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Perfumeが[polygon wave]で表現したもの

ライブレポート。
去る2021年8月15日、PerfumeがぴあアリーナMMにて開催したライブ[polygon wave]に参加してまいりました。
東京五輪開会式をめぐる文春報道で話題のMIKIKO先生。
“幻のMIKIKO案”を通し、実力ある演出家として、国内での注目がさらに高まっている様子の彼女が、満を持して演出したPerfumeの最新ライブ。
そこでなにが示されていたのか。
まず言えることは、[polygon wave]は、怪作で、大傑作でした。

※ライブから帰った23時過ぎより記憶を頼りに書きはじめていますが、なにぶん記憶ちがいはありましょう。メモを取りながら見ていたわけでもないので、セリフやらは不正確。アマプラでの配信が待ち遠しいです。


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いつもはメンバー三人だけでステージに立つPerfumeが、初めてバックダンサーを引き連れてパフォーマンスし、セットリスト一曲目は「不自然であること」がテーマの「不自然なガール」。
誰もがわかるように、「今回はいつもと違うよ」という宣言がなされたライブでした。

「誰からも邪魔されない、誰からもなにも言われない、自分たちだけのフィールドで“表現”をしたいと思います」

一番最初のMCで、あ〜ちゃんがさらりと言ってのけた言葉です。
我々はここに五輪開会式のことだとかを読み込みそうになるわけですが、考えるべき主題はそこにはありません。
考えるべきは、「表現」とはなにか、「自分たちだけのフィールド」を用意してなにを「表現」したのか、という問いでしょう。

まず第一に、表現とはなにか、なんのためにするのか、する必要があるのか、という問いは、Perfumeの三人とMIKIKOさんにとっては、「私」とはなにか、存在する必要があるのか、という問いと同じだったのだと思います。
昨年二月に当日中止を余儀なくされたドーム公演、それ以降も停滞したエンターテイメントの世界に対する思い。不要不急という言葉は、ステージに実存を賭す人間にとって、「私」そのものに対する否定に聞こえたはずです。

ライブ中、パフォーマンスタイムに繰り返しナレーションされた印象的な言葉に、「私の声は?」「私の気配は?」「私の存在は?」という内省的でシリアスな問いがありました。
「あなたの声」「あなたの気配」「あなたの存在」が「私」を「私」にしてくれていたのに、それが届かない場所で「私」はどうなってしまうのか、という痛切なる自問です。
舞台は観客がいなければ成り立たず、自己は他者がいなければ固定されません。
自問の声が鳴り響く中、ステージ上では、巨大LEDに映る三人が手を伸ばし無闇になにかを探しているようでした。
バックダンサーたちは、大きく映し出されたその手の影を追っているのか逃げているのか、マイムのようなダンスで翻弄されるばかり。
シリアスなパフォーマンスでした。
「私」とはなにか。

答えは、ライブ冒頭、一番最初にきちんと定義されていました。
導入部の音楽に被せられてナレーションされていた「夢の中へ」というフレーズの「夢」という言葉です。
私はあなたの「夢」であり、表現とはあなたの「夢」である。
これがこのライブを貫く命題だったのではないでしょうか。
文章にすると一見ものすごく陳腐なのですが、ポイントは、夢というものが夢を見ている主体にとって内在的なものであるということです。言い換えれば、私(Perfume)はあなた(見ている人)の中にあるということ。つまり、演者と観客は分け隔てられているわけではない、ということを意味します。ステージの上と外は地続きで、こっちとそっちは同じ場所で、あなたと私は等価である、ということです。見る人(あなた)が見たいと願った「夢」の結実こそがステージ上の私たちである、という自己言及と言えます。
これこそが、このライブで示された冒頭の問いに対する解答なのです。

どこか他律的なきらいもありますが、「私が存在するのは、私があなたたちの夢だからです」という宣言は、エンターテイナーとしての信念と矜持に満ちたものでしょう。

ちなみに「夢」というキーワードは、新曲でありライブタイトル曲でもある「ポリゴンウェイヴ」の歌詞から引用され、ナレーションに使われたのだと思われます。
歌詞自体は、初期三部作「コンピューターシティ」や「エレクトロ・ワールド」を彷彿とさせるような、「作り物だらけの世界」の「ボク」と「キミ」によるノスタルジーな王道SFで、つまり「夢」というワードチョイス自体にはそこまで大きな意味はないのだと思います。
重要なのはそこに託された「私とあなた」「こっちとそっち」の混交・混濁・同一化という意味合いの方にあるのでしょう。

今回のライブに、一度、ゾッとする場面がありました。
先述したシリアスな自問パフォーマンスタイムの終盤、重々しいドレスで現れ、それぞれにソロダンスを披露したPerfumeの三人は、音楽が鳴り止まない中、急にドレスを脱ぎ捨て笑顔で跳ねだしました。途端、シリアスで神経症的だった空気が一転して弛緩し、彼女たちの笑顔で瞬間的に華やいで、会場が湧きました。
脱ぎ捨てたドレスの下には「ポリゴンウェイヴ」の衣装が着込まれており、パフォーマンス曲はシームレスに「ポリゴンウェイヴ」へとつながる流れになっていました。
シリアスな場面から明るい新曲披露の場面へ、というシーン転換の継ぎ目が、彼女たちが笑顔になるという簡単なワンアクションで区切られていて、それが見事に機能していたのです。あれだけ演出され作られた重々しい空気が、笑顔ひとつで一瞬に塗り替えられたのです。
あの瞬間、その力技。
空間全体が彼女たち三人によって完全に支配されているということをこれでもかと見せつけられたわけですが、ここで思い出すのは、以前から三人がよく言っていた言葉です。
「私たちが楽しければ、それを見ているみんなも楽しい(=だから私たちは楽しんでパフォーマンスしなければならない)」
私たちファンはライブ会場というフィールドにおいて、彼女たちの笑顔ひとつ、一挙手一投足にあそこまで同一化してしまうのです。それはある意味仮面的でもあるような唐突な笑顔のパフォーマンスによっても起こる。
なぜなら「私とあなた」「こっちとそっち」はイコールだから。

エンターテイメントの世界でトップランナーとして走り続けている三人とMIKIKOさんがたどり着いた究極的な感情移入美学、その実践をあの規模のショーとして成立させた奇跡、これが[polygon wave]の素晴らしさだったと思います。
内省の果てにたどり着いた命題が、彼女たちがずっと話していたステージ上の実感の延長上にあったというのも素敵な話です。
圧倒的です。[polygon wave]は、怪作で、大傑作でした。

しかし、仮面的な笑顔とパフォーマンスによってでもあそこまで空気を塗り替えられるのだと示したのは、恐ろしいことでもあって、だからゾッとしたわけですが、セトリを思い起こせばやはり目に止まるのは「FAKE IT」。また、一方通行の伝わらない想いをキッチュに歌いあげる「I still love U」の直後に、これくらいがちょうどいいよねと歌う「マカロニ」。ユーモアとアイロニーがしっかり仕組まれているのでした。

公式写真が死ぬほどカッコいい。

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