前残り爺さん

NHKマイルCの日、私は指定席が当たったので朝から府中へ行っていた。GⅠレースを実際に見るのが初めてだったので、水曜日あたりからそわそわわくわくしていた。天気が微妙で前日から小雨が降っていたのか馬場が芝もダートも稍重だったと思う。

そんなだからペースが速いんだから遅いんだか。芝はゆっくりゆっくり、ドスロー。それでも差しが届いたり何とも難しい。ダートも足抜きがいいからペースが速くなる。じゃあ差しが届く展開かと思って差し馬を買ったら前々決着。私が買った馬はただ回ってきただけだったりした。

いや私の馬券が当たらないのは馬場のせいではなく元々なんだけれど、あの日だけは馬場がねぇ…難しいねぇ…しょうがないねぇ…と言い訳をした私なのだ。恥ずかしいね。

私の席の斜め後ろに爺さんがいた。その爺さんはいつから競馬を始めたかは分からないけど、20年以上は競馬をやっていそうな風貌だった。風貌だけで実際は競馬歴数年かもしれないが。その爺さんは芝もダートも必ず言う言葉があった。
「前残りになるぞ」

前半1000mのタイムを見て、ダートだったら600mのタイムを見て、逃げ馬が後ろを離しているのを見て、「こりゃ前が残っちまうぞ」。

確かに前残りの展開というのはあるけれど、競馬は逃げ馬が有利なのもあるけれど、それでもどんな展開でも必ず前残りになるぞと言うのはなかなか面白かった。

競馬を始めたばかりで友達と4人で来る若い兄ちゃんが言うなら最近覚えた言葉なのだろうと思うけれど、何十年もやっていそうな爺さんが毎回前残りと言っていたもんだから、だんだん本当に前が残るんじゃないかと錯覚してきだした。それでも差しが届くんだけどね。

さらに面白いのがその爺さん、前残りになるぞ以外の言葉をほとんど言わないのである。つまり口を開くのは前残りになるぞの言葉だけなのである。もしかして精巧に作られたロボットなのではないか、インプットされた言葉が前残りになるぞだけなのではないか、とくだらないことを考えていたらまた本命馬が負けてしまった。代わりに共同通信杯で本命にして出遅れて負けて以降買わないと決めていたアサヒが2着に来てしまった。

やはり馬の好き嫌いや騎手の好き嫌いはしてはいけないのである。実力を性格に判断することが難しくなってしまうからね。

だから私は気持ちを改めて、メインレースでは今まで嫌っていた戸崎のエエヤンを買うことにした。中山でしか実績がない馬だが今なら東京も走れるのではないか。私は普段日刊スポーツを読むからその日も買っていて、木南さんはよく当たるんだな。木南の帝王と言われていてその木南さんもエエヤンに◉がついていた。ただの本命ではない、自信の本命馬ということだ。

おおこれは勝てるぞ、何せ上手な予想家さんと本命馬が被ったんだもんね!フフフこれで春GⅠ連敗は脱出なのだよ!と馬並みに鼻息をフンスフンスと鳴らしながらマークシートにエエヤン単勝1,000円と塗った。本命は良いけど相手がいないとつまらんなと思い、出馬表を眺めていると、東京マイル2勝している良い馬がいるじゃないか。シャンパンカラーというのか。9番人気だと!?フハハハ!穴馬も押さえた完璧の馬券じゃ!馬連とワイドをこの2頭のみでエエヤンの単勝と計3点で勝負した。

2分後、私は戸崎は二度と買わないことを再び決めた。そして1週間後、今度はちゃんと買っていない戸崎に本命馬ソダシがやられるわけである。

やっぱり好き嫌いはダメだね。

そしてあの前残り爺さんは今日もどこかで言っているのであろう。
「前残りになるぞ」と。

重賞予想
CBC賞
◎1 ヨシノイースター
○6 スマートクラージュ
▲8 マッドクール

ラジオNIKKEI賞
◎14 レーベンスティール
○11 アグラシアド
▲10 バルサムノート

立川場外でレースを見るぞ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?