『仮面ライダー BLACK SUN』の個人的な総評(2/3)
※本記事は該当作品や原典作品、関連作品のネタバレを含む可能性があります。十分にご注意ください。また、添付画像は公式サイトのOGP設定画像をお借りしています。権利的にアウトなら後程差し替えます。
ざっくりと気になるところは前回ぶちまけたので、今回は作劇的な引っ掛かりポイントを語ってみたい。
足した要素に振り回されてない?
外しちゃいけないキーワード、要素を捌けてないのではと前回ラフに指摘したけど、自分達で後から足した要素、キーワードも上手く物語世界、あるいはストーリーの縦軸に組み込めなかった印象がある。
特に、「50年」という時間を上手く使えなかったかな。半世紀あれば、一人の人間はもちろん、社会だってある程度変化する。左巻きの方々が望むような革命、イノベーションは起こらなくても、徐々に考え方も行動も変わる。
当然、技術や武器だって変化する。それにも関わらず、「50年」という時間を設定しておいて、「50年間」の変化を物語世界の中で考慮できていたかと思うと、そうは思えない。
創世王があの程度なのに、光太郎も信彦も、半世紀も何してたの? 信彦なんて、後で「50年前が良かった」みたいな恨み言を言う割に、幽閉というおままごとに延々と付き合っていた理由が分からない。
「50年」分、あの世界の人たちは進歩も進展もなかった。そう思うしかないバカさ加減が漂っている気がする。
怪人を「いわゆる在日」に見立てた差別問題があると組み立てるのは良いんだけど、なぜ差別されるのか、なぜ弾圧されるのか、そこも物語の中で示されていない。見た目がただ気持ち悪いだけ、変身するだけで、あんなに差別する? そこまで、日本人も国連傘下の国々も腐ってないと思うけど……。
怪人そのものの脅威も強さもよく分からないし、怪人がいることによる怖さ、糾弾されて然るべき理由も事案も描かれていないし、他の大人向けと称される先行作品に比べて、その辺りの作り込みが全く足りてないなぁ、と。
自分達で足したキャラクターも考察、造形が不十分で、行動原理等も脚本都合で動かされているように見えてならない。怪人に理解がありそうなあの警官、あそこで葵を襲撃する作戦に参加するかね?
50年前のゴルゴムが、一体何に屈したのかも全く分からんし、創世王が生まれた理由も結局不明。「ヘブン」の扱いもおざなりだったし、自分達で付け加えたものも満足にハンドリングできていない印象だった。
足さなきゃ良いのに
仮面ライダー作品として、あるいは仮面ライダーBlackの作品として外せない要素ですらハンドリングできていない、作品世界の作り込み、縦軸に行かせていないのに、自分達で後から付け足した要素が面白さに微塵も寄与しないどころか、足した要素に振り回されて脚本がめちゃくちゃになってる。
適当に付け足したって、面白くならない。むしろ、ただのノイズにしかならない。差別表現の中で良かれと思ってハングルも入れたんだろうけど、アレも要らんでしょ。国会での政治闘争も、面白さに反映されていない。
面白いを舐めるなよ、と。足したって面白くならない。むしろ、とことん削るべき。足したものの面倒も見れないのに、安易に足したのは間違い。原典のキーワード、外せないオーダーだけでやるべきだった。
「シーン先行」でピックアップしても、難しくなるだけ
本作の公開に合わせて、Youtubeでオリジナルからエピソードをピックアップして配信してくれているから、余計にその拙さ、不格好さが前面に出てるんだけど、「これをやれば喜ぶだろう」みたいな浅はかな目でシーンをピックアップして、それに合わせて脚本を無理やり作った感がある。
ある程度の長さを求められる脚本、物語で、特定のシーン、描きたいシーンを先に決めて、チェックポイントみたいにして作劇する、縦軸やストーリーテリングを考えるのも良くあるんだけど、これが実は難しい。「面白く」を考えると、ほとんどの場合、足枷になる。
よっぽどプロットを練って、キャラクターの造形も練って、その上で展開、シナリオを考えていかないと、転がし方に無理が出るというか、脚本を書く上で事前に作った設定が破綻したり、脚本都合で「その時、奇跡が起こった」をやる羽目になる。
原典の場合、「外連味」や「サービス精神」、「エンタメ性」という部分で熟練の勘や経験があるから、「ライブ感」で作っても良いけど、白石和彌組に、それができるとはとても思えない。
長いシリーズ作品として、練り上げられてきた不文律、型のような物がある。それを理解せず、守破離を経ないで適当に作ったら、型破りじゃなくて形なしになる。
白倉さんが同時期に、ゼンカイジャーとか、ドンブラザーズとか、そういうトンチキなものをやってるから麻痺してるんだろうけど、あれはプロデューサーも脚本家も型破りの境地に至ってるからできる芸当であって、そこが欠けてる人たち、おまけに東映じゃなくて角川・大映でやっちゃうと、まず無理。
脚本以前で失敗してて、脚本の段階でも失敗してるから、どうやっても救いようがない。本作の良くないところ、悪くなった要因は「足し算」と「シーン先行」。事前の設定、キャラクターの練り込みも甘かったけど、これでは面白くはならない。
白石作品の悪いところだけ残った?
個人的に「ノットフォーミー」と思うのは、
無駄に小汚い
無駄にやり過ぎる
無駄に長い
『凶悪』はまだマシだったけど、『ひとよ』とか『孤狼の血 LEVEL2』は完全に合わなかった。「そこまでやらなくていい」がアクションシーン含めて多々あった。それも、今作に反映されている。
レーティングが無駄に18禁になったのも、その辺りの悪さが要因。無駄なグロさが大人向けだと思ってそうだなぁ、と。
ライダーの造形、怪人の造形もある程度は原典を踏襲しているような気はするけど、個人的に「S.I.C.」の流れはあまり好きではないし、牙狼の路線も好みではない。
バンダイのベルトが動かしようがないのなら、今作のバイクとも合わせて、もっとメカっぽい方向に振り切れば良かったのに。
中途半端に生物っぽい造形、実写版『GANTZ』っぽいのも合わなかったかな。ただただ、「ノットフォーミー」度合いが増して行っただけだった。
何が「大人向け」なのか分からない
今までの作品を見てきたライダーファンに向けてない、のは理解するし、白倉さんが東映として、新たなシリーズラインを作りたいのも良く分かるけど、それはそれとして本作の何が「大人向け」で世界展開を意識した作品なのか、そこが未だに理解できない。
差別表現を入れて、政治闘争を組み込めば大人向けになるのか、そういうお話を海外に向けて発信すれば受け入れられるのか。個人的にはどっちも、「ノー」な気がする。
キャラクターの呼び方も、そこだけ原典踏襲のチェリーピッキングだし、その割には場面場面で、「光太郎」「信彦」呼び出し。まずはそこから手をつけて再構成すべきだったのでは?
少なくとも、『仮面ライダークウガ』で「仮面ライダー」の呼称が出ないシリーズを見て、『仮面ライダー THE FIRST/THE NEXT』でリファインされたライダーを見て、『仮面ライダーアマゾンズ』で豪速球を受け止めてきた人たちには、これは「大人向け」には見えないだろうし、「最後まで楽しく見れた」作品にもならないだろう。
子供騙しに付き合ってくれるような人たちにはウケるだろうけど、そうでないところには反感買うというか、下手したら何も言わないだけで、東映サイドも水面下でゲキオコなのでは? ベルトの売り上げ次第では、バンダイ含めて非難轟々の可能性も十分ある。
雑な足し算で乗り切ろうとしたところ、大胆な再解釈をするだけの時間を取れなかったところが、本作のよくないところかなぁ……。物語を作る上で気になったところを拾ってみました。
あと一本、続きます。
最後までお読みいただき、ありがとうございます。少しでも楽しんでいただけたら幸いです。 ただ、まだまだ面白い作品、役に立つ記事を作る力、経験や取材が足りません。もっといい作品をお届けするためにも、サポートいただけますと助かります。 これからも、よろしくお願いいたします。