ハイブリッドエレクトリア第3話『森の激闘』
励とリアは崖下の森を見下ろしていた。
ここは街から車で3時間ほど走ったところにある山地である。未発見アジトと研究施設の場所を知った特別自警統括部はオートエレクトリアを放ち、各地を捜索した。結果、乾の姿は確認できなかったものの、人の生活している形跡がみられたのがこの場所だった。
「ここに乾が……」
とリアは下の森を見下ろして言った。
「その可能性は高い」――励は端末の画面を見ながら言った。「奥にバンガローが何軒かある。そこに突入するのが今回の任務だ」
近衛の特別自警統括部の部隊は数キロ後方で待機していた。部隊でハイブリッドエレクトリアの存在を知ることが許されているのはミカと隊長だけだからである。
「もっと大きな施設で、大規模な戦闘になると思っていたが」
とリアは言った。彼女はバックパックとしてシルキーフェザーを装備し、崖から飛んだ。
「じゃあ、行ってくる」
「ああ、頼んだ」
――崖下へ降り、彼女が森へ立ち入ろうとしたその時……。
「下がれ! リア!」
と励から通信が入った。
リアが急いで飛び退くと、レーザーの連射と黒い刃が飛んできた。
「ちょっと~、かわされちゃったじゃん」と元気そうな声が聞こえた。
「熱反応を探知されたようね」と年上風な声が聞こえた。
「まさか……」――リアは目を見開いた。目の前に大型エレクトリアが2体現れた。それだけではない。「コアを持っている……だと」
「コアがあるだと!」――励は通信で言った。「まさかリアと同じ……」
「それは違う」と彼女は言った。「ハイブリッドじゃない。あいつらの体にはナノマシンの気配はない」
「そうか。やはりここが当たりだったんだな」と励。
「ちょっとウノ姉なにしてるの?」
「ヴェノムエッジを拾っているのよ。トレス、あなたのレーザーと違って数に限りがあるの」
黒い刃―ヴェノムエッジを拾っているのはウノといった。彼女は黒い髪をポニーテールに結っていた。装備は以下の通りであった。
ヘッド:忍者マスク
ボディ:バーデックスーツ
リア:ガードブースター
レッグ: 妖のぽっくり
バックパック:手裏剣
右手:なし
左手:チャクラムシールド
サブ:忍者刀、スローイングタガー
そしてもう一人のトレスは金髪セミロングで以下の装備であった。
ヘッド:マルチブレードアンテナ
ボディ:サイドプレート
リア: リアレールガン
レッグ: タクティカルレッグ
バックパック:ツインブレイカー
右手:ハイレーザーライフルMK-2
左手:ハイレーザーライフルMK-2
サブ:フローズンシューター
「両手にハイレーザーライフルMK-2か、なんでもありだな」とリアは言った。「エレくん、指示はあるか?」
「ああ、装備データを送った」
リアはデータ通りの装備を生成した。何かが割れるような音と共に地面に大きな穴が空いた。そこから虹色の霧が吹きだし、リアを包んだ。
ヘッド: オウガホーン
ボディ: フォトンアーマー
リア: フォトンブースター
レッグ: メタルヒール
バックパック:シルキーフェザー
右手:フォトンコンプレッサー
左手:小型ビームシールド
サブ: フォトンブレイド
リアが物質を装備に変換する様子を見て、トレスが驚いた様子で言った。
「うっわあ。マジでマスターと同じじゃん」
「お黙り!」――ウノがトレスを殴った。「余計なことを喋るんじゃないわよ」――そしてリアの方を向いて、「さあ、エレクトリアバトルを始めましょう。ワールドチャンピオンさん」
そう言って2人は森の中へ消えた。
「エレくん、どうする? このまま戦うか、それとも……」
「奴らを避けて、乾だけを逮捕するというのは不可能だ。やるしかない」
「ああ、仕方がないか」――そう言ったリアの口元は笑っていた。「我々の力、見せてやろう」
リアが森に突入した途端、7本の拡散レーザーが飛んできた、彼女はこれを躱した。レーザーが着弾した部分の草木が氷ついた。彼女は発射元に向かってフォトンコンプレッサーを撃ち、応戦した。続いてヴェノムエッジが飛んできたが、これをジャンプしてかわした。そのジャンプした隙を狙って、ウノが陰から姿を現し忍者刀で切りかかってきた。
「そこね!」
リアはフォトンブレイドで受け止めた。
「甘いな」――そう言って、力でウノを弾き飛ばした。「お前たちの戦い方はわかった」
「やるわね」――ウノは木の幹に跳び蹴りをする形で着地し、リアの撃ったフォトンミサイルから逃げながら木から木へ飛び移り、また姿を隠した。
「どうにか炙りだせないか、エレくん、火炎放射器かICBMを使わせてくれ」
「まてまて、今、衛星からこの森の熱反応を探知している。それを送る」
リアに熱反応の位置画像が送られた。それはリアルタイムで更新されていた。
『やはり。高速近接型のウノが私の近くをウロウロしている。そして中距離射撃型のトレスがその背後にいるな』
彼女はフォトンコンプレッサーを分解し、ライトマシンガンへ換装した。ウノとトレスのいる方向に向かって、剣を薙ぎ払うようにマシンガンを乱射した。
「なに!」――ウノは自分たちのいる方向がバレたことに驚いた。急ぎ、木の陰に身を隠した。銃撃が止んだ時に顔を覗かせると、そこにリアの姿はなかった。「見失った!」
ウノは通信をトレスにつないだ。
「トレス! あいつを見失ったわ。あいつはこちらの位置を把握している。どこから出てくるかわからないわ。近距離からの攻撃に備えなさい」
「ちょ。ウノ姉! マジ!」
――リアは森の上空にいた。
「ビットやミサイルはデコイの餌食だからな」――そう言ってバックパックをガトリングパックへ、両手をガトリングへ換装した。「くらえ“一掃”射撃だ!」
森ではウノとトレスが周囲の気配に警戒しながら身を潜めていた。2人ともフォトンブレイドでの襲撃にカウンターを加えるつもりだった。が、思いがけず上空から銃弾の雨が降り注いできた。枝と木の葉が吹雪のように舞った。ウノは何発もの弾丸を受けながらも、移動で躱すことは不可能と判断し、チャクラムシールドで弾を防いだ。
ガトリングによる銃撃が止んだときには、ウノのチャクラムシールドは粉々に砕け、腰のガードブースターにはヒビが入っていた。トレスは盾を持っていなかったので全ての銃弾を背中で受け止めた。その結果、ツインブレイカーが破壊されていた。
「ウノ姉~。背中痛いよ~。多分あちこちへこんでる~」
「なんて……めちゃくちゃなやつ」と言って、ウノは立ち上がった。「ガードブースターもあとどれくらい耐えられるかわからないわね……」
上空ではリアがガトリングを既に分解し、別の追撃を加えようとしていた。バックパックはシルキーフェザーに戻っていた。
「一人、まだ動いているな。」
リアはギガブラスターを撃つべく、体中にエネルギーを貯めた。その瞬間、ウノが森から飛び上がってきた。
「これで終わりだ!」
と言ってリアがギガブラスターを発射した。が、ウノはそれをギリギリで躱して手裏剣を投げた。
「甘いわね!」
リアは体をひねって、照射レーザーを動かしたが、ウノの体をかすめただけだった。手裏剣はリアの左腕に当たった。2人は森へ墜落した。
「起きなさいトレス! 相手が落ちたわ。レーザーライフルで撃つのよ!」とウノ。
「は、はいさ!」
さかさまになって落ちるリアの目に、ハイレーザーライフルMK-2を構えるトレスの姿が映った。
『ダブルトリガーか、躱せない……』
彼女はシールドとリアクティブシールドを同時に起動させた、が6本のレーザーの直撃を受けて、彼女は20mほど木々を倒しながら吹き飛ばされた。トレスはダブルトリガーだけではなく、クイックドローも使っていた。
土煙の中、リアは立ち上がった。違和感がある。左腕の動きが悪かった。
『なんだ、回復しない? ナノマシンの物質生成による修復が働いていないのか?』
その時、励から通信が入った。
「リア! どうした。なぜ左腕を回復しない?」
励は端末からリアのバイタル状況を確認していたのだった。
「わからない。できないんだ」
「できない、だと?」
『まさか……』――励は考えた。ハイブリッドエクレトリアであるリアは人間が手で持てる銃火器程度―ロケットランチャーでさえも―ではダメージを負わない。もし傷ついたとしても瞬時にナノマシンが物質を変換し修復する。『修復が働かないとすれば、それは……』
「リア! あいつらの攻撃は受けるな。ナノマシンそのものを削られている可能性がある」
励は思い出した。特訓の時に一度だけ、リアは自身で作り出したクラブエクステンションの銃撃を被弾したことがある。その時も回復が遅かったのだ。ナノマシンは自然に自己増殖する。これは励が研究で知ったことだった。しかし、この戦闘中に元の数まで戻すには時間が足りなかった。
「わかった。当たらなければいいんだな」――リアはそう言って、装備を生成した。バックパックをアドヴァンスドシェル、右手武器をバスターブレードに換装した。「すでにやつらの機動力は奪った。このまま機動力とパワーで押す。エレくん、何かあれば指示をくれ」
「まずいわね」とウノが言った。彼女は土煙の奥にバスターブレードの刃が光るのを見たのだった。その刀身は通常のバスターブレードの倍の大きさがあった。「やはり、ハイブリッドはエネルギー出力が桁違いね」
ウノは立ち上がって、忍者刀を握った。その時、壊れたガードブースターが腰から地面に落ちた。その音に反応したリアがウノに向かって突っ込んだ。音でウノの正確な位置をつかんだのだった。
ウノはスローイングタガーで迎撃したが、リアはアクロバティックアプローチでこれを躱した。
『想定内!』とウノは思った。『アクロ後はかわせまい!』
「あったれぇ~!」と言いながら、トレスがレーザーを撃った。が、リアは空中でさらに回転し、それも躱した。
『大出力か……!』とウノは歯を食いしばった。
リアはバスターブレードを振るった。ウノはこれを忍者刀でガードしたが、耐えきれず吹き飛ばされ、木々の彼方へ消えた。
――崖の上から森を見ていた励は驚いた。
大きな金属音。鳥が一斉に飛び立つ。何十メートルにも渡って土煙を上げながら木々がなぎ倒される。青い爆発。そこかしこで光るレーザー弾。また爆発。木の幹が宙を舞う。
『こんなにも激しいのか』と励は思った。『エレクトリアが人間大になった場合の戦闘は』
端末に表示されている熱探知による位置情報も、ストロボフラッシュのように跳び跳びに位置が動いていてもはや正確とは言えなかった。リアにダメージを受けさせるわけにはいかない。自分がサポートしなければならない。
『……やつらの攻撃はリアのナノマシンそのものを削る。リアが過去に回復に支障をきたしたのはあの1回だけ……。どう考えてもやつらの装備はナノマシンで生成したものである可能性が高い。やつらはリアと違ってハイブリッドではない。だとすると、いるんだ。ナノマシン装備を与えている誰かが!』
端末の画面上に不審な赤い点が現れた。それは一瞬現れては少し移動して消える、という動きを繰り返していた。
『表示が追い付かなくて誤作動したか?』
と励が思ったその時、不審な赤い点から大量の熱反応が扇状に飛び出た。
『これはっ』――そう思った。励はすぐに通信で伝えた。「リア! ミサイルだ! 3体目が現れた!」
「ああ、そのようだな」――リアはデコイを大量に生成した。ハイブリッドエレクトリアであるリアは装備にかかわらずデコイを使える。「ミサイルは問題ない」
「やっときたわね。ノロマなんだから」と木陰にかくれているウノが言った。デコイにミサイルが当たった爆発音が響いた。「ドス! ミサイルを撃つなら高性能レーダーを起動させなさい」
通信の先でドスは「めんどくさいですね」とだけ答えた。
―ウノが木陰から飛び出し、リアの目の前に姿を現した。
「どういうつもりだ?」――リアはバスターブレードを構えた。そして、スーパーアーマーを起動させた。
「体を張って、あなたを止めなきゃならない」とウノは言って忍者刀を構えた。「近接格闘型のつらいところね」
「受けて立とう」
と言って、リアはウノに斬りかかった。バスターブレードを縦に振った。ウノは両手で持った忍者刀でそれを受け止めた。が、斬撃の重さに耐えきれず片膝をついた。そして膝をついていない方の足を、何かを蹴るように突き出した。つま先から黒い刃が飛び出した。
「なに!」――リアはシールドを張ったが、その刃、ヴェノムエッジはシールドを突き破り、リアの腹に刺さった。「油断したか!」
「今よ!」
ウノの声とともに左右から拡散レーザーが大量に飛んできた。リアは跳んでこれを躱した。が、空中でレーザーに被弾し、動きが止まってしまった。
「これは、キャンサーエクステンションの……」
リアがそう思った一瞬、今度は大量のミサイルが飛んできた。
ウノは目の前でレーザーとミサイルに被弾したリアを見た。
「ドス! トレス! 追撃よ!」―
そう言って、爆発の中に飛び込んだが、リアの姿はなかった。
リアはバックパックをフェアリーウィングに換装し、森の外へ向かっていた。レーザーとミサイルはほとんどアドヴァンスドシュルに当たり、ボディへのダメージは少なかったが、励からの「一旦、退け」という指示に従って距離を取ることにした。
「エレくん。これからどうする」
「森の外から一撃で3体を仕留める」
「なっ、まさか、アレを使うのか? ボディまで破壊してしまうんじゃないのか」
「ああ、まだこっちのエネルギーが残っているうちにやった方がいい。あいつらの武器を奪って、無力化するのが理想だったが、この際、コアだけ残っていればいい」
「……ああ、了解した」
リアは森を出た。そこでフォトンアーマーを残し、装備をすべて解除した。
『訓練では何度か成功している……。できる!』とリアは自分に言い聞かせた。『いくぞ!』
リアの周囲、半径50メートルの地面が大きな地響きとともに抉れ、虹色の霧となり、彼女の両足に集まり、渦を巻いた。それだけでは収まらず、崖のむき出しの岩盤に大量の穴が一斉に空き、そこからも虹色の霧が噴き出した。やがて霧が晴れた時、リアの足に装備されていたものは既存のエレクトリアパーツではなかった。それは、見た目はフローティングレッグに近かったが、足首に柔軟な可動域があり、地に足をつけることも可能となっていた。さらに腿裏、ふくらはぎ裏には大量の小さな噴射口が密集していた。
その新パーツは励が設計し、リアにデータとして取り込んだものだった。つまり、ナノマシン技術による新兵器であった。
リアは左足を地面にめり込ませるほど踏み込み、回し蹴りをする要領で右足を振りかぶった。右足は裏の噴射口からジェットが噴き出し、膝から下が青く輝いた。彼女は噴き出すジェットの力に対して反発して、弓をギリギリまで引き絞るように抑えていた。
『やつらが一直線に並ぶこのライン』――リアは視覚を赤外線センサーに切り替えて、森の中にいる3体を透視した。そして、森の奥のバンガローには当たらない位置で「そこだ!」と言って、右足を振りぬいた!
――「やつがいないわ!」とウノは言った。「探すのよ。まだ森の中にいるはず」
「めんどくさいですね」
と木陰から姿を現したドスが言った。彼女は褐色の肌に銀髪のロングヘアで以下の装備だった。
ヘッド:イビスオキュラス
ボディ:オメガスーツ
リア: スコーピオ
レッグ: ラミア
バックパック: キャンサーエクステンション
右手: ヘビィシールド
左手: ビーム内蔵シールド
サブ:クイックミサイル、連装ミサイル、高速ミサイル
「私は高機動型じゃないからウノ姉とトレスでやってください」――とドスが腰から伸びたスコーピオを揺らしながら言った。「私はまた地中に潜って乾とかいうやつの所に行きます。さっきも別のハイブリッドに邪魔されてイライラしてるんですよ」
「別のハイブリッドですって?」とウノがドスを見上げて言った。「お前は、何を言っているの?」
その時、遠く、森の外で地響きが鳴ったのが聞こえた。3人が空を見上げるとかすかに虹色の霧が見えた。そして地響きが止むと、今度は大きな光が森中を照らした。光源は森の外にあるらしい。光はすさまじく強く、木々の隙間を縫って、3人のところまで届いた。
「何か、おかしいわ。全員散るのよ! 一か所に固まってはいけないわ!」
ウノはそう言って奥へ走った。ドスは振り返って地中を掘ろうとした。
「ちょっと~」――トレスはそう言いながら飛び上がった。「やばいかも~」
瞬間、3人は青い光を見た。光は大木を紙屑のように散らし、地面を抉りながら迫ってきた。
――リアは両手と両膝をついて息も絶え絶えだった。レッグパーツはすでに分解していた。目の前の森はすでに半分消えていた。土煙で火こそ見えないものの、いたるところからパチパチと火の爆ぜる音が聞こえた。
「やはり……、まだ使いこなせないか……。しかし、手ごたえはあった」
「リア! やったな」と励が通信で言った。「アルティメットレッグ実戦導入成功だ!」
「ハハ」とリアは苦笑いした。「もっと良いネーミングがあると思うんだが……」
その時、リアは視線を感じた。彼女は自分の体が戦闘態勢に入るのを感じた。視線の元を探した。励がいる方とは反対側の崖の上に何かいる。一瞬、異様に背の高い、黒い革ジャンを着た男が見えた気がした。しかし、ハッキリとは確認できず、気配も消えた。
『なんだ? 今のは……』
「……」――励が何か言った。しかしリアには聞こえなかった。通信が途切れていた。
『通信がダメになったか。エレくんの新パーツの負荷に私はまだ耐えられないようだ。しかし、これであの3体は片づけた。バンガローへ行かないと』
リアはフォトンアーマーからコマンダーボディに換装し、レッグにアーミーブーツを装備した。
リアはバンガローの前についた。中に熱反応が二つあった。確定である。
『一つは乾。もう一つは大型エレクトリアだな』
彼女は右手にハイパーレールガンを装備した。EN負担のない武器である。3体との戦闘によるダメージよりも、アルティメットレッグによる一撃の反動と、エネルギー消費の方が彼女を消耗させていた。
『速攻で決める!』――リアはバンガローのドアを蹴り破った。目の前に人間大のエレクトリアの影が見えた。リアは素早い動きで、その大型エレクトリアの眉間にハイパーレールガンを突きつけた。「特別自警統括部だ! 直ちに投降……」
リアは驚いた。相手の大型エレクトリアを知っている。装備こそ違うが、すぐにわかった。それはプロトエレクトリアだった。彼女はベーシックボディにアサルトライフル1丁という装備だった。プロトエレクトリアはリアにハイパーレールガンを突きつけられながらも、アサルトライフルを突きつけ返していた。
「お前は……」とリアは言ったが、すぐに冷静になって鼻で笑った。「同時に撃てば倒れるのはお前だ。私はそんな初期型のアサルトライフルでは倒れん」
「愚かな……」と奥で倒れている乾が言った。彼は体を起こした。彼はジャンパーにジーンズという恰好で、ジャンパーの腕が血の染みで染まっていた。「本当の敵もわからないとは」
「何を言っている!」とリアは言って、左手にハンドガンを生成した。「言い訳無用だ」
「力を使いこなしているようだ。素晴らしい。目の前のプロトを見ろ。ああ、私は彼女のことをそう呼んでいる。何か、気が付かないか?」
「まさか」――リアは目の前のプロトを見た。「こいつは、ハイブリッドか! しかしこいつにはコアがなかったはず」
「そんなことではない! なぜプロトが傷だらけなのかわからんか?」
「なぜ……? 傷を……。まさか、戦っていたというのか、あの3体と」
「3体いたのか」と乾が笑った。「どうりであれだけの激しい戦いをしていたわけだ。私とプロトが見たのはキャンサーエクステンションにラミアを装備した重装型のみだ。大方、君たちはこう思っているのだろう。君を襲撃した大型エレクトリアと、ここにいたコアを持つ3体が私の手によるもので、私が復讐を企んでいると」
「黙れ!」とリアは言った。「どの道お前は指名手配犯だ。話は本部で聞く」
その時、プロトがアサルトライフルを発砲した。リアはこれを躱した。事前に引き金を引く動作を察知していた。リアはハンドガンを捨て、相手の銃口を左手で掴み、そのままプロトを蹴飛ばした。プロトは壁に激突して、倒れこんだが、床を這って、リアの捨てたハンドガンを拾った。が、リアはその拾った手を踏んで、這いつくばるプロトにハイパーレールガンを突きつけた。
「無駄だ」とリアは言った。
「お、お父さん」とプロトは言った。彼女は、手を踏んでいるリアの足を掴んだ。「お父さん、私、守る……」
『お父さんだと』とリアは思った。
「プロトは私を守ってくれている」と乾が言った。「大型エレクトリアの襲撃からも、今も。彼女の持っている武器は、大型エレクトリアから奪ったものだ。本当の敵は、君だけじゃない。我々をも狙っているのだ」
『守る……守っている……』――リアは足元でもがくプロトを見て思った。『こいつには人格がある。意思がある。そして守っているんだ。乾を。私がエレくんを守るように……』
「リア!」――通信がよみがえった。励の声だった。「リア。聞こえるか? 今どこだ? 状況は?」
「工励か。懐かしい声だ」と乾は言った。
「エレくん……。今……」
「どうした、リア。まだ通信がわ……」
「だめだ。通信が悪いみたいだ」
リアはそう言って通信を切った。
「お前」――乾は目を見開いて言った。「どういうつもりだ?」
「私は……」
その時、バンガローの入り口が爆発した。ミサイルが撃ち込まれたのである。
「乾! どこよ!」――そう言ってバンガローに突進してきたのは満身創痍のドスであった。スコーピオは先端の銃口がなくなり、キャンサーエクステンションの片腕はなくなっていた。「乾だけでも……、お前ら!」
ドスがリアとプロトに気が付いた。
「逃げろ!」――リアは2人にそう言って脚部をブラストキックに換装した。そしてドスのラミアパーツの腰を蹴り、バンガローの外へ吹き飛ばした。彼女は追撃を与えようと、外へ飛び出したが、そこには大きな穴があるだけで、ドスの姿はなかった。
リアはバンガローの中へ戻った。すでに誰もいなかった。
『逃げたか』とリアは思った。『いや、私が言ったんだ。「逃げろ」と。私が……』
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