中国の食医学書に基づいて言われ伝えられてきたという感じです。だから長寿なんですね。

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龍崎:地元の方もこういう食事をされていたんですか?

渡辺:はい、昔はしていました。島野菜が沖縄に住む私たちにとって体に良いということを漠然としか知らない方も多いようで、あまり積極的に食べられていないんじゃないかと思います。だからもっともっとPRしていかないといけないなと。最近は沖縄が長寿の国ではなくなってきていて、逆にみんなが健康志向になりつつあるので、こういう食事が見直されて来ていると感じます。

龍崎:なるほど。食器とかアンティークにもこだわられているんですか?

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渡辺: 創業者である母が日本のものも外国のものも、みんな古いものが大好きで。ごちゃまぜですね。チャンプルーです。(笑)

龍崎: お母さんは旅がお好きだったんですか?

渡辺:旅も好きでしたね。実は、この朝食の原点は海外旅行なんですよ。創業時は、実はベーコンと卵とパンの朝食だったんですけれど、母が30代のころにお客さまが、「あなただったら何かつかむことができるから、海外に旅行にいってみなさい」って言ってくれたそうなんです。

龍崎:お客さまから。

渡辺:それで海外に行ったとき、うちで出している朝食とまったく同じものが出てきたそうなんです。それで、「海外まできて、なんでわたしはこれを食べているんだろう」って疑問に思って、せっかく沖縄に来ていただいているなら沖縄らしい食事を出せないかな、というのを考えたそうなんです。そこがスタート。

龍崎:へー、面白い!

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渡辺:それで、祖母が作ってくれてたお料理を出してみたら「こんなお野菜あったんだ」ってお客さまがすごく喜んでくれて。それからは母も徹底しているので、栄養士も入れて、朝食としてどのくらいの品数でどのくらいのカロリーをとれたらベストなのかということを研究して。そこに私が薬膳師の資格を取ったので、薬膳の考え方も組み合わせて、今の朝食になりました。

龍崎:お客さんの反応もよかったんですね。

渡辺:沖縄の人には最初、「こんなの誰も食べないよ~」ってさんざんバカにされたんですけど、遠方からのお客さまからの評判が良かったので頑張って続けてきました。当時はおしゃれなイタリア料理とかフランス料理の方が人気で。家庭料理を出してお客さまからお金を取るっていう考えがなかったと思います。

龍崎:お話聞いていると、お母さんもすごく事業家としてのセンスがほとばしる感じがしますね。

渡辺:びっくりしたのが、母が何気なく作っていたものが実はすごく薬膳的にもベストだったり、あるいは科学的にも証明されていたりしたので、その辺は昔の人って感覚的に優れていたと感じますね。今はもう93歳になりますが、新しい物好きで、一緒に食事に行くと母の方がそのお料理を学んでいます。すごいんです、つかむところが。「この野菜にこれ組み合わせてるよね、こういう出し方あるよね」って。

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龍崎:すごい(笑)。朝食だけの提供もされてるんですよね?

渡辺: そうなんです、最近は朝食を食べに来られる県民の方が増えてきたんです。「一度食べてみたかった」って。それだけ地元の方も、沖縄の食材や体を整える薬膳に着目し始めていますね。

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▲渡辺さんの美しさの秘訣も、薬膳朝食にあり。

Foodは風土

龍崎: 体にいいし、おいしいし、沖縄のローカル食文化そのものが楽しめる。一度の食事で3倍おいしいみたいな感じです。ほんと、”Foodは風土”だなと。私のホテルでも、そういうところを目指していけるといいな。


地域の食材を使った料理で、季節に合わせて体を整える。古くから受け継がれたこの薬膳の考え方がもっとも必要とされているのは、もしかすると今この時代なのかもしれない。

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■沖縄第一ホテル
1955年創業。約50品目の食材を使いながらカロリーわずか585kcalの「薬膳朝食」が人気の老舗ホテル。
HP https://okinawadaiichihotel.ti-da.net

coordinate & photo セソコマサユキ

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