こっくりさん
「こっくりさん、こっくりさん。おいでください……」
教室に響く三人の声。夕暮れ時、机を取り囲んで立ちすくむ少女。
まさに彼女たちはこっくりさんを呼び出そうとしていた。
狐の神様や、妖怪、または幽霊などなど……。
都市伝説としてはかなり有名で、そしてかなり古いものだと思っていたが、彼女たちは手作りの紙の上に十円玉を置いている。
「こっくりさん、こっくりさん。おいでくださったのなら、はいの方へ十円玉を動かしてください」
三人の指が乗った十円玉は、するすると【はい】へと動いていく。
「えっ、ほんとに動いたよ……ど、どうしよぉ……」
「こっくりさんって、ほんとにいるんだねっ!すごーいっ!」
「わかんないよ、もしかしたらこの中の誰かが動かしたかも」
「それはないでしょ、みんな力抜くって約束なんだから」
「と、とりあえず質問、しよぉよぉ……」
じゃんけんで負けた順からという約束を守る彼女たちは、ある意味義理堅いのだろう。
「じゃあ一番だねっ! 私は三森あや。私の質問は、次の英語の小テストはいつですかっ?」
【あ】【し】【た】の順で動いていく十円玉。
彼女たちは驚いた顔を隠しきれない。
「ちょっとあや! それホームルームで先生言ってたじゃない!」
「だってー、寝てたんだもんっ」
「ったく……。でもちゃんと当たってるじゃない。ちょっと期待できそう。次は私ね」
「私は結城まり。私には好きな人がいるんだけど、どうしても告白する勇気がありません。どうしたらいい?」
【だ】【か】【ら】
「えっ……」
「きっとやめといた方がいいってこと、じゃないかな」
「好きなのになぁ」
「当たって、砕けろぉ、的な事じゃないのかなぁ」
「ふんっ、まあいいわ。次いこ」
「あ、あのっ……木本うらら、ですっ。あ、あのあのっ、えっとぉ……」
【お】【ね】【が】【い】……
「なにっ!?」
「まさか、誰か動かしてるんでしょ?」
「わ、私何もしてないよぉ……」
「勝手に動いていく……」
【み】【つ】【け】【て】
「いやーっ!!!」
甲高い叫び声と共にパッ、と指を離したのはまりだった。
まりはそのまま尻餅をついて、二人も指を離してまりに近寄る。
「だ、大丈夫……っ?」
「いい音したよ、今っ! まり、立てる?」
「いたた……。なんなのよ、一体。っていうか、指離しちゃったわよ」
「もう一回指を置いて、帰ってもらったらいいよ」
「そうしよっ! ナイスアイデアっ!!」
「こっくりさん、こっくりさん。お帰りください……」
十円玉に乗せられた四本の指が、するすると【いいえ】へ向かっていく。
三人は夕暮れ時の廊下を歩きながら、それぞれの帰り道を歩く。
こつ、こつ。ぺた。
こつ、こつ。ぺた。
余計にくっついたその足音と共に。
『ーーでは、次のニュースです。
今朝、○○県○○市で、○○高校の女子生徒三人が事故に巻き込まれ亡くなった事件で、彼女たちはクラスメイトをいじめていた主犯格だったことが明らかになりました。
三人の日記やスマートフォンから、【足音がひとつ余計に聞こえる】【確かに三人だったのに指が増えていた】などの記述が見つかり、いじめの被害者が一年前の今日に亡くなっていることから、被害者家族が復讐のために起こした事件に巻き込まれた可能性も視野に入れながら、警察は捜査を進めています。ーー。』
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