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調子悪くてあたりまえ松本亀吉自伝_9

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夏の短編
2012-
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会社の転勤で、2009年から2012年まで東京で暮らしたんだけど、ちょうど一致することがあるんだよね。「Tomato n' Pine」っていうガールズ・グループの活動期間と同じなんだ。

単身赴任のさびしい夜、おれは渋谷の山下書店で小池唯さんの写真集を買った。キュートな水着ショットが満載で、興奮して、mixiに「めちゃくちゃ可愛い」と投稿すると、吉田豪さんから「小池唯といえばトマパイですよね」とコメントが入った。「トマパイってなんですか」と返信すると、インストア・イベントの動画をシェアしてくれた。それがトマパイことTomato n' Pineとの出会いだった。

豪さんと吉祥寺駅で待ち合わせて、トマパイが出演する「EXTRAVE!!!」というイベントを観に行った。東京女子流、プー・ルイ、小桃音まい、Negiccoなども出演していて、メイン・アクトは、ぱすぽ☆だった。いま調べたら2010年の11月28日。おれは豪さんに、トマパイのプロデュースをしていたジェーン・スーさんを紹介してもらった。

スーさんは、トマパイの新曲お披露目イベントに招待してくれたり、リリースのたびに音源データやサイン入りCDを下さったり、二度もインタビュアーに起用してくれたりして、お世話になった。書かれる歌詞もお話もめちゃくちゃおもしろくて、信頼できる方だったから、エッセイストやラジオ・パーソナリティとして活躍されているのを見ると、うれしくなるね。

あと、豪さんは、制服向上委員会で知られるアイドルジャパンレコードが主催する評議会みたいなものにおれを巻き込んで「A.I.S.A.」という配信イベントのMCをさせてもらった。一回だけだったけど、初台DOORSからの四時間の生配信に出ずっぱりで、いろんなアイドル・グループを間近で見れて、すごく楽しかったっけ。

配信といえば、宇川直宏さんのDOMMUNEにも何度か出演させてもらった。宇川くんは高松出身で、画家でDJのキングジョーと高校の同級生。キングジョーはおれが面接して採用した会社の後輩で、今も毎日ずっとチャットしてる親友だ。

DOMMUNEは、最初は五所純子さんの「味平」という番組にゲストで出させてもらって、二人で麻婆豆腐を作るという不思議な配信をしたっけ。

こんがりおんがくというレーベルの立ち上げイベントを企画して、DOMMUNEから配信したこともあった。DODDODOさんやオシリペンペンズのライブとトークショー。これはおれの功績だと思ってるんだけど、DOMMUNEに初めてドラム・セットを持ち込んだのは、このときのペンペンズなんだよね。

「カメキチ・ミュージック・フェア」という番組は2011年4月25日。大好きな平賀さち枝さん、豊田道倫さん+久下惠生さんという強烈なユニット、吉祥寺で豪さんに紹介してもらってたNegicco、クリトリック・リスというメンツで、トーク・ゲストとしていろんな方に飛び入りしてもらった。くましあんさんがブログにレポートしてくれていたので、そのカオスっぷりを読んでみてほしい。ほんとはトマパイのイベントをDOMMUNEでやりたかったんだけど、小池唯ちゃんがドラマの収録で忙しくて、スケジュールが合わなかったんだよねぇ。

こういうことを思い出すと、会社の仕事で疲弊していた東京単身赴任生活も、けっこう楽しんでた気がする。そして、この期間、いちばん世話になったのが、大阪時代からの盟友・MTこと豊田道倫さんなんだよね。

残業してて、会社を出た瞬間にMTから電話がかかってきて「晩メシ行きませんか」ということがよくあって、渋谷か目黒で待ち合わせた。食事しながら、おれが会社での激務を嘆くと、当時、車の運転に凝ってた彼は「朝晩車で送り迎えしましょうか」と冗談を言ってたっけ。

このころは「パラダイス・ガラージを聴いて育った世代」が成熟してきた時期で、いわば「パラガ一派」みたいな、MTシンパの若手がシーンに登場し始めたんだよね。昆虫キッズ、どついたるねん、カミイショータさん、スカートの澤部渡さん、大森靖子さん、大橋裕之さん、岩淵弘樹さんとかね。

つい先日、久しぶりに北村早樹子さんに会ったとき「パラガ一派で売れてないのは、私とMARKさんだけや」と嘆いていたけど、いやいや、みんな個性的な活動を続けていて頼もしいし、おれは面白い時期に東京にいたんだな、と思う。

おれは、いろんな悩みを、MTにだけには打ち明けていたんだけど「久しぶりにパラダイス・ガラージ名義でライブをやるので、松本さん、その悩みをラップで披露してください」という、彼らしい方法で励ましてくれた。

2012年10月31日、下北沢シェルター。タテタカコさんと後藤まりこさんがフロアを温めたあとに登場したパラダイス・ガラージのステージを終えて、おれは「東京でやりたいことは全部やったなぁ」と思ったんだ。

副社長に昇進してた田村さんに「自分も妻も精神的にまいってきたので、名古屋に帰りたい」と伝えると、「そんなことは早く言ってください」と言われて、すぐに転勤の手配をしてくれた。おれはいつも上司に恵まれてるんだよね。

MTが、たくさん友人を呼んで、新宿で盛大な送別会を開催してくれたのもうれしかった。みーくん、いつもありがとう。

2012年12月に愛知県東海市の自宅へ戻り、三度目の名古屋着任となった。
おれの転勤歴をおさらいしておくと、大阪で入社して、名古屋、東京、大阪、名古屋、東京、名古屋。東名阪を二往復半したことになる。もう転勤はない、と例の、おれのこと大好きな人事担当役員が言ってくれてるので、おれは70才の定年まで、USEN中部支社に居座るつもりだ。

ところで、Googleで「松本亀吉」って検索すると「他のキーワード:Perfume事件」って出てくるんだけど、せっかくの自伝だから、おれが引き起こしたその事件について、頼まれもしないのに、真相を語っておこう。

単身赴任の休日はヒマなので、当時流行してたUSTREAMを使った自宅配信をときどきやってたんだ。ウェブ・カメラとiPodをパソコンに繋いで、深夜ラジオのディスクジョッキーみたいな気分で。見てくれている人は多くても30人ぐらいだったと思う。イルリメこと鴨田潤さんに部屋へ来てもらって、ギターの弾き語りを配信したこともあった。

2011年11月の土曜の夜、いつものように適当にトークしながら、お気に入りの音楽をiPodから流してたんだけど、雑誌のレビュー用に出版社から預かったPerfumeの新譜をインポートしてたので、そのアルバムからいちばんキャッチーで好きな曲を、何気なく再生したんだ。それが、いわゆる「オンエア解禁前」の楽曲であると気づかされたのは、翌々日、月曜の夕方。

そのプロモ用CD-Rをおれに貸し出した出版社の編集長から電話があって「亀吉さん、土曜のUSTREAMの動画を今すぐ削除してください」と言われた。おれは会社にいたんだけど、USTREAMのマイページにアクセスして驚いた。いつも数十アクセスしかないのに、土曜の動画だけ1900回ぐらい再生されてたんだ。おれはありったけのお詫びコメントを入力して、動画を削除した。どうやら、2ちゃんねるに「解禁前のPerfumeの新曲を無断で流してるアホなライターがいる」という感じで、リンクを貼られたようだ。これが「松本亀吉 Perfume事件」。

ルールを破ったつもりはなかった。楽曲をダウンロードできるようにしたわけでもなく、音質はモノラルで、フルレングスでもない。しかし、悪気があったとかなかったとか、フォーマットがどうとかいう問題じゃなくて「解禁前の作品を流布した」という違反はひたすら重篤で、おれは出版社の編集長と顧問と一緒に、所属事務所とレコード会社に出向いて、お詫びをした。

ただのお詫びでは済まない感じだったので、おれは「もう二度と雑誌に文章を書かない」という誓約を記した始末書を持って行って、渡した。レコード会社の部長さんは、おれの過去の記事を知ってくれていて、慰留するような話をしてくれた。その部下で、担当だった社員さんは、もう目も合わせてくれなくなってた。所属事務所の執行役員さんは、強硬かつ厳しい対応で「一旦預かるが、追って社としての措置を下す」と言われた。10年経つけど、まだ下されてないね。

この騒動の渦中で、親身になって相談に乗ってくれたのが、アイドル・グループ「JK21」の取材で知り合った、ACT-21の社長の竹田裕子さん。渋谷の焼鳥屋でごちそうしてくれて、俳優の嶋尾康史さんもいらして、励ましてくれたっけ。こういうのって忘れられないね。

実際、この事件で「おれは不特定多数の人々に確かな情報を発信するには値しない人間だ」と、ようやく気づいて、誓約書どおり、商業誌に文章を書くことを一切やめようと決めた。

決めたはずなんだけど、2014年にもう一回けっこうな炎上騒ぎを起こしてるんだよね。おれは、頭がおかしいのかもしれないねぇ。

もう書かないと誓約したくせに、ペンネームを変えて、ある音楽情報サイトに定期的な寄稿をしていた。しかも、バレないように「大阪出身の27才OL」というキャラ設定をしていたから、悪質だ。いま検索したら、その筆名での記事がいくつか残ってるので、名前を伏せておこう。

で、そのサイトで「2013年の紅白歌合戦の全曲レビューを元旦にアップする」という企画を提案して、実際に掲載されたんだ。しかし、その内容が不誠実で、ふざけている、と。音楽ニュースを扱うサイトとして、ひどすぎる、と。TwitterやFacebookでめちゃくちゃに酷評されたんだ。元日だったから、みんなヒマだったんだろうね。

いちばん激しく反応したのは、某ライバル音楽サイトの社長のO氏。それから、Aで始まるバンドのGという人。O氏に批判された意味はよくわかったんだけど、いまだに解せないのはGだねぇ。紅白に出てたアーティストに批判されるならわかるけど、おまえ出てないじゃん。

今だからこんなふうに話せるけど、当時はサイトへのクレームやスポンサーからの良くないリアクションもあって、編集担当の方や、サイトの代表者である社長にも非常に迷惑をかけてしまったので、猛省した。もちろん、そのサイトには、この騒動以降、一切寄稿していない。

Twitterで、読者の反応をリアルタイムで見てたんだけど「胸糞悪い」「失礼すぎる」「寝言は寝て言え」「誰でも書ける」「音楽レビューにおける悪手の見本市」「まさかこんなので原稿料もらってるの」など、辛辣なコメントばかりの中、測ったように、20件に1件は「めちゃ笑った」とか「はげしく同意」とか、好意的なツイートが混じっていて、あぁ、おれのおもしろさ、世界の5%の人には届いてるやん、と思ったね。

では、3日間だけ公開されたのちに削除された、その問題の記事を全文再掲しよう。この自伝の読者のみなさんが、おもしろいと思ってくれる5%の人たちでありますように。

「紅白の“真の優勝者”は綾瀬はるかだった!?
どこよりも早い全曲レビュー」


新年あけましておめでとうございます。突然ですが「第64回NHK紅白歌合戦」、全曲目の感想をなぜか急いで書きます。ご覧になっていた方も、録画してこれから観るという方も「どこよりも早い全曲レビュー!」ってことなので、どうぞ慌てて読んでください。
1. 浜崎あゆみ 「INSPIRE」
歌詞がひどく平凡で「ブログに書いておけばいいんじゃないのかな」と思うレベルですが、かつて中傷の対象だった歌唱力が如実に復調しているように思えました。一時代を築いた大スターに対する感想とは思えませんが率直に「歌がうまいな」と思いました。歌い終わったあとの「ありがとうございましたっ」という挨拶が体育会系で清々しかったです。
2. Sexy Zone 「Sexy平和Zone組曲」
一曲一曲を知らないのにブツ切りにメドレーにされているから正直よくわからないのですが、キャッチーで、あとルックスがめちゃくちゃ可愛い男の子たちだということはわかりました。紅白って、今はなきフジテレビの『新春かくし芸大会』の要素も盛り込まれてきているのかもしれないですね。
3. NMB48 「カモネギックス」
司会の綾瀬はるかの様子がおかしい。どうにもテンポがズレていて、でも、そこが良いです。この曲はちょっと古臭くて荻野目洋子でも出てきそうなユーロビート洋楽カバーみたいなテイストですが、こういうのEDMっていっちゃうんですかね。おもしろいけど起伏に乏しく、いつの間にか終わっちゃう感じ。そもそも紅白っていつからフルコーラスじゃなくなったんでしょうか。1.5コーラスって感じですよね? 日本の放送界でもっとも注目される音楽番組でこれは由々しき問題で、改善の余地があるのでは、と思います。
4. 細川たかし 「浪花節だよ人生は 2013」
NMBを従えた細川さんの定番曲。相変わらず目が笑っていなくて、私この人、昔っからすごく怖いんです。2013と副題の付いたリミックス・バージョンはカラオケ業者さんなら20分で納品しそうな超テキトーなトラックで、めちゃくちゃ軽い印象でした。
5. 徳永英明 「夢を信じて」
可愛くて不思議な声の徳永さん。何とも落ち着きます。なぜこんなに落ち着くのでしょう。理由がわかりました。バックダンサーがいないからです。全組こういうシンプルなステージが良いなあ。
6. 香西かおり 「酒のやど」
演歌もフルコーラスじゃないんですね……。もはやテレビ番組にフルコーラスという概念はないのでしょうか。この曲の詩情は美しいですが「さすらいの酒をのむ」「こぼれ灯の酒の宿」って、とにかく酒飲みすぎでしょう。
7. 郷ひろみ 「Bang Bang」
これもかくし芸大会なんですよねえ。郷ひろみなんだから歌だけ見せてほしいです。しかし、この曲、初めて聴きましたけど、すごくバカバカしい曲で笑ってしまいました。なんの主張も叙情もありません。「Bang Bang」って言いたいだけ。いやー笑った。
8. E-girls 「E-girls 紅白スペシャルメドレー2013」
なんだか六本木ロアビルのネットカフェで時間つぶししてる感じのお姉さんがたくさん出てきました。楽しそうな歌を元気に踊っていました。紅組司会の綾瀬はるかがまだ緊張しているようでおもしろいです。
9. 三代目 J Soul Brothers 「冬物語」
非常に凡庸な詩の世界に、いかにもそれらしい旋律と、紋切型の発声法。すべてが使い回しで新しい要素が一切ありません。私はこういう音楽に価値を感じません。
10. 伍代夏子 「金木犀」
AKBのみなさんがバック・ダンサーで、また賑やかなことでございます。歌はよく聞いていなかったのですが、なんだかやけに「待つ女」を強調されていたようです。
11. AAA 「恋音と雨空」
「あまちゃん」に関する寒々しい茶番が非常に長くて疲れました。AAAは西島隆弘くんが可愛くてたまらないです。ちゃんと構成された曲で、男女パートの歌、ラップのブリッジも展開が小気味よく、好きになりました。しかし、この曲が好きで、三代目 J Soul Brothersには価値を感じない私。その違いはいったい何なんでしょうね。今年ゆっくり考えます。
12. 福田こうへい 「南部蝉しぐれ」
民謡歌手ご出身で、さすがの歌唱力。歌に向き合う姿勢の強さ、声量の豊かさ。素晴らしい歌手だと思うのですが、「いかにも」な演歌で、もう完全に形骸化した、演歌のミイラみたいな曲で、その素質がすごーくもったいない気がしました。
13. 藤あや子 「紅い糸」
ここで壇蜜登場! 秋田美人共演! 歌詞も「あ~ あ~ あ~」と性的な連想をさせるところがあり、一気に官能的な世界へ。壇蜜、お尻半分ぐらい出すかと思いましたが、ひとしきり舞っておとなしく帰っていきましたね、残念。
14. サカナクション 「ミュージック」
クラフトワーク・スタイルの全員ラップトップ並びからバンド編成への早変わり。ライブに定評ありフェスでも大盛り上がりのサカナクションですが、紅白の短い持ち時間では魅力が伝わらなかったですね。まるで気合いが空回りしてしまったように見えてしまって、ファンとしては少し残念な気がしました。
15. miwa 「ヒカリへ」
ぜんぜん知らない人です。サカナクションがいまいちだったなあ、と思ったのは、こんなぜんぜん知らない女の子のぜんぜん知らない曲のほうがサカナクションよりも盛り上がってる気がしたからです。期せずしてサカナクションの浮きっぷりを際立たせてしまったような……。miwaちゃんにはなんの罪もありませんが。
16. ポルノグラフィティ 「青春花道」
このサイトの編集長から「紅白実況、どうしますか。時間との勝負です」とメールが来ました。「え? 実況ですか? わたし全曲感想書く、とは言いましたけど、実況だとは思ってなくて、今もメモ書きながらのんびり観てます」と返信。メールのやりとりをしていたのでポルノグラフィティを観ていませんでした。
17. 天童よしみ 「ふるさと銀河」
ふなっしーの放送コードギリギリレベルで狂っている感じと、綾瀬はるかのまったく雰囲気を読まない声の張り具合で紅白史上稀に見るカオス。やはりこの原稿は「実況」ではなく「全曲の感想を書き終わった時点で元日にアップする」とのこと。よかった。メールの返信を読んでいたので、残念ながら天童よしみのステージを観ていませんでした。
18. Linked Horizon 「紅蓮の弓矢 [紅白スペシャルver.]」
世相にまったく疎い私は「進撃の巨人」とやらもぜんぜん存じ上げないのですが、一世を風靡している作品の主題歌にしては、声が細くて、近藤真彦さんがサングラスしているのかと思いました。「なぜこの作風で水木一郎ではダメなのか?」と思ってしまいます。
19. 水樹奈々×T.M.Revolution
 「-革命2013- 紅白スペシャルコラボレーション」

熱い。熱さもここまでくると気持ちいいですね。この暑苦しさ、プロフェッショナルです。
20. SKE48 「賛成カワイイ」
キムタクのフリートークの安定感と、まったく安定しない綾瀬はるかの司会っぷりに軽く感動しながらSKE。SKEの2013年は大量卒業で始まった苦難の年でしたが、こうして紅白に出れて良かったですね。小木曽ちゃん、秦さん、どうしているかしら。この曲は某カレーチェーン店でよく聴きました。トマトアスパラを1辛で。
21. 森進一 「襟裳岬」
「襟裳の春はなにもない春です」と言っているのに、これだけ歌い続けられているのは素晴らしいことです。なにもないがゆえに聴き継がれているのでしょう。
22. 坂本冬美 「男の火祭り」
一方、冬美さんは、かなり唐突にあっぱれあっぱれと歌いだし、大地の恵みに千年萬年などと、頭がおかしくなったかのようです。「襟裳岬にはなにもない」と歌ってた森さんとはすごい温度差です。
23. コブクロ 「今、咲き誇る花たちよ」
オリンピック関係の曲みたいです。最初の四小節にありったけのポジティブな言葉を詰め込んでいます。こんな説明的で直接的な歌詞で自分を鼓舞できるリスナーの文学的素養の低さを憂うばかりです。軽率で空虚な言葉の羅列が聴く者の想像力を拒否しています。背の高いほうの人のルックスや歌い方に玉置浩二の要素が入ってきています。
24. EXILE 「EXILE PRIDE ~こんな世界を愛するため~」
なんだか最近の男の子がチンピラみたいな格好をしてるなあと思ったらこの人たちの影響なのですね。きっと心根はいい子たちばかりなのでしょうけど、わたしはちょっとタイプじゃないです。「手繰り寄せたその絆がROCK PRIDE」と繰り返し歌われるのですが、タイトルは「EXILE PRIDE」ですよね。手繰り寄せた絆ってほんとは「EXILE PRIDE」なんじゃないですか? 「ROCK PRIDE」でいいの? どっちでもいいの? はっきりしたほうがいいと思います。
25. ももいろクローバーZ 「ももいろ紅白2013だZ!!」
昨年は早見あかりに向けた隠されたパフォーマンスでファンを感涙させたももクロちゃん。個人的なことですが、今、紅白でももクロ観て気づいたんですが、わたし2013年一秒もももクロの曲を聴いてなかったです。これはいけないですね、有線放送が全チャンネル聴けるアプリが出たらしいので今年はそれで新譜を聴くようにします。
26. ゴールデンボンバー 「女々しくて」
仕込まれた体操選手がメンバーに扮して鉄棒をグルグル回るというおもしろいネタだったようです。誰しも感じたことだと思いますが、体操選手の割に着地が普通だったのではないでしょうか。微妙なオチだろうがなんだろうが、綾瀬はるかは容赦なく「はい、ありがとうございました!」と切り上げます。もう今年の紅白は綾瀬はるかの優勝でよいと思います。
27. aiko 「Loveletter」
素晴らしい歌詞と力強いaikoのステップ。「ラブレターをもらった」っていうだけのシチュエーションなんですよ。それなのに、なぜ、こんなに物語を感じさせるのでしょうか。イマジネーションを刺激する素敵なレトリック。それを瑞々しく再現するaikoの歌。すごい。愛しい。眩しい。初めて聴いたのですが、泣いてしまいました。
28. 氷川きよし 「満天の瞳」
可愛いきよしくん。でも曲は抽象的で何を言いたいのかよくわからないです。
29. 西野カナ 「さよなら」
可愛いカナちゃん。歌詞は失恋した女の子のブログ・レベル。きよしくんの「満天の瞳」と歌詞を入れ替えても成立しそうな気がします。
30. TOKIO 「AMBITIOUS JAPAN!」
20回目の出場ですって。若々しいですね。曲については記憶に残っていません。
31. 和田アキ子 「今でもあなた」
「愛の鼓動は死ぬまで続く」ですって。鼓動はたいてい死ぬまで続きます。歌詞についてグダグダ文句を書いてきましたが、これ、決定版でしょ。なんじゃこの歌詞。「命とは道筋」って何? もうほんとに心に響かない適当な言葉の羅列を歌詞と呼ぶのやめましょうよ。そろそろ阿久悠先生が化けて出てきますよ! 80~90年代に面白い歌詞を書いていた先生たちはどこへ行ってしまったんでしょうか。この曲の作詞は秋元康さんだそうです。
32. DREAMS COME TRUE 「さぁ鐘を鳴らせ」
陸前高田からの素晴らしいライブ中継でした。歌詞に込められたのは、絶望を受け入れたうえで鳴らされる、それぞれの鐘の温かさ。振り上げた腕から、声から、伝わってくる歌の力を実感しました。このシチュエーションで、この町で歌われる、吉田美和のパワーに感涙しました。マイケル・ジャクソンみたいな無駄なシャウトがなければ完璧でした。
33. 関ジャニ∞ 「紅白2度目!  呼ばれて飛び出てじぇじぇじぇじぇ!!」
とても鑑賞する気になれない軽薄なタイトルなのでトイレに行っていました。逆にこのタイトルに惹かれる人の意見が聞きたいわ。
34. きゃりーぱみゅぱみゅ
「紅白2013きゃりーぱみゅぱみゅメドレー」

宇野維正さんが書いてた「もったいないとらんど」の解説が秀逸だったなあ、と思い出しました。この曲はほんと圧巻です。でも、前半の「にんじゃりばんばん」はいらない気がしました。なぜわざわざメドレーにするのでしょうか。
35. 五木ひろし 「博多ア・ラ・モード」
粘っこい声だなあ。こんなに粘る必要があるのだろうか。もはやオートチューンの域。「ITSUKI」っていうモードのボコーダーとかありそう。舞台が博多である必要性をまったく感じない。そもそも「ア・ラ・モード」ってどういう意味だっけ。”フランス語で「流行」「洗練されたもの」の意。英語では「アイスクリームを添えた」という意味”とのこと。ますます意味わからん。
36. Perfume 「Magic of Love」
世界を震撼させた、例の白い衣装にCGを投影するパフォーマンスを軽く再現した感じでしょうか。Perfumeこそメドレーにして数曲ノンストップ・ミックスで聴きたいと思いました。
37. ゆず 「雨のち晴レルヤ」
工夫のない歌詞と作編曲で、まったく感心しませんでした。
38. 水森かおり 「伊勢めぐり」
小林幸子の巨大衣装枠を引き継いだようです。NHKの予算は欧州の宇宙開発関連の予算よりも高いと聞いたことがあります。水森かおりを1mでも高く持ち上げるためなら国民は全員受信料を払うべきでしょう。ウソです。受信料を払う気を削ぐような悪趣味なステージに伊勢神宮は抗議すべきでしょう。
39. 石川さゆり 「津軽海峡・冬景色」
石川さゆりさんって何才でしょう。首筋や喉あたりを見ると老けた感じもしますが、声や表情だけを見ているとぜんぜん可愛いです。検索しました、55才。素晴らしい美貌に感動です。島倉千代子さんが亡くなり、松原のぶえさんも闘病されている番組を見ました。さゆりさんはお元気そうで良かったです。
40. 美輪明宏 「ふるさとの空の下に」
去年「ヨイトマケの唄」で話題を攫った美輪さん。今年の歌はなんだか救いようのない感じで、しかも説明的で長い。「やっぱりヨイトマケの唄はすごい」と再認識させてくれた。細川たかしなんか毎年「浪花節だよ人生は」なのですから美輪さんも毎年「ヨイトマケの唄」でお願いします。
41. AKB48 「紅白2013SP~AKB48フェスティバル!~」
胃もたれするような音楽が続く中で歌われた「恋するフォーチュンクッキー」の爽快さはやはり出色です。どれほどの数のメンバーが踊っても入山杏奈の美しさは際立っていますね。大島優子の卒業宣言がサプライズだったようですが、私の心は1mmも揺れませんでした。数日前の私立恵比寿中学から三人が転校するニュースのほうが何倍も衝撃的でした。
42. 福山雅治 「2013スペシャルメドレー」
台湾からの中継だそうです。稀代の美男子ではありますが、正直なにを伝えたいのかよくわからない曲を恩着せがましいトーンで歌うので、時間の無駄だなあと思いました。
43. 泉谷しげる 「春夏秋冬2014」
この曲、ずっと何が言いたいのかよくわからなかったんですが、泉谷さんの説教じみた言葉でなんとなく意味がわかりました。「明日から頑張ろうぜ」ってことですね。オルタナっぽいアレンジもかっこよくて、素晴らしいステージだったと思います。
44. いきものがかり 「笑顔」
構成が単純な曲で、なんと評していいかわかりません。ボーカルの女の子の顔が会社の後輩にそっくりだなあという感想とともに「ポップスってこんな感じでいいんでしたっけ」という根源的な疑問が湧き上がります。
45. 嵐 「New Year's Eve Medley 2013」
嵐もEDM寄りの楽曲でコレオグラフィが凝っているのですね。いかにもアイドルって感じで好感が持てます。わたし、EXILEとかより嵐が好きです。
46. 松田聖子&クリス・ハート
「New Year's Eve Special Love Song Medley 2013」

聖子ちゃん肌ツヤッツヤ! クリス・ハート日本語ペラッペラ! まったく場のトーンを無視して切り込んでくる綾瀬はるかの曲紹介。いろいろ面白いシーンでした。聖子ちゃんはメドレーが嬉しいですね。この人は人間国宝に認定されるべきだと思うのです。
47. 高橋真梨子 「for you...」
紅組のトリは有名な旋律のバラードです。「あなたが欲しい、あなたが欲しい」と連呼する、欲情しきったセックスの歌です。「もっと奪って私を」「すべてが欲しい」など下品な官能小説のようなフレーズをロマンティックに歌っているのは少し滑稽に見えます。
48. SMAP 「Joymap!!」
ぜんぜん知らない曲でしたが出場歌手みなさんを巻き込んで会場が一体となった感じでハッピーでした。いつもの「世界に一つだけの花」でナンバーワンを諦めた感じの年越しにならなくて良かったのではないでしょうか。
49. 北島三郎 「まつり」
50回目の出場で今回を最後に紅白を勇退するとおっしゃっている大師匠をあんな大きな龍の首に乗せて高いところをブンブン振り回してドキドキしました。最終的に着地して歌われていましたが、ほんとうは最初からきちんと地面で歌いたかったのではないでしょうか。

さて、長々と語ってきたこの自伝をそろそろ終わりたいと思うんだけど、いろいろ振り返っているうちに、悲しいことだけど、多くの大切な知人を亡くしていることに気づいたんだよね。

『ロック・マガジン』で高校生のおれの魂を揺さぶり、アティテュードを決定づけた、田中浩一さんが2010年8月に亡くなった。田中さんは大阪で高校教師として勤めながら、画家や歌人としても鋭い異才を発揮していた。森山雅夫さんを介してお会いして『溺死ジャーナル』にも、ちょっととんでもない原稿を書いてくれてた。亡くなる前日、おれは田中先生の個展のエキシビションにWEDNESDAY_EVEで出演していたんだ。突然の訃報はライブの打ち上げ中に届いて、メンバーみんな絶句してしまった。そのときのことをブログに書いていたので、リンクしておこう

『クイック・ジャパン』でコンビを組んで「馬亀時代」という連載をしていた、Dragon Ashのベーシスト・IKUZONEこと馬場育三さんが亡くなったのは、2012年4月。最初の東京生活で悩んでいたころにすごくお世話になって、奥さんと一緒に今でも感謝してる。馬場さんのこともブログに書いてたので読んでもらえるとうれしいな。最近になって馬場さんのインスタグラムのアカウントを発見して、フォローしたんだ。いつかふと更新されるような気がするんだよね。

2012年10月。まぐろPCCBHSのギタリスト、というよりASKA TEMPLEとして活躍した孤高のミュージシャン・弓場宗治さんが亡くなった。通夜で明日香村へ行ったんだけど、同学年の彼の死は、いまだにピンときてないんだ。きっと彼が未来の音楽を演奏していたからだと思う。彼は百年後にブレイクする未来のスターだと、おれは本気で思ってる。今、円盤あらため黒猫の田口史人さんと、彼の音源をレコードでリリースする計画をしてるんだ。

2000年以降のおれの交友関係を劇的に拡張してくれたのは、インターネットBBS「亀吉掲示板」、通称「亀板」。その開設者の長澤彩さんが長い闘病の末に帰天されたのは、2014年6月。99年に突然電話をくれて「亀吉さんの掲示板を作ってもいいですか」と言われたんだ。「掲示板ってなんですか」と聞き直したのを覚えてる。馬場育三さんもそうだけど、亀板がなければ出会えなかった友人が、ほんとに、たくさんいる。聡明で、美しくて、エネルギッシュで、みんな彩ちゃんが大好きだった。

太田出版の編集者で『歌姫2001』を担当してくれた大塚幸代さんが2015年3月に亡くなった。99年から2000年にかけて、大塚さんとは毎日メールで打ち合わせしてたように思う。おれが初めて東京で部屋を借りたとき、三軒茶屋の不動産屋についてきてくれて、二人で住むカップルだと誤解されたスイートな思い出がある。馬場さんと一緒に、野方に住んでた大塚さんの部屋にお邪魔したこともあったっけ。ライターとしても活躍していたから、もっと長生きしてほしかった。

雨宮まみさんが亡くなったのは、2016年11月だった。彼女が『溺死ジャーナル』に寄稿してくれたとき、ただのコピー綴じ紙屑だったミニコミが、花の咲いたように美しい文芸誌になった気がする。おれのブログの、このエントリの下のほうに雨宮さんとの思い出を綴っているので、ぜひ読んでみてほしい。

ちなみに母、松本不二子が他界したのは2015年の10月。晩年は介護施設に入れっぱなしで、ろくに面会にも行かなくて、ずいぶん親不孝をした。老人ホームで老衰で亡くなったので、最後は病院の世話にもならず、江戸っ子らしい、見事な去り際だった。ずっと言われてたとおり、骨壺からちょっといただいた骨を砕いて浅草の言問橋から隅田川に撒いといたよ。丈夫な身体に産んでくれて、ありがとう。自律神経はちょっと乱れがちだけどね。

最後の最後に、すごく平凡なことを言ってしまうけど、死別した人にはもう会えない。だけど、いつでも思い出すことができる。もう言葉を交わすことはないけど、会話は無限に想像できる。故人は、おれたちの記憶の中を自由に往来することができる、より身近な存在だと言えるかもしれないね。知らんけど。

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というわけで、近田春夫さんの著書『調子悪くてあたりまえ近田春夫自伝』を真似して、口語体で綴ってまいりました本稿、これにて終了でございます。
振り返ってみますと、大した半生ではありませんでしたが、大きな病気もせず、ここまで過ごせたことを、関わってくださったすべての皆様と家族に感謝いたします。
いつかnoteに続編を記せるように、引き続き、おもしろおかしく暮らしていきます。
またお会いしましょう。

読んでくださって、ありがとうございました!!!!!

2021年4月18日
松本亀吉拓也


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