令和6年予備試験再現答案(刑事実務基礎)

第1.設問1
1.小問(1)
(1)「強制の処分」(刑事訴訟法(以下法令名省略)197条1項)を行うためには、令状の発布が必要である。しかし、本件半券の押収は、Aが放置した車両内で発券されたものである。
「領置」(221条)は、令状なくしてこれを行うことができる。「差押え」には令状が要求される一方、「領置」にそれが不要であるのは、前者が権利者の占有を排除するものであるのに対し、後者は権利者が自ら占有を放棄した物を対象とする事から、権利侵害の程度が限定的だからである。
本件車両内の半券は、「被疑者」であるAが「遺留」した物であるため、これを領置できる。
(2)また本件車両の写真撮影に関して、本件車両は「遺留」された物であるし、撮影という態様も占有取得に比して穏当である。また、被疑者が占有を放棄している以上、プライバシー権といった重要な権利利益に対する実質的制約は認められないため、「強制の処分」「検証」(218条1項)に当たらず、令状は不要である。
2.小問(2)
(1)鑑定処分許可状(225条3項)と身体検査令状(218条5項)が必要である。
(2)血液は人の身体において恒常的に機能する人体の一部であり、身体への侵襲を伴うから、対象者の健康を害するおそれもある。したがって、人の身体の外表を見たり、触ったりする「検証」にとどまるものではない。そこで、専門的な知識、経験、技術を有する者により行われるべきものだから、鑑定処分許可状が必要である。
(3)もっとも、225条は172条を準用しておらず、225条4項が準用する168条6項は139条を準用していないため、上記許可状には強制力がない.
そこで、身体検査令状を併用すべきである。

第2.設問2
1.小問(1)
Aは「レンタカーをだまし取っていない」と述べている事から、AとVが本件車両の賃貸借契約を締結した時点において、Aに本件車両を領得する意思の存否が争点である。詐欺罪の実行行為の時点で、返還意思がなく、本件車両を領得する意思がなければ、詐欺罪は成立しない。
丙島は離島であり、乙市からそこに至る唯一の交通手段は本件フェリーである。本件車両の占有を確保するには、丙島から持ち出す必要がある所、そのためには本件フェリーが必要であり、本件フェリーの車両用チケットを購入した時点でAに本件車両を丙島外に持ち出す意思が生じたと推認できる。もしチケットを予約したのが丙島に行く前であれば、本権契約締結の時点で、既にAが本件車両を持ち出す意思を有していたと推認できる。一方、それが本件契約の締結後であれば、締結時点で領得の意思はなかったものと推認される。
そこで、Pは、本件フェリーの車両用チケットの購入の時期と場所の調査を依頼した。
2.小問(2)
(1)詐欺罪の成立に積極的に働く事情として、Aが本件契約締結時に本件車両の車種を自ら指定した事、およびXに対して「昔から欲しい車種だった」と述べている事が挙げられる。
(2)他方で、Xが本件フェリーの車両用チケットを購入したのは、2月4日18時30分ごろだった。丙島は離島であり、本件車両の占有を確保するためには、本件フェリーを使用する必要がある。もしも、Xが本件契約の締結時点で本件車両を領得する意思があったならば、その車両を島外に持ち出す計画を事前に立てていたのが自然である。しかし、Xは2月4日18時30分に上記チケットを購入しており、これはVから返却を求める電話を受けた約30分後であったことから、その電話を契機として島外に本件車両を持ち出そうと考え、事後的に領得の意思が生じたものと推認される。
また、Aは友人であるXに対して、「丙島のレンタカー屋で借りた」と述べている。XはAの友人であり、その言葉は本心から出たものである可能性が高い所、Xはあくまで「借りた」という認識だったと解され、事後的にそれを領得する意思が生じたものであると推認される。
(3)上記からPは詐欺罪ではなく、単純横領罪で起訴をしたと解される。
3.小問(3)
(1)単純横領罪の既遂時期は、不法領得の意思が確定的に発現した時点で認められる.
(2)Pがアを検討した理由は、それが本件契約における返還時期にあたるため、その時点でAに正当な占有権限が認められなくなったからである.もっとも、この時点では返還時期を過ぎたにとどまり、既遂に達したとは認められない.
イを検討した理由は、それがVがAに対して電話をかけ、返還を催促したタイミングだからである.もっとも、その時点では未だAが所有者でなければできないような処分をする意思を確定的に発現させたとは認められない.
ウの時点は、Aが本件車両とともに本件フェリーに乗り込んだ時間である.先述の通り、丙島は離島であり、島外に出るには本件フェリーを用いる必要がある.本件フェリーに本件車両を持ち込んだ時点で、Vの本件車両に対する追及は困難となり、Aはその占有を確保したと評価できる.
(3)よって、Pはウの時点を単純横領罪の成立時期と結論づけた.

第三.設問3
(1)条文上の根拠は、321条1項2号である。
(2)321条1項2号における供述不能要件は、例示列挙である所、列挙事由と同程度に供述が困難である事由のある場合も、同要件を満たし得る。もっとも、かかる事由が一時的なものではないことが必要である。
本件では、Xは「覚えていない」等といった供述を繰り返しており、供述が困難な状況にある.また、Pは記憶喚起の手段も試みたが、結局その証言内容は変わらなかったことから、かかる事由は一時的なものではない.したがって、供述不能要件は認められる.
(3)また、「前の供述と・・・実質的に異なった供述」とは、他の供述や立証事項と相まって、異なる事実認定に結びつくような場合に認められ、供述の精度が異なる場合も含まれる。Xは「覚えていない」などと検察官面前調書作成時に比して、精度の低い供述をしており、実質的に異なった供述をした.
また、Xは、Aが昔から怖い先輩たちとつるんでおり、法廷にもその先輩たちが来ていると認識している.さらに、Xの証言中に傍聴人が咳払いをしたり、Aと目配せをしたりもしており、Xは精神的圧迫を受けていた.検面調書作成時にはそのような圧迫はなかったと解されるため、相対的特信性の要件も充足する.

第四.設問4
1.弁護士は真実尊重義務を負う(弁護士職務基本規定(以下「規定」5条)。一方で、規定21条は、「依頼者の権利及び正当な利益を実現するように努める」義務を負う。また、刑事弁護においては、「被疑者及び被告人」の「権利及び利益を擁護」するために「最善の弁護活動に努める義務」(同46条)を負う。そこで、弁護士は積極的真実義務を負わないが、消極的真実義務を負うと解する。
2.(1)に関しては、無罪主張をする事は、消極的真実義務に反しない限度で可能であり、弁護士倫理上の問題を生じない。
3.(2)に関しては、Yが虚偽の証言をすることを知った上で、Yを証人請求するものであり、偽証罪をほう助する行為である。かかる行為は、消極的真実義務に反するものであるため、弁護士倫理上問題がある。以上

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?