令和6年予備試験再現答案(民法)

第一.問題1(1)
1.Cは、Dに対して、所有権に基づく乙土地の明渡請求を行う。同請求が認められるためには、①Cが乙土地の所有権を有する事、②Dが乙土地を占有している事が必要である。この内、②については問題なく認められるため、①が問題となる。
2.乙土地は元来、Aが所有していた。しかし、Aは失踪の宣告がなされており、「死亡」したものとみなされる(民法(以下法令名省略)31条)。死亡の結果、相続が開始するが(882条)、甲の相続人は「子」であるBおよびCの2人である(900条1項4号)。
3.ここで、Aは本件遺言書を遺しているが、特に(1)につきどのように解すべきか。
「相続させる」という遺言については、それを遺贈等と解すべき特段の事情がない限り、遺産分割の方法の指定(908条)であると解する。
本件遺言書においても、(1)は(2)における法定相続分に従った相続と同じ文言を用いており、遺贈等と解すべき特段の事情がないため、遺産分割の方法の指定であると解する。
したがって、Cは乙土地を相続する。
4.それに対し、DはCはその甲土地の所有をDに対抗できないと反論すると解される。899条の2第1項によれば、「相続による権利の承継」は、法定相続分を超える部分については「対抗要件を備えなければ、第三者に対抗することができない」。
本件では、Cの法定相続分は二分の一であるところ、その持分については登記なくしてDに対抗できる。もっとも、Bの持分については、既にDが登記を具備しているため、対抗できない。
この点につき、Bは遺産分割協議等の書類を偽造しているため、Dが権利を取得できるか問題となるも、BD両名が通謀の上、これを行っていれば虚偽表示(94条)に当たり、無効と解する余地があるが、通謀の事実はない。よって、Bが書類を偽造した事実は上記結論に影響しない。

第二.設問1(2)
1.AのFに対する請求が認められるためには、①Aの所有と②Fの占有が認められる必要がある。この内、②は問題なく認められる。
2.乙土地は元来Aが所有していたが、Aは失踪宣告を受けた。Cは相続放棄をしており、唯一の相続人はBであるため、Bが乙土地を相続する。その後、BはEに対して、乙土地を代金2000万円で売った。
もっとも、Aの失踪宣告の取り消しは取り消された。このことがBE間の売買契約の効力に影響しないか。
失踪宣告の取り消しは、「失踪の宣告後その取消し前に善意でした行為の効力に影響を及ぼさない」(32条1項)。取引等の当事者の両方が善意であれば、その保護に値するため、「善意」とは当事者の両方が善意であることを意味する。
本件では、BはAとの電話を通じて、Aが生存していることを知っていた。したがって、BE間の乙土地の売買の効果は無効であると解する。よって、上記①の要件を充足する。
3. したがって、Aに乙土地の所有権が認められることから、①を充足するため、Aの請求が認められる。

第三.設問2(1)
1.GのJに対する請求は、703条、704条に基づくものである。
(1)Gは、本件誤振込によって、500万円を失うという「損失」を被った。
(2)一方、J名義の口座には、500万円が振り込まれた。判例は、誤振込であっても、預金債権が有効に成立するとしている。したがって、Jには500万円の預金債権の取得いう「利益」を受けた。
(3)損失と利益の因果関係については社会通念上のもので足りるから、KとIがGとJの間に介在していることで、直ちに因果関係は否定されない。
Jが本件預金債権を取得したのは、Gの振込依頼に起因するものであり、それに従って各銀行も処理をしたものであるから、因果関係は肯定される。
(4)「法律上の原因」の判断は、形式的、一般的に正当視される財産的価値の移動が実質的、相対的に正当視されるかという観点から行う。
本件では、Jは何ら経済的な出捐なく、本件預金債権を取得した。また、動産よりも金銭の方がその流通を保護すべきであることから、即時取得(192条)との均衡で、善意、軽過失者が保護に値するという見解がある。
Jは上記振込について何ら心当たりがなかったのであり、Kの説明によってその事実も知っていることから、善意、軽過失とは評価できない。
2.よって、GのJに対する請求は認められる。

第四.設問2(2)
1.同じく、703条、704条の要件を充足するか検討する。
(1)Gは、本件誤振込によって、500万円を失うという「損失」を被った。
(2)Lは、債務の弁済として、500万円という「利益」を受けた。
(3)もっとも、両者に因果関係はあるか。確かに、金員は口座に入金されればその個性を失い、振込、引出、引き出した金員による弁済に因果関係が認められないとも解される。しかし、先述の通り因果関係は社会通念上のもので足りるところ、Jの口座残高はここ数年間ゼロだったのであり、Jが弁済をすることができたのは、Gが振込依頼を行ったからである。したがって、Gの損失とLの利益の間に因果関係が認められる。
(4)もっとも、Lの反論通り、Lは500万円を債権の弁済として受領しており、「法律上の原因」があると主張する。
先述の通り、「法律上の原因」の存否は、実質的、相対的に財産的価値の移動が正当化されるかという観点から行う。
本件では、Lは現に500万円をGに貸し付けており、対価性のある経済的出捐をしているため、「法律上の利益」があると解する。
(5)したがって、Gの請求は認められない。以上

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